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「脱原発勇敢賞」授賞にあたって 菅直人

2016-05-01 | 報道・ニュース

脱原発敢闘賞の授賞式が無事終了した2016年05月01日 05:56

 授与式はフランクフルト旧市庁舎のレーマーの皇帝の間という格式の高いホールで行われた。フランクフルト市の市長代理、協力してくれたプロテスタント教会の代表、ユルゲン・トリッテイ元環境大臣の挨拶のあと、シェーナウ電力会社の創業者の息子であるセバスチアン・スラーデク氏からの賞の授与が行われた。

 その後私からスピーチを行った。300人の会場はいっぱいで、何度も拍手を受ける非常に好意的な雰囲気の授賞式であった。私のスピーチの内容は以下の通り。

 

 「脱原発勇敢賞」授賞にあたって

今回、フランクフルト市、ヘッセンとナッサウのプロテスタント教会の協力のもと、シェーナウ電力会社から「脱原発勇敢賞」を贈呈していただき、大変うれしく思います。この賞は私に対してだけでなく、脱原発と再生可能エネルギーへの転換をめざして頑張っている全ての日本人に、その活動を勇気づけるために贈呈されたと受けとめています。

2011年3月11日に福島原発事故は発生しました。事故発生直後から私はチェルノブイリの事故の事を頭に浮かべていました。チェルノブイリ事故は激しい爆発を伴う事故でしたが、事故を起こした原発は一基だけでした。これに対し福島原発事故では第一サイトと第二サイトを合わせると10基の原発と11の使用済み燃料プールがあり、これらがすべてコントロール不能になるとチェルノブイリ事故の何十倍、何百倍という放射性物質が放出されることになるからです。そうなったときの事を想像すると恐怖でした。

実際に、地震発生からわずか3時間半後、1号機はメルトダウンをはじめ、4日間の間に3基の原子炉がメルトダウンしました。そして多くの放射性物質が大気中と海洋に放出され、一部は今も続いています。チェルノブイリ原発事故よりもはるかに大きな事故です。

事故発生から5日後の3月15日未明、東電社長から経産大臣に安全のため職員を原発から撤退させたいと言ってきました。経産大臣から私に相談に来ましたので、私は社長を呼んで、東電の職員は撤退すれば原子炉を制御できなくなるので、ぎりぎりまで撤退しないで頑張ってほしい、と言って撤退を止めました。

事故発生から数日後に、原子力の専門家に最悪のケースについてシュミレーションを依頼したところ、福島原発から250キロ圏からの避難が必要になるというものでした。この範囲には東京も含まれ、5千万人が生活しており、全員避難ということになれば日本は壊滅の危機を迎えたでしょう。このような被害は大きな戦争に負けたとき以外には考えられません。

東電の現場、自衛隊、消防、警察などなど多くの人々の命がけの努力で最悪のシナリオは回避されました。しかし、最悪のシナリオが回避されたのは人間の努力に加えて神の御加護があったからだと思っています。

私は福島原発事故が起きるまでは、日本の技術水準は高いから、チェルノブイリのような原発事故は起こらないと安全神話を信じていました。しかし、福島原発事故に総理大臣として遭遇し、日本の原発は安全という考えを180度変えました。原発事故を完全に防ぐことは不可能であり、いったん大事故が発生すると戦争に匹敵する大きな被害を及ぼす事が分かりました。私は、原発を無くすることが日本のためにも世界のためにも、そして何よりも私たちの子供や孫の世代のためにも必要だと確信しました。それ以来脱原発のために全力を挙げています。

私の属する民主党の政権は2030年代に原発をゼロにするという方針を決定しました。しかしその後政権に戻った自民党は電力に占める原発の比率を2030年に20から22%と決めました。しかし、国民の過半数は脱原発を望んでおり、住民の反対と裁判所の厳しい判断もあり、原発の再稼動は現在まで2基にとどまっています。

私は科学技術の発達が人間を幸福にするのか、という事を長年考えてきました。科学技術の進歩は人間を幸せにすることもありますが、逆に人間を不幸にする場合もあります。広島、長崎に落とされた核兵器、そして福島原発を引き起こした原発がその典型です。人間の英知で核兵器と原発という二つの核を廃絶できるかどうかが今こそ問われています。

世界は今、脱原発、脱化石燃料へとエネルギーを転換する動きが強まっています。 日本でも私が総理の時の最後の仕事として導入した固定価格買い取り制度(FIT)により、太陽光発電が急激に増えています。

再生可能エネルギーはどの国でも自給が可能です。再エネで各国がエネルギーの自給ができるようになれば資源をめぐる国際紛争を無くする事が出来ます。

また、原発を無くするにはシェーナウ電力会社のような電力会社が増えることです。   日本でも今年4月から、消費者が電力会社を選ぶ事が出来るようになりました。シェーナウ電力会社の経験は、脱原発と再生可能エネルギーの拡大を目指す日本での運動に大きな示唆を与えてくれています。

この受賞を励みにして日本版シェーナウ電力会社の実現を目指し、脱原発と再エネへの転換に向けて多くの日本の仲間と頑張りたいと思います。そして日本でもドイツと同様にできるだけ早く原発ゼロを実現できるよう私自身全力を挙げることをお約束し、受賞のお礼のご挨拶とさせていただきます。

以上

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