時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四百十七)

2009-10-03 20:18:10 | 蒲殿春秋
だが義仲は現実に目の前に現れた敵と戦わなければならない。
西の行家には樋口兼光に当たらせる。
東からの敵には、今井兼平、そして源義広に兵をつけて当たらせることとした。

だが兵力差を考えるととうてい防ぎ切れるとは思えない。

窮余の中にある義仲は前々から考えていた策を実行に移すことを考える。

それは後白河法皇を奉じて北陸に向かい「官軍」としての自分の立場を内外に示して
北陸において勢力を立て直すことだった。
これは平家が西国に天皇、治天の君、摂政を擁して「政権ごと」移動して
劣勢を跳ね除けようとしたのと同じ発想である。

自軍が敵を防いでいる間に法皇を連れて北陸へ行く、それが義仲が選び取った方策だった。

しかし、この期に及んではこの策の実行は期を逸していた。
手元にいる軍勢を敵に当たらせた義仲の周りにはもうほとんど兵は残っていない。

法皇を迎えに行こうとした義仲に対して後白河法皇は「赤痢にかかったので動座は叶わず」と答えるのみであった。
その後も何度も義仲は法皇に「動座」を要請したが法皇の答えは否である。
法皇は義仲の足元をご覧になっている。
そして都に滞在していた院に仕える畿内の武者、そして北面たちが続々とやってきて院御所の周りを固めている。
義仲の周りには力ずくで院を連れ去るほどの兵力は残されていない。

義仲は苦境に立たされていた。
そのような中樋口兼光は河内に向かい、今井兼平は勢多、志田義広は宇治へと向かった。
義仲は院への奏上を続けているが、院は取り合わない。
その間時は無意味に流れ去っていく。

一方、数万とも言われる鎌倉勢大手軍が源氏の白旗をなびかせて続々と近江国に入り勢多を目指している。
それより前に近江に入っていた千騎ばかりの鎌倉勢搦手軍は勢多を通り過ぎ宇治川に沿って人馬を進めている。

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