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「どう健康に生きるか医者に頼って長生きするは幻想」養老孟司×和田秀樹

2023-01-12 | 今注目の話題
 
養老孟司氏×和田秀樹氏【対談・どう健康に生きるか】
「医者に頼って長生きする」は幻想コロナ以来「生きる事が疎かになっている」
                            NEWSポストセブン

 コロナ禍にいまだ終わりが見えぬなか、今年がいい1年になるかは健康次第だ。『80歳の壁』のベストセラー医師・和田秀樹氏と師弟関係に当たる解剖学者・養老孟司氏が語り合った。

右から『80歳の壁』のベストセラー医師・和田秀樹氏と師弟関係に当たる解剖学者・養老孟司氏(時事通信フォト)
右から『80歳の壁』のベストセラー医師・和田秀樹氏と師弟関係に当たる解剖学者・養老孟司氏(時事通信フォト)© NEWSポストセブン 提供

【写真5枚】コロナ禍で全国的に外出自粛が徹底された当時の様子。他、養老孟司氏や和田秀樹氏の写真なども

 * * *

和田:2023年を「どう健康に生きるか」というテーマですが、養老先生、いかがでしょう?

養老:企画した週刊ポストには悪いけど、やっぱりそういうことを意識しないほうがいいんじゃないですか(笑)。85歳になった今、自分でも気にしていません。今は過去の積み重ねで決まっているもので、今さら何を言ってもしょうがない。大体、考えて色々やってみても、その通りにはいかない。物事は全部わかっているわけではないので、まあ、成り行きですね。

和田:先生の仰る通りだと思います。先のことはわからない。問題は医者が患者に言う内容で、「コレステロールが高ければ心筋梗塞になる」とか、「血圧が高いのを放っておけば脳卒中になる」なんて言いますが、なる人とならない人がいます。だから(病気に)なった時に、なってから考えたほうがいいと思います。

 将来病気になる確率を少しでも下げようと考え出すと、生活がどんどん窮屈になる。コロナにかかりたくないから外に出ない、脳卒中になる確率を少しでも下げようと味のしないものを食べる、とか。果たしてそれでいいんでしょうか。

 私なんて血圧は一時期220mmHgにもなり、今も基準値より高い170mmHgまでしか下げていません。「そんなんじゃ心筋梗塞や脳卒中になりますよ」と言われますが、調子がいいんだから、それでいいと思う。養老先生が煙草をお吸いになると「身体に悪い」と言う人がいますが、煙草を吸って100歳まで生きる人もいらっしゃる。

養老:実はこの前、病院に行った時に、軽い心筋梗塞が起こっているかもしれないと指摘され、1月に病院に行く約束があるんです。「心臓のCTを撮りましょう」って。

 結果がいいのか悪いのかわかりませんが、でも私はそんなことわかってもしょうがないと思っている。どのみち、そんなに長くは生きてないだろうし(笑)。もう万事、医者任せ。病院とお付き合いするのも、私にとっては付き合いのうちですから。でも、その前に病院に行った時は「数値は別に悪いものはない」と言われていましてね。

和田:それは凄いですね。

養老:「じゃあ、私は何で死んだらいいんですか」って(笑)。しょうがないですね。(小林)一茶じゃないけど、“ともかくもあなた(医者)任せの年の暮れ”ですよ。

医学で長生きは“幻想”

和田:私は「あなた(医者)任せ」も怖いものだと思っています。例えば胃がんが見つかった時に、がんだけ取ればいいのに、転移が怖いからと胃の3分の2とか、全部を切除することがある。その後、食べられなくなって、ガリガリに痩せていく人をたくさん知っています。

養老:そう。だから、あなた(医者)任せと言っても、病院には病院の世界があって、私は「システム」と呼んでいるんだけど、そこに参加するかしないかは、こっちの自由ですからね。

和田:仰るとおりです。

養老:うっかり参加すると、その「約束事」に縛られてしまう。だから、必要なところは自分で判断する。この前、検査で胃にピロリ菌がいるとわかり「除菌しますか」と聞かれた時は、「もう生まれてこの方、何十年も付き合っているんだから、別に除菌しない」と答えました。自分が今どういう健康状態にあるかは、今までやってきたことの結果です。それを今更どうこうしようとしても、間に合わない。高齢になればなるほど、そう思います。煙草にしてもそうで、60年以上吸っているのに、今更やめたら体がびっくりするだけ(笑)。

和田:そうですね(笑)。

養老:仏教的な考えで、体のことも自然に任せるというのが、意外に今の人はできないようです。

和田:もう、とにかく「医学」を使って運命に逆らわなきゃいけないという考えが支配的です。私はお年寄りを中心にした長い臨床経験を経て、医療よりも、持って生まれた個人差や遺伝子のほうが、その人の寿命や健康に影響を与える度合いが大きいと思うようになりました。

 病気になることを恐れすぎて日常を制限するより今の元気さを楽しんだほうがいい気がします。少なくとも医者を頼って何かしてもらえば、余計に長生きできるというのは“幻想”です。

養老:結局、日常を維持するかどうかが大事ということです。「日常」を維持するのはあまり立派なことと思われませんが、そうではない。日本語の「ありがとう」は「有り難し」、原義は「滅多にない」です。それが感謝の言葉ということは、本来、なんでもない日常が「有り難い」ということ。災害に遭ったり、歳を取るとそれがわかってきます。

 私の母が90歳を過ぎた時、居間の模様替えをしてテレビを10cm動かしたら、「元に戻せ」と言いました。普段見ているテレビが10cm動いただけで、自分の調整がズレてしまう。日常の些細な変化に耐えるだけの体力がもうないんです。そういう意味で日常は年寄りにとって非常に重要。若い人は変えるのが面白いかもしれないけど、年寄りはできるだけ「変わらない」ほうがいい。だから保守的と言われるのですが、変えてみたところで大して変わらないんですよ。

死が中心になっている

和田:ここ数年、日本ではコロナが流行ったこともあってその日常が壊されてしまった。外出自粛やマスクの常時着用が、高齢者による交通事故が起これば免許返納が叫ばれるようになった。いとも簡単に日常を奪われることが多い気がします。

 だからこそ養老先生のお母さんのように、テレビが少し動いただけでダメという意思表明はとても大事だと思います。それが健康的に生きるヒントになる気がします。

 * * *
養老:迷惑をかけない限り、自分が好きなように生きる基準をはっきりさせることは大事です。

和田:我々がよく共産主義の国々を批判する時に「あいつらには自由がない」と言うけど、ここしばらくの日本を見ると、命のためには移動の自由であろうが営業の自由であろうが、どんな自由も簡単に放棄している。「命のためなら自由が奪われても仕方ない」という態度は、医者に「血圧が高いから塩分を控えるように」と言われて好きなものを我慢することにも通じます。

養老:コロナ以来、死ぬことのほうが中心になってきて、「生きることが疎かになっている」ように感じます。天気がいい時はこういう議論をするよりも、外に出て陽の光を浴びるほうが、よっぽど気持ちがいい(笑)。

和田:先生も昆虫がお好きなように、やっぱり楽しいことがあると、生きている感じが増すんじゃないでしょうか。

養老:世の中の付き合いがあるからなかなか時間が取れませんが、今でも虫をいじっていたいとは思っています。ただ、それだけにこもってしまうとそれはそれで不健康。生きることも死ぬことも、適当に距離を取るのが大事じゃないでしょうか。

和田:私はおそらく養老先生ほど悟っておらず、何か楽しいことをしていないと生きている気があんまりしません。だから美味しい食事やワイン、映画創りのことばかり考えています。養老先生と違い、私は検査データが悪い結果のデパートで、それでも医者の言うことを聞かないのは、そういう楽しみがないと生きている気がしないからです。

養老:私も検査値がどうであろうと、虫取りの季節が来たらどこにでも行っちゃいます(笑)。感染症が怖いなんて思ったら行けません。私がよく行くラオスのジャングルは、うっかり蚊に刺されればマラリアやデング熱が普通にあるところ。それでも、ほぼ毎年のように行って、一度も病気になったことはありません。

他人に生き方を聞くな

和田:そうやって生きることを楽しんでおられるから免疫力が上がっているのかも。養老先生のように哲学者でもあり、周囲が期待する作家でもあり、解剖学者でもあるのに、自分だけの昆虫の楽しみに多くを捧げるのは素敵だと思います。

養老:そうですかね。ただ好きなことをやっているだけで……。もし、好きなことがない、生きることを楽しめないという人がいたら、「社会のことを考えすぎないで、自分のことを考えなさいよ」と余計な忠告をしたいですね。まずは自分が何をしたいかを見極めないと話になりません。

 私の友人の池田清彦(生物学者)は、75歳で毎日酒を飲み続けていますが、それこそ彼に「健康に悪いからやめろ」とは言いません。飲んでいる時が一番似合っているから。自他ともにその人らしい生き方というのがあると思うんです。

和田:養老先生のように生きている時間をどれだけ楽しめるかについては、(戦中生まれの)先生の世代と、団塊の世代に代表される戦後生まれの違いもある気がします。先生の世代は、それまで信じ込まされてきた教育を、敗戦で1回ひっくり返されている。対して戦後生まれは、言われたことを信じてやり続けて高度成長を成し得た経験がある。私の勝手な思い込みかもしれませんが、養老先生の世代には、戦争に負けることも含めて、運命には逆らえないという感覚があるような気がします。

養老:いや、そうですね。

和田:でも、高度成長を経験した世代には、頑張ればなんとかなる、という信念みたいなものもある。逆に若者はずっと不景気しか知らず、それはそれで別の諦め方をしているようにも見える。ただ繰り返しになりますが一貫して言えることは、「生きていることを犠牲にしてでも死ぬのが怖い」という感覚。最近は死を避ければ自由はなくていい、とする考えが先鋭化しているように感じます。医者は病気を治してくれても、生きることについて教えてはくれない。先生、いかがですか?

養老:よく言うんですが、「他人に生き方を聞くんじゃないよ」って(笑)。いつでも人生は自分で切り拓いていくしかない。

和田:「頑張ればその通りになる」と信じて生きていては、意外に難しいのかもしれませんね。

【プロフィール】

養老孟司(ようろう・たけし)/1937年、神奈川県生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。450万部を記録した『バカの壁』は2003年のベストセラー第1位で、戦後歴代5位。ほかに『唯脳論』『手入れという思想』など著書多数

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。2022年3月刊行の『80歳の壁』は2022年のベストセラー第1位。ほかに『六十代と七十代 心と体の整え方』など著書多数 。  ※週刊ポスト 

 


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