その搦手軍が歩を進めていく途上、多くの武装したものがその軍に新たに加わっていく。
畿内に住する武士たちが郎党を従えて搦手軍大将軍源義経に参軍の意思を伝え、その義経率いる軍の中に加わっていくのである。
その畿内の武士達を吸収しながら義経率いる鎌倉勢は宇治川沿いを進む。
少なくない兵を引き連れた軍が義経率いる軍勢に続く。
鎌倉勢友軍甲斐源氏安田義定率いる軍である。
彼等も続々と宇治を目指す。
彼等が宇治にかなり近づいた頃、鎌倉勢の主力大手軍は勢多へと接近していた。
大手軍を率いるのは大手大将軍源範頼。
海と見まがうほどの巨大な湖琵琶湖を右手に見つつ範頼らは勢多を目指す。
彼等が勢多に到着したときには、かれらが都へ進むための勢多の橋は落とされていた。
軍勢の前には巨大な湖からとうとうたる水を運ぶ宇治川(勢多川)が横たわる。
琵琶湖から注ぎ出てばかりのその川は鎌倉勢と対岸をはるかに隔てている。
敵にとってはそれだけでも天然の防御柵である。
さらにその川の中には杭と綱が張られ、また対岸の河原のあちらこちらには逆茂木が置かれ騎馬の行く手を塞がんとしている。
そしてその宇治川の先には今井兼平率いる木曽勢が待ち構えていた。
範頼はその様子をじっと眺める。
隣にいる土肥実平はその将軍にそっと耳打ちをする。
「思った通りたいした兵力ではありませぬな。」
「確かに。木曽の兵は少なくなったと聞いておったがここまでとはな。」
「兵を宇治にも廻したでしょうし、九郎御曹司のおっしゃったとおり河内の新宮十郎殿も呼応して挙兵された。そちらにも兵を差し向けなければならなかったようです。」
範頼は大きくうなづく。
「しかし、油断は禁物ですぞ。戦の趨勢を決するのは兵の数ですが
死に物狂いの少数の兵はけっして侮れるものではありませぬ。
かつて私は三百の兵で三千の兵にあたったことがあるまする。
その時われらは必死に戦って鎌倉殿を守りぬいたのでござる。」
土肥実平は石橋山の戦いを回顧しながら範頼に忠告した。
大手軍は静かに木曽勢今井兼平軍と対峙していた。
その頃河内国では義仲の乳母子樋口兼光が、源行家とそして行家を支える石川義兼とすでに戦っていた。
一方先に宇治に向かった義経率いる搦手軍は対岸の木曽勢との戦いを開始せんとしていた。
前回へ 目次へ 次回へ
畿内に住する武士たちが郎党を従えて搦手軍大将軍源義経に参軍の意思を伝え、その義経率いる軍の中に加わっていくのである。
その畿内の武士達を吸収しながら義経率いる鎌倉勢は宇治川沿いを進む。
少なくない兵を引き連れた軍が義経率いる軍勢に続く。
鎌倉勢友軍甲斐源氏安田義定率いる軍である。
彼等も続々と宇治を目指す。
彼等が宇治にかなり近づいた頃、鎌倉勢の主力大手軍は勢多へと接近していた。
大手軍を率いるのは大手大将軍源範頼。
海と見まがうほどの巨大な湖琵琶湖を右手に見つつ範頼らは勢多を目指す。
彼等が勢多に到着したときには、かれらが都へ進むための勢多の橋は落とされていた。
軍勢の前には巨大な湖からとうとうたる水を運ぶ宇治川(勢多川)が横たわる。
琵琶湖から注ぎ出てばかりのその川は鎌倉勢と対岸をはるかに隔てている。
敵にとってはそれだけでも天然の防御柵である。
さらにその川の中には杭と綱が張られ、また対岸の河原のあちらこちらには逆茂木が置かれ騎馬の行く手を塞がんとしている。
そしてその宇治川の先には今井兼平率いる木曽勢が待ち構えていた。
範頼はその様子をじっと眺める。
隣にいる土肥実平はその将軍にそっと耳打ちをする。
「思った通りたいした兵力ではありませぬな。」
「確かに。木曽の兵は少なくなったと聞いておったがここまでとはな。」
「兵を宇治にも廻したでしょうし、九郎御曹司のおっしゃったとおり河内の新宮十郎殿も呼応して挙兵された。そちらにも兵を差し向けなければならなかったようです。」
範頼は大きくうなづく。
「しかし、油断は禁物ですぞ。戦の趨勢を決するのは兵の数ですが
死に物狂いの少数の兵はけっして侮れるものではありませぬ。
かつて私は三百の兵で三千の兵にあたったことがあるまする。
その時われらは必死に戦って鎌倉殿を守りぬいたのでござる。」
土肥実平は石橋山の戦いを回顧しながら範頼に忠告した。
大手軍は静かに木曽勢今井兼平軍と対峙していた。
その頃河内国では義仲の乳母子樋口兼光が、源行家とそして行家を支える石川義兼とすでに戦っていた。
一方先に宇治に向かった義経率いる搦手軍は対岸の木曽勢との戦いを開始せんとしていた。
前回へ 目次へ 次回へ