日本中を騒がせた「Go Toトラベル」をどう評価するか(時事通信フォト)© マネーポストWEB 提供 日本中を騒がせた「Go Toトラベル」をどう評価するか(時事通信フォト)

 2020年は新型コロナウイルス禍に苛まれ続けた。近年では未経験のパンデミック(感染症の世界的大流行)だったのだからそれも当然ともいえるが、日本政府がとってきた対策は、はたして未来へ前進するのに役立ったと言えるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、迷走する「Go Toトラベル」を始めとする日本政府のコロナ対策について、評価・分析する。

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 安倍晋三政権および菅義偉政権は緊急経済対策と新型コロナ対策のために、総額57兆6000億円の第一次・第二次補正予算を組んでバラ撒き、さらに菅政権は追加経済対策として第三次補正予算案と2021年度の当初予算案に30兆6000億円を計上する。しかし、トラブル続きの「Go Toトラベル」が新型コロナの第三波を引き起こしたことは明らかだ。感染拡大のために税金を使っている国は、世界中でも日本ぐらいだろう。

 ヨーロッパではクリスマスから年末年始の過ごし方に関し、感染拡大を防ぐための方法を細かく決めている。たとえば、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、飲食店や劇場・映画館、スポーツ施設の営業禁止や集会人数の制限といった全国的な封鎖措置を連邦16州の首相と5時間にわたって話し合い、合意した内容をきちんと文書に残している。

 かたや菅首相が東京都の小池百合子知事と会談した時間は1回目が15分、2回目が20分でしかなかった。しかも、2回目の会談で決まったのは「Go Toトラベル」の東京発着分について、重症化リスクが高い65歳以上の高齢者と基礎疾患を持っている人に利用自粛を呼び掛ける、という中途半端で理解不能な措置だった。揚げ句の果てに菅首相は「Go Toトラベル」を12月28日から1月11日まで全国一斉に一時停止することを決めた。またしても場当たり的な後手後手のお粗末極まりない対応で、まさに遅きに失している。

 その一方で起きているのは失業者と自殺者の増加である。10月の完全失業率は3.13%で2017年5月以来の高水準となった。完全失業者数も前月比8万人増の214万人で、2016年4月以来の多さだ。

 自殺者数は2003年の約3万4000人をピークに年々減少していたが、今年は緊急事態宣言が解除された後の7月から前年同月比で増加に転じ、1~11月で1万9101人に上っている。単純計算では、新型コロナで死亡した人の7倍以上に達しているのだ。

 こうした暗い社会経済情勢の中、国民の不満や不安を和らげるために、政府はどうするか?

 100年前は、インフレから世界恐慌、震災被害、企業の倒産と農村の窮乏が深刻化し、失業の山になった。その結果、政府は雇用を創出するために国債を刷りまくって公共事業を拡大。さらに満州事変(1931年)以降、軍部主導の「産学官連携」による軍需産業の拡大に傾斜していった。

 今の政府も、税収を超える国債を発行して、「国土強靭化」という名の公共事業や、「なんちゃってデジタル化」を推し進めようとしているが、その“迷走”の行き着く先は、かつてと同じ財政悪化と金融の混乱だろう。また、政府主導の産学連携も推し進めており、このまま放っておくと、100年前の「いつか来た道」に進みかねない。

 私たちは100年前の教訓をもう一度振り返り、日々のニュースや株価などに左右されず、政府が「いつか来た道」へと向かわないように監視しなければならない。それが2021年の行方を見極める重要な視座である。

【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。

※週刊ポスト2021年1月1・8日号