代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

東アジア共通の価値観

2006年02月19日 | 東アジア共同体
 去る2月13日韓国のソウルで「日中韓賢人会議」というものが開催されたそうです。日本からは中曽根康弘元首相、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長、梅原猛・国際日本文化研究センター顧問、榊原英資・慶応大学教授などが参加しています。『日本経済新聞』はその内容を詳しく報道しておりました。私がこのブログでも触れたことがある「日中韓鉄鋼共同体」構想なども真剣に議論されたようで、大変に嬉しく思った次第です。

 改憲派の急先鋒の中曽根元首相と、「九条の会」の呼びかけ人でもある護憲派の梅原猛氏が、こと東アジア共同体構想に関しては意見が完全に一致するようで、仲良く国際会議にも出かけているというのは大変に好ましいことだと思います。人間、違う部分があるからといって対立を深め合うよりも、少しでも一致できる部分を見つけて一緒に何かをやろうと考える方がはるかに前向きなことです。

 さて、会議の中で梅原猛氏は、AU(アジア連盟)の結成を提唱し、「東アジアでは稲作文化や儒教を基盤とした祖先崇拝の精神を土台とすべき」と述べたそうです(『日本経済新聞』2月13日夕刊)。
 
 ここで「共産党の支配する中国で、儒教を基盤とした祖先崇拝の精神などあるのか?」と思われる方もいるかと存じますので、私の貴州省の調査地で撮影した写真を紹介したいと思います。私がホームステイさせていただいた農家の仏壇の写真です。
 左右にそれぞれ三段の枠があり、そこに信仰対象である仏や神や人の名前が細かく書かれています。向かって右上には釈迦・孔子・老子が祭られ、左上には三皇五帝などが祭られています。左中段には建築の神様・魯班や酒の神様・杜康、右の中段には菩薩・観音や玄天上帝などが祭られています。そして左下の段になって自分の家の先祖が祭られているという構成になっています。ちなみに毛沢東の名はありません。

 この地域では、釈迦・孔子・老子を同列に扱って崇拝しており、仏教も道教も儒教も渾然一体化していました。しかし祖先崇拝の信仰は、濃厚に日本と共通していました。お盆になると仏壇の前で迎え火を焚いて先祖を迎え、供物を捧げてお祈りをし、お盆が終わるとまた送っていくのです。
  
 文化大革命中は、こうした仏壇は全て撤去され、代わりに毛沢東の肖像が掲げられていたそうです。80年代に少しづつ復活し、いまでは完全に元通りです。この地域の村々にあった仏教寺院は、文化大革命中にみんな壊されてしまったのですが、いまでは復旧ブームに湧いていて、あちこちで再建中でした(貴州省の山中の非常に貧しい地域であるのも関わらず)。
 
 基層社会の文化的土台というものは、毛沢東が頑張って破壊しようと試みても、そう簡単に壊れるようなものではないのです。
 中国のいくつかの農村で滞在調査をしてきた、私のささやかな経験を通しても、日本と中国のあいだの「共通の価値観」というものを濃厚に感じてきました。米国人と話していても、そうした基層レベルでの「共通の価値観」を感じたことはないのです。
 
 
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2 コメント

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kenさま ()
2008-09-03 15:07:20
 コメントありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

>日本が現在置かれているような、世界の最先端で次
>の世代の産業を創生する役割を期待される国はやは
>り米国の特にシリコンバレーのような場所に学ぶ部
>分はあるのではないでしょうか?

 たしかに日本は模倣から創造へと、国の戦略を変えていかねばなりません。しかし、その場合も日本型の政府のリーダーシップは必要になると思います。
 アメリカのIT革命にしたって、ゴアの情報スーパーハイウェイ構想という、政府のリーダーシップに民間が呼応したという側面が大きいと思います。

 日本型で変えるべきもっとも重要な点は、従順な人間を画一的に生産するのに適していた教育システムだと思います。これを、人の言うことなんか多少聞かなくても、創造的な思考ができる個人を要請するという、アメリカ型の教育システムに変えていく必要があるのではないでしょうか。
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Unknown (Ken)
2008-08-01 22:46:59
昨日TBさせていただいたKenです。
バイオエタノールの話でTBさせていただいたのですが、こちらの東アジア共同体も興味深く読ませていただきました。

大まかにこのカテゴリーの内容には賛成です。というより、自分のブログでもシリーズで書いていこうと思っていたことと似ています!議論させていただき、内容を高められれば、と思います。

価値観については、実感として私の友人の中国人と話す方が欧州の人間と話すよりも話が盛り上がることが多いです。

中国人と「セブンイヤーズインチベット」(アメリカの映画ですが^^;)を見た時に、その中に出てきた、「西洋では自己を誇示できる人を評価するが、東洋では自己を抑制することが出来る人が評価される」というセリフに合わせてうなずいたことを思い出します。

ただ、一点指摘したいのが、日本型民主主義と述べられているものは、開発途上国やある程度決められた枠組みの中で経済を運営する場合に有効であるという制約があることです。
日本が現在置かれているような、世界の最先端で次の世代の産業を創生する役割を期待される国はやはり米国の特にシリコンバレーのような場所に学ぶ部分はあるのではないでしょうか?
そして、自分はそのスタイルで行くが、他のアジア諸国には押し付けないというのが正しいかと思います。

長くなりましたが、失礼します。
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