代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

嘉田由紀子を選んだ心理と小泉を選んだ心理

2006年07月05日 | 政治経済(日本)
 ここのところ締め切り原稿に追われていてブログを全く書けませんでした。申し訳ございませんでした。昨日、某大学で行なわれた某研究会で発表した後、ひさしぶりに酒飲み話しなどしてきました。酒飲み会はほとんど愚痴り会。「うちの職場はこんなにひどい」「いやうちの方がこんなにメチャクチャ」「いやうちの方がもっと・・・」「こりゃ自殺したくなるのも当然だ」「まったく何考えてんだかMK省は」「いやはや絶望的・・・・」てな具合に、異なる所属の人間たちが集まって「ヒサンさ比べ」をしてきてしまいました。要するにどこもヒサン。その惨めな会話の中で、唯一、救いのある話題だったのが、7月2日の滋賀県知事選における嘉田由紀子氏の当選についてでした。自公民の相乗り現職を、ほとんど政党組織の力を借りない嘉田氏が大差で破ってしまったのですから、じつに画期的な結果でした。

 じつは私は、嘉田先生とは同じ学会に所属している関係で個人的にも若干の面識はあるのです。嘉田先生でしたら、田中康夫信州知事よりはるかに上手に脱ダムもやってくれるでしょう。森林保水力の理論的な理屈も分かっておられますし、なんたって田中知事とは違って調整がうまいですからね。下手に敵を増やしたりもしないし。

 また民主党と共産党には真摯な反省を求めます。自公候補に相乗りするという民主党の行動には唖然として言葉も出ません。共産党の行動は予想できるものでしたので驚きません。しかし今後は、せめて自主投票に回るくらいの知恵をはたらかせて欲しいと切に願います。「ムダな公共事業を見直して福祉と環境に予算を回そう」という嘉田氏の選挙公約を応援できない民主党や共産党っていったい何なのでしょうか?

 嘉田先生も学者としてまだまだやり残したことは多かったでしょうが、今の政治状況を見るにしのびず政治家に転身する決断されたのでしょう。本当に頑張っていただきたいと思います。 
 (ちなみに私の所属するまた別の学会にはI口K子チルドレン担当大臣がいたりするのですが、こちらは大変に恥ずかしいことで、失礼しております)。
 
 さて、飲み会の場ではこんな会話がなされました。

私「この選挙結果が、あの昨年9・11総選挙と同じ選挙民が行なったこととはとても思えない。滋賀県は民度が高い。滋賀県民はえらい!(たまたまその場に滋賀県出身者がいたので持ち上げる)。でも、それにしても昨年の悪夢のような選挙と、この選挙結果の違いはいったいどうだろう。この違いをどうやって分析したらよいのだろう?」

Aさん「小泉に投票した人の心理と、嘉田さんに投票した人の心理ってじつはあまり変わらないような気がする。要するに既得権益に縛られていないというクリーンなイメージ。それにルックスのよさとか。まあ、小泉の場合のイメージはマスコミが作り上げたものなのだけれど・・・」

私「えー、でも小泉と嘉田由紀子のイメージって重ならないでしょう。だって嘉田先生はあんな絶叫調のワン・フレーズ繰り返し演説なんてしないし、語り方は理知的だし・・・」 

Aさん「いや小泉のワン・フレーズ・ポリティクスはじつに効果的だった。あれは野党も学ぶべきなんだ。野党にもあんな演説のできる人間がいれば、選挙結果は全く変わるかも知れない」

私「・・・・・」


 そう言われてみて、なるほどそうかも知れません。55年体制時代の古いしがらみや利権構造に縛られていないというクリーンなイメージがあれば、じつは政治的な右とか左とか関係ないのかも・・・。いま日本のフリーター層は圧倒的に「右」に流れていますが、それは要するに日本の「左」があまりにオバカすぎて魅力がないという理由によるのでしょう。

 話は飛びますが、ナチスの政権掌握の前だって、ナチスが政権を執るかドイツ共産党が執るか二つに一つっていう雰囲気で、実際、両党の支持層もほとんど重なっていました。共産党が負けてナチスが勝ったのは、ヒトラーの絶叫調ワン・フレーズ繰り返し演説がより人々を魅了したからかも? もしドイツ共産党にヒトラーくらい演説がうまい党首がいたら、支持者はより共産党に流れて歴史は変わっていたかも?? う~ん、現実はその程度のものかも知れません。

 複雑系のシステム理論でいうと「ゆらぎ」が核となって、正のフィードバック効果を得て自己組織化するのです。臨界状態に陥ったシステムにおいて、ヒトラーとか小泉といった個性ある「ゆらぎ」の果たす役割は、実際にすごく大きい。
 
 もちろんワン・フレーズ思考回路の人間が、そのままの思考で政治をやったら大変ですが、脇を固めるブレーンがしっかりしていれば大丈夫でしょう。あくまでも選挙戦術として小泉的人間を表に立てるということくらい、野党陣営は知恵を働かせるべきですね。
 
 また、それ以前の問題として、民主党と共産党には、今回の滋賀県知事選の結果を厳粛に受け止めていただきたいです。
 


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8 コメント

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デルタさま ()
2006-12-28 10:04:19
>問題は、黒字の優良企業であるJR東海が単独で投資
>するべき「設備資産」をなぜ公共団体が寄付するの
>か、ではないでしょうか?

 ここはやはり異論が・・・。私は線路は公的な社会的共通資本と考えておりますので、私企業の単独投資ではなく、公的団体も支援すべきと考えます。
 JR東海単独でしたら、やはり栗東駅のような採算の割れのリスクの大きい駅には投資しないと思います。

 公的団体ですと採算割れであっても、社会的な必要性から長期的な視点で投資するということもあり得ます。私は、採算割れであってもローカル線を維持するといったことに公的資金を注ぎ込むのには賛成の立場です。
 といっても所詮そのお金は納税者のものなので、納税者の意思次第です。長期的・社会的視点からも不要と思われる投資であれば、納税者は選挙や住民投票などの手段で行政にNOと言わねばなりません。
 
 というわけで私は滋賀県民でないので、納税者たる滋賀県民の皆さんの判断にゆだねます。今後の議論の推移を見守りたいです。
 
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ここが異論のあるところなんですよね…… (デルタ)
2006-12-26 22:34:17
新駅の立地については、かなり経緯があってのことで、当初は近江八幡と八日市との間と決まりかけていたのを、人口の数の力で、湖南連合がひっくり返したわけなのです(苦笑)。それと近江八幡付近だと市街地まで5km近くあるので、それこそ「本庄早稲田駅」状態になるかと思います。

快速が頻繁に走っているという理由ならば、新横浜も新神戸(または西明石)でも同じ条件ですから、私は、開業当初「こだま」しか停まらなかった新横浜と同じように、「なんだかんだいって、それでも便利やん」と使う人が多いと推測してます。
問題は、黒字の優良企業であるJR東海が単独で投資するべき「設備資産」をなぜ公共団体が寄付するのか、ではないでしょうか?
滋賀県内で反対運動が強いのは、一つはJR東海への寄付への反感、もう一つは湖南~湖東地方の極端なマイカー社会の構造に原因があると私は感じてます。
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デルタ様 ()
2006-12-26 09:38:13
 コメントありがとうございました。私も関西に長く住んでいたのですが、栗東駅に関しては立地としても不適切という印象を持っています。もう一つ造るにしても近江八幡の方が適切な選択だと思います。

 といっても私の感覚からすれば、近江八幡でも米原乗り換えでとくに不便はなく、栗東の場合、京都乗り換えで全く不便でないように思えます。在来線の快速の本数も多いですし、大阪に通勤する人々が新幹線を使うとは思えませんし・・・・。
 
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今頃コメントしてすみません (デルタ)
2006-12-25 22:33:23
私、長らく滋賀県に住んでましたからそう感じるのかもしれませんが、嘉田さんは、無名の新人と到底言えない有名人でしたよ。
滋賀県民の琵琶湖水質保全への取り組みは、深く長い積み上げがあります。'70年代の粉石けん運動のころ中核だった方たちが、そろそろ勤め人としてリタイアされだしているというくらいの歴史なのです(苦笑)。
……そういう意味でも、良い時期の立候補だったといえそうですね。
既成政党のアンテナ感度の低さ(特に党中央の)が如実に出たといえそうに思っています。
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加藤学様 ()
2006-07-07 01:38:33
 加藤さんが奮闘してこられたのも空しく、われらが故郷の信州民主党も滋賀県的な状況になっていること、大変に残念に思います。



 思えば民主党の滋賀県連も、「ムダな公共事業の見直し」を訴えた嘉田候補に対し、民主党の「古い体質」の部分が拒絶反応を引き起こしたのでしょうか。

 地道に、草の根の市民運動との連携を強化して、古い体質に依存せずとも自立できるよう長期計画で取り組んでいくしかないように思えます。 



 かくなる上は、信州においては、自民党候補への相乗りだけは避け、「自主投票」という選択をしていただきたく存じます。

 

 
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関様 (加藤学)
2006-07-06 18:10:12
滋賀県知事選の結果は民主党のジレンマを象徴した結果でした。県議・市議レベルは現職の総与党体制に擦り寄って、与党面して議員として生きていきたい。しかし、国政レベルでは政権交代を目指す以上、自民党との相乗りはできない。かといって、現職が勝った場合にそれに乗っていないと党のダメージは大きい。長野県の民主党もそうだが、多くの議員が自民党時代の与党体質をひきずっていて、対決姿勢に徹しきれていません。選挙は古い後援会組織を基盤に戦っているので、古い体質の支持層を切ることができません。政権を本気にとるのであれば、民主党は、国会議員から地方議員までもが、市民政党に徹しきって、新しい支持層の開拓に本気に乗り出さなくてはならない。そのためには、自ら抱える古い体質の支持層から距離をとる勇気も必要であるといえる。
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山澤様 ()
2006-07-05 09:40:34
>この草の根ネットワークが嘉田さんを選んだのだと

>思います。



 この点、おおせの通りだと思います。30年間にわたって琵琶湖沿岸でフィールドワークを続け、琵琶湖の水問題に取り組んできた嘉田先生の草の根ネットワークの力というのはものすごい力で、政党組織や利権集団の組織的動員力以上の草の根の力を示したともいえると思います。

 本文に書いた飲み会の場では、そのような点も話し合われました。舌足らずをお詫び申し上げます。



>今回の結果は、小泉選挙との共通性よりも違いの方

>を注目すべきではないかと思います。



 そうですね。嘉田現象は、やはり小泉現象やその前の田中現象とは異質な側面を多く持つと思います。何せあれだけ地道に、長期にわたって近江の湖と大地に深く根ざしていた人ですから。草の根の基盤を持つ嘉田由紀子の場合、神戸から信州へ「舞い降りた」田中康夫現象とは明らかに異なっていると思います。



 小泉との違いを述べれば、国政レベルでの指導者の選択はどうしても地に足がついていないのでイメージが優先しがちですが、県レベルの場合、やはり地元の人々はちゃんと候補者の地元における実績や人柄を総合的に評価できる余地が大きいと思います。滋賀県民の選択は、イメージに流された小泉現象とは、その点異質なものでしょう。



 以上、本文の分析の甘さと誤りを訂正させていただきます。

 

 
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選挙心理をどう読むか (山澤)
2006-07-05 01:53:36
>小泉に投票した人の心理と、嘉田さんに投票した人の心理ってじつはあまり変わらないような気がする。要するに既得権益に縛られていないというクリーンなイメージ。それにルックスのよさとか。まあ、小泉の場合のイメージはマスコミが作り上げたものなのだけれど・・・



はあったてるでしょうね。同時に地方選挙だとマスコミの影響力ってさほど大きくないから、本当に人物重視、政策重視で判断できる部分がでてくるのではないでしょうか。



>いや小泉のワン・フレーズ・ポリティクスはじつに効果的だった。あれは野党も学ぶべきなんだ。野党にもあんな演説のできる人間がいれば、選挙結果は全く変わるかも知れない



これはどうだろうと思います。民主小沢氏は同じ路線で対抗しようとしているようにも思われますが、それじゃ勝てないのではないでしょうか?大切なのはやはりマスメディアに打ち勝つだけの草の根メディア(ブログを含む)だと思います。



そう考えると嘉田さんは確かに組織の上で動いたのではないと思いますが、滋賀には環境運動のしっかりとした基盤があります。これは確かに日本が誇れるものだと思います。(嘉田さんも所属しておられた琵琶湖研究所の建替えに関係しましたのでこのことは私も確信しています)



この草の根ネットワークが嘉田さんを選んだのだと思います。ただ逆にいえば、こうした草の根がゆるやかにしか連携できないというところに、現在の環境運動の限界があるのも事実だと思いますが、少なくとも今回の選挙では、そうした草の根ネットワークが「動いた」とはいえるのではないでしょうか。



あとめるならば今回の結果は、小泉選挙との共通性よりも違いの方を注目すべきではないかと思います。

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