欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

指にからまる青いリボン

2012-06-13 | une nouvelle


砂浜にひろがる色あざやかなパラソル。燦々と降り注ぐ日ざしの下、人々が思い思いに過ごしている午後。
とあるパラソルの下で少年は待ちぼうけ。
まわりの貴婦人たちの話し声。冷たい飲み物を口にしているのを尻目に、少年はひとり眉間にしわを寄せている。
大柄な中年男ときれいな女性が海からあがってきて。
少年、ありがとよ。もう泳ぐのにも飽きたな。
何枚かの銀貨を少年に渡して、
もういいぞ。
ねぇ、わたしあっさりしたものが飲みたいわ。
よし、買ってきてやろう。
レモンソーダがあればそれがいいわ。
わかったよ。ん、まだいたのか? もう行っていいぞ。
ぺこりと頭をさげて、少年は走っていき、
わたしも一緒に行きたいけど、泳ぎ疲れたの。
いいんだよ。オレはまだ体力は残っているから。それに、
男は女に顔を近づけて、
後でお前を喜ばす体力もな。
いやな人。
ふたりは口づけを交わし、男はパラソルを離れていく。

ビーチ客相手のお店の脇。壁に寄りかかり座ったままで。
少年はポケットのコインの指で動かしながら、あたりを眺めている。
すると、水着姿にカーディガンをはおった細身の女性がやってきて。
あなた、もしよかったらちょっと手伝ってくれない。
少年はなにかわからないながらも、女性についていき・・。
片づけをはじめている女性たちのパラソルへ。
このパラソルがたためないのよ。中がさびて動きづらくなっているのかしら?
少年は体ごと中に入って、ごそごそと。やがて、パラソルがしおれていって・・。
ありがとう。やっぱり男の子ね。
女性は少年の肩に手をおいて、
お礼はなにかがいいかしら?
なにも言わず少年がもじもじしていると、
そうだ、おなかはすいていない? とっておきのランチがまだ残っていたのよ。それでいいかしら?
小さなバスケット受け取る少年の手には小さな切り傷が・・。
あら、血がにじんでいる。今傷つけたの?
かくそうとする少年の手をにぎって。
待ってて。良いテープがあったはず・・。
黙っている少年に顔を近づけて、丁寧にテープでおおい、
あと、これはおまじない。
あざやかなブルーのリボンをその指に。そして、
はやく良くなるように、ね。
女性の笑顔に少年はうつむいて、やがて、走り出します。
小さなバスケットも置いたままで。

昼さがりにはあれだけいたビーチの人々。夕がせまり暗さがひろがってくると、パラソルも人もまばらに。
少年は店屋の脇で座ったままぼんやりしています。
店主が店じまいをしながら、
坊主、今日はどれだけおこずかいを稼いだね。
少年はそんな言葉など耳にしていなくて。何度も指のリボンを見つめ返しているのです。
明日は祝日でたくさんの人たちがやって来るぞ。良いかき入れ時だな。
少年はリボンを見ながら、あの女性の笑顔を思い出していました。
いつの日か恋をする自分に思いをはせながら・・。
胸にこみあげてくる、まだはっきりとはわからない勢いみたいなもの。
あざやかな青いリボンを見つめる、少年の口もとには男らしいやさしい笑みが見えかくれしているのです。


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2 Comments

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Unknown (makoto)
2012-06-17 15:24:01
もうすぐ夏がきますね。
とても暑い夏にバカンス的な詩を書いてみました。
避暑という言葉がありますが、清涼剤的な要素の作品をこれからも書きたいです。希望もこめてね
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たからもの ()
2012-06-13 22:23:23
たった一つのそのたからものは
彼にしかわからない秘密の宝物となって・・
希望と想い出と勇気を胸に纏って
ゆっくりと歩きだして・・
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