新国立競技場 文科相と都知事のバトル激化…森氏は「どっちもどっち」と憤り 産経新聞 6月13日(土)
■広がる不協和音
「ほら、握手して」
今月2日、東京都港区。日本財団が開いた20年のパラリンピック支援に関する記者会見終了後、出席した下村氏と舛添氏は大会組織委員会の森喜朗会長(77)らに促され、報道陣の前で握手してみせたが、両者の表情には硬さが残ったままだった。
19年のラグビー・ワールドカップ(W杯)、その翌年の東京五輪に向け、連携強化を図るべき下村氏と舛添氏の関係に亀裂が入ったきっかけは、5月18日の東京都庁での会談だった。
下村氏はメーン会場となる新国立競技場の開閉式屋根の大会時設置を見送る案を伝えたほか、競技場の建設費用の一部として500億円の負担を要請。それに対し、舛添氏は建築資材の高騰で総工費が膨らむことが予想されることなどに触れ、「協力は惜しまないが、税金を払うのは都民。もっと情報を開示してほしい」と話し、事実上の“門前払い”にした。
■「どっちもどっちだ」
この会談後、両者の関係は一気に悪化する。まず対決姿勢を鮮明にしたのは舛添氏だった。
19日の定例記者会見で開閉式屋根の見送り案について「誰の責任なのか。誰も責任を取らない体制は問題がある」とバッサリ切り捨てた。負担を要請された500億円についても「数字に根拠がない。せいぜい50億円程度」と述べ、拠出限度額は新国立競技場と都施設とをつなぐ連絡橋整備費程度であるとの認識を示した。
29日の記者会見では、下村氏が21日に首相官邸に出向いて都が580億円拠出すべきだと説明したことを暴露し、「(安倍晋三首相に)ひどい数字を説明したのは背信行為だ」と怒りをぶちまけた。
一方、下村氏も27日、「(新国立競技場の完成後に)都も活用するのだから、人ごとではない。批判は簡単だが、開催都市の知事として自覚を持ってほしい」と反論して舛添氏を牽(けん)制(せい)。双方の舌戦は激しくなるばかりだ。
ただ、本来協力して開催準備に取り組むべき両者の関係悪化に対し、関係者も気をもんでおり、森会長は「どっちもどっちだ」と怒りを隠さない。
■500億円“密約”説
新国立競技場の整備費をめぐっては、13年に下村氏が当時の猪瀬直樹都知事に一部負担を要請したが、猪瀬氏が徳洲会グループからの5000万円受領問題で13年12月に辞職したため宙に浮いたままになっていた。
下村、舛添両氏の関係悪化の原因となった500億円問題が浮上したのは、13年12月の下村氏による定例記者会見の場だった。記者の質問に対し「都議会と直接話をして、500億円を東京都が出すということで内々には了解をもらって準備を進めている」と述べたのである。
下村氏は当時、整備費が約1700億円になる見通しを語っており、3割程度を都側が負担する方向で話が進んでいたとみられる。
舛添氏は就任前の費用負担をめぐる経緯について、公文書などが残っていないことを理由に、下村氏の要請を一蹴しているが、森会長は「(舛添氏に)私が全部経緯を話した」と言及しており、文科省内にも舛添氏への不信感は根強い。
度々変更されてきた新国立競技場の建設計画。現在1625億円が建設費として見込まれているが、建築資材の高騰などを受け、建築家の槇文彦氏らは現行のままでは2700億円を超えると指摘する。
文科省は月内に最終的な経費算定を行う見通しだが、総額が膨らめば都側との負担割合をめぐる折衝もより一層難航しそうだ。