時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百二十八)

2008-12-20 20:20:41 | 蒲殿春秋
一方書状を差し出した義仲は八条院の返事がないことはさほど気には留めずに北陸宮即位を夢見ている。

北陸宮即位は都において義仲が他の武将たちの優位に立つための必須要件である。
これまで義仲は、北陸宮を奉じることによって以仁王の遺志を実現するものという立場をとりつづけ北陸宮の権威を利用して勢力を拡大してきた。

義仲が近江に入ったことに呼応して
東海道から安田義定、葦敷重隆、土岐光長などの源氏の諸将が平家方を討伐しながら西上してくる。
近江に基盤を持つ山本義経や柏木義兼という武士達も近江で活動を開始した。
かれらの動きなくしては都の制圧はできない。

けれども、これらの武将達は義仲の動きに呼応して都を目指しているものの
義仲に対してはあくまでも協力者であって、義仲に従っているわけではない。
しかも近江の山本義経や美濃の土岐光長といった人々は都の官位を有していた経歴がある。
彼等のような任官経験者から見れば木曽義仲という人物は無位無官で格下の存在なのであり
無位無官の武将から見ても義仲は同格の存在なのである。

そしてもう一人、どうしても義仲の気に障る人物が存在する。
坂東から動くことのできない源頼朝である。
頼朝は坂東で大きな勢力を築いている。
そして、かつて従五位下右兵衛佐という官位を有していた。
この官位は各地で挙兵した反平家勢力の頭目の中でもっとも高いものである。しかもその官位を十三歳にして手に入れていた。
都の人々から見れば頼朝が最も格上の反乱者となっている。
そして頼朝は後白河法皇との人脈がある。

今回同行している武将達の上にたち、頼朝を出し抜くには
北陸宮の即位というのが最も有効な政治戦術になるはずである。
義仲はこれまで北陸宮の為に尽くしてきた。北陸宮が即位した暁には
義仲はその側近として力を振るうことが出来る。

都をもう少しで陥落させられるというところに来て北陸宮の即位が見えてきた。
義仲はそのことの到来を堅く信じていた。

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