時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百十六)

2008-11-13 05:06:40 | 蒲殿春秋
寿永二年(1183年)4月平家は北陸を奪回すべく大々的な出兵を行なった。
畿内・西国から集められるだけの武士を集め、大番役として都にある東国武士までも動員しまさに総力を挙げての出兵を行なった。
その効果だろうか出兵してすぐに行なわれた越前の火打城の戦いにおいては蜂起した在地の住人の内応を誘い平家軍は勝利した。
続いて加賀に攻め込んだ平家はそこの在地の反乱勢力をあっという間に制圧した。
平家はどんどん北陸の奥へ奥へと侵攻していく。

そのような折に尾張、三河などの東海方面において怖れられていた平家方への呼応は今のところ起きていない。
三河に下った範頼と盛長の存在が、平家方への転身を抑止している。
そしてもう一人、三河に下った範頼にここのところ接触を増やしている男の存在も・・・
三河の隣国遠江を支配している安田義定の存在である。

義定は盛んに使者を寄こし、また自身も何度か三河を訪ねてきた。
三河の住人たちも義定と数回面会した。
三河住人の中には義定と主従関係を結んでいるものも少なくない。

義定と盛長も何度か顔を合わせている。
その間お互いに穏やかな表情で向かい合っているもののその間には微妙な空気が流れている。
義定と盛長は協力しあいながらも相手に対して決して心を許してはいない。

範頼は気がついた。
義定やその使者が来るたびに盛長が連れてきた雑色の顔ぶれが変わっていることに・・・
雑色自体の数がそんなに変わっていないが、少しづつ面子が変わってきている。
そして、雑色の顔ぶれが変わる都度範頼が感じている見張られている視線が微妙に変わってきていることに気が付いた。

私を見張っているのは雑色たちか・・・

そのように感じている。
その雑色たちはどこからきてどこへ行っているのか・・・

少なくとも雑色たちが範頼を見張っているということは間違いが無いことのようだった。
そして、雑色たちが安田義定を警戒していることも・・・

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