時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百十七)

2008-11-17 05:38:37 | 蒲殿春秋
平家の北陸への侵攻は進んだ。
加賀を攻め落とした平家軍は越中へと進んだ。

平家はやすやすと北陸を平定するかとも思われた。

しかし、平家に対抗する国人たちは越後にある人物に救援を依頼する。
その人物とは木曽義仲である。
事態を重く見た義仲はその片腕とも頼む乳母子今井兼平に兵をつけて越中に援軍を送った。

越後より援軍来たる。
その報を受けた平家は越中守平盛俊を大将として、義仲の援軍と越中国人との連合軍と戦うことになる。

両者は越中国般若野で激突した。

朝から始まった激闘は夕刻まで続いた。
両者互角に戦ったこの戦いは今井兼平軍の勝利に終わる。
平家軍は加賀まで退却を余儀なくされた。

一方勝利した今井軍の背後には越後・信濃・上野から兵を集めた義仲本軍が満を持して進軍してくる。
その義仲軍に、先の戦で破れて落ち延びてきた加賀・能登の国人、そして平家を撃退した越中国の国人達が加わり、兵の数が膨らんだ。
それでも、大軍を率いた平家軍に対しては軍勢の数は圧倒的に足りない。
その義仲軍は西へ西へと進んでいく。

その大軍の平家は、義仲軍を打つべく再び東へを軍を進めた。

両者は砺波山で再び激突することになる。

「倶利伽羅峠の戦い」とも称されるこの砺波山の戦いにおいては、
その率いる兵の数が圧倒的に少ない木曽義仲の軍事的才能が遺憾なく発揮された。

地形を知り尽くした在地の者の話をよく尋ねた義仲は、兵を分け平家軍をひそかに三方から包囲した。
昼間にはのどかとも言っていい戦いを繰り広げた両陣営。
しかし夜になると義仲の軍が牙を剥く。
突如、ほら貝の音と大音声が山中にこだました。
暗闇の中休息をとっていた平家軍は動揺した。
実際の数の上では平家軍に劣る義仲軍の大音声も山々にこだまに助けられ何十倍の大きさとなって平家軍の上に響き渡る。

そこへ三方から軍勢が同時に平家軍に襲い掛かる。
平家軍は何者かに取り付かれたかのように、唯一敵のいない方角を目指した。
しかし、そこは「地獄谷」と呼ばれる断崖が待ち受けるのみ。
谷底に多くの兵の命が飲み込まれていく。

夜が明ける頃には平家軍の兵の大半は失われていた。

かくして、「砺波山の戦い」は終わりを告げた。

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