時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百三十五)

2008-12-31 12:07:03 | 蒲殿春秋
さて、都落ちせんとする平家の手を逃れ比叡山に登られた後白河法皇の元には色々なものが現れた。
まず、先に比叡山に入っていた近江源氏の武将達が後白河法皇を警護しまつらんと参上した。
ついで、都に残っていた廷臣たちも続々と比叡山に登る。
真っ先に現れたのが前摂政松殿基房。
基房は去る治承三年の政変において平清盛によって摂政を辞めさせられていた。
今回の平家の都落ちと法皇の御登山は自らの復権の機会とばかりに真っ先に比叡山に上った。
が、暫くして基房を失望させる事態が起こる。

基房に変わって摂政の座についた甥の近衛基通が法皇の御前に現れたからである。
基房だけではなく、他の廷臣達も驚く。
今まで平家べったりだった基通の立場を思えば、基通は必ず平家の同道すると思っていたからである。
一人だけ驚かれなかったのは後白河法皇のみ。
法皇と基通はこのとき誰も知らぬ秘密を抱えていた。
ともあれ、復権を目指す基房にとって基通の参上はありがたくないものであった。

法皇、摂政、そしてその他大勢の廷臣たち。
かれらが上った比叡山はさながら朝廷がここにできたかのようである。
ただ、天皇が不在と言う事実を除いて・・・

七月二十七日、都から平家の残党がいなくなったことを確認して、後白河法皇そして廷臣たちが比叡山を降りて都へ戻った。
後白河法皇を警護するのは近江源氏錦織義高。
院ー後白河法皇は蓮華王院に入られた。

翌日二十八日蓮華王院の法皇の御前において様々なことが議定される。
まず、議題に上ったのが安徳天皇と共に都を出た三種の神器をいかにして都に帰還させるかということである。様々な意見が出されたものの具体的な方策が決まらない。都は治天の君と摂政がいるが天皇が不在であるという異常事態となった。
ついで都に残った平頼盛の処遇が議された。
さまざまな議論が噴出したが、頼盛には解官させるものの刑罰には問わないいう方向に話が落ち着いた。頼盛はしばらく都でなりを潜める生活を余儀なくされる。

七月二十五日平家が都落ちをした際、平家が立ち去り炎上する平家の一族や郎党の家屋敷に物盗りが多数乱入した。
今まで都の治安は最大軍事貴族であった平家が一手に引き受けていた。その平家が立ち去ると言うことは都の治安を司るものが不在になるということを意味する。
平家都落ち直後から、都のあちらこちらで狼藉が多発するようになっている。

七月二十八日、政治的異常事態と治安の急速な悪化に見舞われている混乱の都に二人の反平家勢力の首魁が入ってきた。
木曽義仲と新宮十郎行家である。既に近江源氏や安田義定は入京していた。
義仲は都の北から、行家は都の南からそれぞれ入る。

前回へ 目次へ 次回へ


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ