時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四百二十三)

2009-10-16 05:37:49 | 蒲殿春秋
一条勢と今井勢の矢合戦は続いている。
お互いに傷つけあうことも無く無意味に矢が放たれる。
そうしていること半刻ばかり、今井兼平軍に異変が起きる。
今井軍の側面に彼方から矢が飛んできた。
やがてその矢の向こうから鎌倉勢が現れた。
武蔵国住人稲毛三郎重成、その弟榛谷四郎重朝らが率いる軍勢である。

一条勢との矢合戦に気を取られていた今井勢は、ここから少し下流の浅瀬を通って
こちら岸に渡った稲毛勢の動きに全く気が付かなかった。

稲毛勢とは違う方角からも矢が飛んできた。
こちらも別の浅瀬から現れた鎌倉勢である。

これが範頼が言っていた「例の手はず」である。
稲毛らの鎌倉勢は地勢に明るい佐々木秀義の郎党から浅瀬の場所を教えてもらっていた。
誰かが注意を引き付けている間に少し離れた場所にある浅瀬を渡り今井兼平勢の側まで接近して攻撃を仕掛けたのである。

思いもよらぬ方角から攻撃を受けた今井兼平軍は混乱に陥っている。

対岸からこの様子を見た一条忠頼は舌打ちした。
その忠頼が自軍の背後の異変に気が付いた。
すぐ後ろに陣を構える土肥勢が河の下流方面に移動を始めたのである。

土肥勢が河を渡るのだろうと察した一条忠頼は土肥勢の後を追うよう自軍に指示した。

土肥勢が河の浅いところを渡った後に一条勢が続く。
土肥実平は、鎌倉勢に蹂躙されていく今井勢に近づく。
一方途中まで土肥勢の後をついてきていた一条勢は軍目付として戦の状況を検分している土肥実平を追い越した。

一方、壊滅状態にある今井軍からは戦線を離脱するものが後を絶たない。
その離脱者の中にひときわ立派な鎧を着しているものがいる。
━━ あれこそ大将軍今井兼平

そう見た一条忠頼は功名の思いに目を輝かせ、その将の後を追うよう自軍に命じた。

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