同時刻、大手軍でも戦闘が開始されていた。
大手の将源範頼は戦に先立ってそれぞれの陣立てを鎌倉勢に指示していた。
しかしその鎌倉勢が進軍しようとする前に範頼率いる鎌倉勢力を塞ぐかのよう飛び出してきた一団があった。
一条忠頼率いる甲斐源氏一団である。
彼等は続々と前線へと抜け出してくる。
その一団を率いる者が対岸に向かって叫ぶ。
「そちらの兵を率いるものは何ものぞ!」
すると向こうから声が返る。
「木曽殿の乳母子、中原兼遠が一子今井兼平なり。そなたこそ何者じゃ!」
と返答が来る。
「清和天皇の末、新羅三義光が子孫武田信義が子、一条忠頼である。」
と叫ぶ。
忠頼は続ける。
「戦に先立って橋を落とすとは見苦しいものよ。」
と敵をののしる。
それに対して
「戦があるというに、相手の為にわざわざ橋を架けて道を作って、船を準備してやる者はおらぬわ!」
と今井兼平は返す。
そして
「我と思わんものは、この河を渡り我に向かって来られよ!いつでも相手つかまつる!」
と挑発する。
いきり立った一条勢は河を渡ろうとする。
しかし、海とも思える琵琶湖から流れ出でる河の幅は巨大で豊富な水量を湛え、たやすく渡れそうになかった。
河が天然の要害となっている。
しかも、河の中に杭や綱がしつられられている可能性がある。
渡るに渡れない一条勢は対岸に向かって矢を射掛け始めた。
すると木曽勢も矢を返してくる。
巨大な河を隔てた両者の矢はどちらも敵陣には届かず。
矢は水面を貫くのみであった。
この一条忠頼の戦いの様子を、範頼と土肥実平は眺めていた。
「相変わらず、軍議を無視されるお方じゃ。」
土肥実平は舌打ちした。
「まあ良いではないか、土肥殿。木曽勢の主力の注意をこちらに引き付けるというお役目を一条殿が引き受けてくださったと思えばよいのではないか。
本来ならば、我々が行なうべき役目であるがな。」
「・・・・」
土肥実平は憮然としている。
「それより土肥殿、稲毛三郎殿には例の手はずは伝わっておるだろうな。」
「はい」
返答しながら実平は少し機嫌を直した。
「藤七、良い知らせを持ってきてくれたものじゃ。」
範頼は近江国住人佐々木秀義の郎党である藤七を見つめていた。
藤七が軍議の後範頼に良い知らせを持ってきていた。
「藤七、稲毛三郎殿のほかにも佐々木との郎党は案内役としてついておるな。」
「はい」
藤七は答える。
範頼は満足げにうなづいた。
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大手の将源範頼は戦に先立ってそれぞれの陣立てを鎌倉勢に指示していた。
しかしその鎌倉勢が進軍しようとする前に範頼率いる鎌倉勢力を塞ぐかのよう飛び出してきた一団があった。
一条忠頼率いる甲斐源氏一団である。
彼等は続々と前線へと抜け出してくる。
その一団を率いる者が対岸に向かって叫ぶ。
「そちらの兵を率いるものは何ものぞ!」
すると向こうから声が返る。
「木曽殿の乳母子、中原兼遠が一子今井兼平なり。そなたこそ何者じゃ!」
と返答が来る。
「清和天皇の末、新羅三義光が子孫武田信義が子、一条忠頼である。」
と叫ぶ。
忠頼は続ける。
「戦に先立って橋を落とすとは見苦しいものよ。」
と敵をののしる。
それに対して
「戦があるというに、相手の為にわざわざ橋を架けて道を作って、船を準備してやる者はおらぬわ!」
と今井兼平は返す。
そして
「我と思わんものは、この河を渡り我に向かって来られよ!いつでも相手つかまつる!」
と挑発する。
いきり立った一条勢は河を渡ろうとする。
しかし、海とも思える琵琶湖から流れ出でる河の幅は巨大で豊富な水量を湛え、たやすく渡れそうになかった。
河が天然の要害となっている。
しかも、河の中に杭や綱がしつられられている可能性がある。
渡るに渡れない一条勢は対岸に向かって矢を射掛け始めた。
すると木曽勢も矢を返してくる。
巨大な河を隔てた両者の矢はどちらも敵陣には届かず。
矢は水面を貫くのみであった。
この一条忠頼の戦いの様子を、範頼と土肥実平は眺めていた。
「相変わらず、軍議を無視されるお方じゃ。」
土肥実平は舌打ちした。
「まあ良いではないか、土肥殿。木曽勢の主力の注意をこちらに引き付けるというお役目を一条殿が引き受けてくださったと思えばよいのではないか。
本来ならば、我々が行なうべき役目であるがな。」
「・・・・」
土肥実平は憮然としている。
「それより土肥殿、稲毛三郎殿には例の手はずは伝わっておるだろうな。」
「はい」
返答しながら実平は少し機嫌を直した。
「藤七、良い知らせを持ってきてくれたものじゃ。」
範頼は近江国住人佐々木秀義の郎党である藤七を見つめていた。
藤七が軍議の後範頼に良い知らせを持ってきていた。
「藤七、稲毛三郎殿のほかにも佐々木との郎党は案内役としてついておるな。」
「はい」
藤七は答える。
範頼は満足げにうなづいた。
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