このブログでは滅多に書評を書かないのですが(なかなかヒマがないので)、いま時間があるので書きます。マイナーな本ですが、昨年出た板倉聖宣著『ハングルを創った国王 世宗大王の生涯』と、一昨年に同じく板倉氏が出した『勝海舟と明治維新』という二冊を紹介します。双方とも仮説社刊です。
この2冊の本は対になっています。著者によれば、この本を書いた目的は以下のようなものです。
日本人には「韓国・朝鮮の偉人」と言われてもどんな人がいたのか知っている人はほとんどいない。逆に、韓国やあるいは他の国の人々も、日本にはどんな偉人がいたのかあまり知らない。しかるに日本人も韓国人も、中国や米国といった大国の偉人はよく知っている。隣国としてお互いの偉人を知りあうべきではないか。
そういう問題意識で、日本人を含め世界が知るべき韓国の代表的な偉人として世宗大王(1397~1450)、そして同じく韓国・中国を含め世界が知るべき代表的な日本の偉人として勝海舟(1823~1899)を選び、それぞれ紹介しようという意図のもとに書かれた伝記です。ここで代表的日本人として勝海舟を上げたことに関しては、評価が分かれるかも知れませんが、私としては拍手したくなってきます。
世宗大王というと、ハングル文字を考案した王様として韓国語を学習した日本人ならば名前はみなが知っていますが(私は残念ながら韓国語・朝鮮語は勉強したことがありませんが)、その生涯を詳しく知っている人はほとんどいないようです。というのも、日本人が日本語で書いたまとまった伝記というのは、片野次雄著『世宗大王とハングル』(誠文堂新光社、1985)の一冊した書かれていなかったそうです。日本人による世宗大王の伝記としては、この本が2冊目ということになるのでしょう。
韓国人なら誰でも知っている偉人を、隣国に住む者が全く知らないというのはやはり「隣近所の付き合いのマナー」として問題があると思います。私も、この本を読んで、隣国にいた世宗大王という賢人の、これほどの業績の数々を知らなかったことを大変に恥ずかしく思いました。
この本は、中学生でも読めるくらいに易しく書かれています。しかし、内容はといえば大人が読んでも面白いし、専門の歴史学者が読んでも新しい発見があって面白いだろうと思います。というのも、板倉氏は「仮説実験授業」を発案した教育学者としての知名度が高い方ですが、そもそもの専門は「科学史」です。世宗大王の伝記にしても、当時の韓国における日本よりも進んだ科学・技術の発達史をとくに注意を注ぎながら書いているからです。
たとえば、「朝鮮はすでに1274年の元寇のときから火薬と鉄砲の技術を知っていたのに(「蒙古襲来絵詞」に描かれています)、日本人は1543年の種子島まで鉄砲を知らなかったのは何故か?」と聞かれて、その答えが分かる人はいるでしょうか。この本は、世宗大王の科学・技術政策と絡めて、そうした疑問にも答えています。
著者によれば、世宗大王の当時、水車や製紙など日本の方が優れていた技術もあったが、農業・医療・火薬・天文・数学など、総合的に見て韓国は、科学技術面で日本よりも200年は進んでいた、とのことです。
さて、韓国人なら、「日本の歴史的人物は?」と聞かれれば、豊臣秀吉とか伊藤博文などの名をすぐに挙がるでしょうが、それらの人々は「憎しみの対象」でしかないので、アジアの視点から見て誇ることができる日本人というと、韓国人もあまり思い浮かばないのではないでしょうか。
板倉氏は迷わず勝海舟をあげます。私も、中国人や韓国人にはぜひ勝海舟の存在を知ってほしいと思っています。なぜって、幕末当時から、日本・清・韓国の三か国が連合艦隊を創建し、近代化のための支援も行って、全アジアが連携して欧米列強の脅威に対抗すべきだ、と論じていた人物だからです。
板倉氏も、この本の中で、一万円札が「脱亜入欧」の福沢諭吉なのは好ましくない、勝海舟にすべきだと論じています。
信州人の私としては、「いや一万円札は、勝海舟や吉田松陰や小林虎三郎(米百俵で有名になった長岡藩士)の師である佐久間象山の方が・・・・」と言いたくなるところもあるのですが、佐久間象山では信州の地域通貨の肖像ならば文句ないでしょうが、全国規模の紙幣としてはあまり賛同を得られそうもないので、やはり勝海舟が適任だと思います。
とにかく全国通貨の肖像が福沢諭吉というのはよくない。
ネットでは、福沢諭吉が延々と使われるのは、竹中平蔵やら加藤寛やら小泉純一郎やら、日本をアメリカ化しようと目論む、慶応に巣くう市場原理主義一派の陰謀でないかというウワサもまことしやかに語られています。日本の経済改革として、脱慶応化(=脱市場原理主義化)は絶対に必要なことです。もちろん慶応によい先生方もたくさんいますが、一部に米国のエージェントみたいな人々が巣くっているのも事実です。
脱慶応化の象徴として、福沢諭吉から勝海舟への万札の交代は非常によいことだと思います。
「坂本龍馬を一万円札に」という声も全国的には大きいですが、勝海舟なら龍馬の先生なのですから、龍馬ファンの方々にも文句ないでしょう。
なぜ勝海舟が適任だと思うのか、説明しだすとさらに長くなりそうなので、また別の機会にしたいと思います。
この2冊の本は対になっています。著者によれば、この本を書いた目的は以下のようなものです。
日本人には「韓国・朝鮮の偉人」と言われてもどんな人がいたのか知っている人はほとんどいない。逆に、韓国やあるいは他の国の人々も、日本にはどんな偉人がいたのかあまり知らない。しかるに日本人も韓国人も、中国や米国といった大国の偉人はよく知っている。隣国としてお互いの偉人を知りあうべきではないか。
そういう問題意識で、日本人を含め世界が知るべき韓国の代表的な偉人として世宗大王(1397~1450)、そして同じく韓国・中国を含め世界が知るべき代表的な日本の偉人として勝海舟(1823~1899)を選び、それぞれ紹介しようという意図のもとに書かれた伝記です。ここで代表的日本人として勝海舟を上げたことに関しては、評価が分かれるかも知れませんが、私としては拍手したくなってきます。
世宗大王というと、ハングル文字を考案した王様として韓国語を学習した日本人ならば名前はみなが知っていますが(私は残念ながら韓国語・朝鮮語は勉強したことがありませんが)、その生涯を詳しく知っている人はほとんどいないようです。というのも、日本人が日本語で書いたまとまった伝記というのは、片野次雄著『世宗大王とハングル』(誠文堂新光社、1985)の一冊した書かれていなかったそうです。日本人による世宗大王の伝記としては、この本が2冊目ということになるのでしょう。
韓国人なら誰でも知っている偉人を、隣国に住む者が全く知らないというのはやはり「隣近所の付き合いのマナー」として問題があると思います。私も、この本を読んで、隣国にいた世宗大王という賢人の、これほどの業績の数々を知らなかったことを大変に恥ずかしく思いました。
この本は、中学生でも読めるくらいに易しく書かれています。しかし、内容はといえば大人が読んでも面白いし、専門の歴史学者が読んでも新しい発見があって面白いだろうと思います。というのも、板倉氏は「仮説実験授業」を発案した教育学者としての知名度が高い方ですが、そもそもの専門は「科学史」です。世宗大王の伝記にしても、当時の韓国における日本よりも進んだ科学・技術の発達史をとくに注意を注ぎながら書いているからです。
たとえば、「朝鮮はすでに1274年の元寇のときから火薬と鉄砲の技術を知っていたのに(「蒙古襲来絵詞」に描かれています)、日本人は1543年の種子島まで鉄砲を知らなかったのは何故か?」と聞かれて、その答えが分かる人はいるでしょうか。この本は、世宗大王の科学・技術政策と絡めて、そうした疑問にも答えています。
著者によれば、世宗大王の当時、水車や製紙など日本の方が優れていた技術もあったが、農業・医療・火薬・天文・数学など、総合的に見て韓国は、科学技術面で日本よりも200年は進んでいた、とのことです。
さて、韓国人なら、「日本の歴史的人物は?」と聞かれれば、豊臣秀吉とか伊藤博文などの名をすぐに挙がるでしょうが、それらの人々は「憎しみの対象」でしかないので、アジアの視点から見て誇ることができる日本人というと、韓国人もあまり思い浮かばないのではないでしょうか。
板倉氏は迷わず勝海舟をあげます。私も、中国人や韓国人にはぜひ勝海舟の存在を知ってほしいと思っています。なぜって、幕末当時から、日本・清・韓国の三か国が連合艦隊を創建し、近代化のための支援も行って、全アジアが連携して欧米列強の脅威に対抗すべきだ、と論じていた人物だからです。
板倉氏も、この本の中で、一万円札が「脱亜入欧」の福沢諭吉なのは好ましくない、勝海舟にすべきだと論じています。
信州人の私としては、「いや一万円札は、勝海舟や吉田松陰や小林虎三郎(米百俵で有名になった長岡藩士)の師である佐久間象山の方が・・・・」と言いたくなるところもあるのですが、佐久間象山では信州の地域通貨の肖像ならば文句ないでしょうが、全国規模の紙幣としてはあまり賛同を得られそうもないので、やはり勝海舟が適任だと思います。
とにかく全国通貨の肖像が福沢諭吉というのはよくない。
ネットでは、福沢諭吉が延々と使われるのは、竹中平蔵やら加藤寛やら小泉純一郎やら、日本をアメリカ化しようと目論む、慶応に巣くう市場原理主義一派の陰謀でないかというウワサもまことしやかに語られています。日本の経済改革として、脱慶応化(=脱市場原理主義化)は絶対に必要なことです。もちろん慶応によい先生方もたくさんいますが、一部に米国のエージェントみたいな人々が巣くっているのも事実です。
脱慶応化の象徴として、福沢諭吉から勝海舟への万札の交代は非常によいことだと思います。
「坂本龍馬を一万円札に」という声も全国的には大きいですが、勝海舟なら龍馬の先生なのですから、龍馬ファンの方々にも文句ないでしょう。
なぜ勝海舟が適任だと思うのか、説明しだすとさらに長くなりそうなので、また別の機会にしたいと思います。
世宗大王の本は残部僅少だそうで、まだ読めておりません。
最近のYahoo知恵袋での嫌韓コメントはある一線を越えてしまったようです。
平気で相手を全否定するのです。捏造合戦の方がまだ可愛げがあったのですが。
「Yahoo知恵袋は戦場である」と思った方がいいでしょうか。怖いです。
ここがドイツだったらこういう言論は表に出ないと思うのですが。
水車技術は日本方が進んでいて、世宗大王が日本の水車を導入しようとして失敗したという記述は、板倉氏の本に書いてあります(同書の62-67頁)。ただ失敗の原因は、技術力の差異というよりも自然条件の差異に起因するようです。(急こう配の河川が多いという点で日本ほど水車の普及に適した自然条件の国は少ないです)。
もしかしたら日本のネットの嫌韓論客が「世宗大王は日本の水車の導入に失敗した」という主張の、そもそもの出所は板倉氏の本なのかもしれません。
板倉氏は、他の部分で「これでもか」というくらいに、朝鮮の方が進んでいた技術について記述しているのですが、それらは黙殺し、「水車技術」という日本の方が進んでいた事例のみを誇大に記述するというのは、日本のネット論客の歴史の歪曲の仕方も、韓国のウリナラ起源説に負けないすさまじいものがありますね。
韓国人による「歴史の歪曲」を批判する人たちが、それと同じレベルのことをやっているのでは全く先方を批判できませんね。韓日両国の視野狭窄ナショナリストたちによる歴史歪曲合戦といったところでしょうか。
その辺の論客が「世宗大王は日本から水車の導入を考えていたがどうしても製作することができなかった」と述べているのをよく見かけるのですが、板倉先生の本ではその辺はどうなっているのでしょうか。水車があったのが日本ではなく中国だったとしても私は怒るつもりありませんけど。
大航海時代以前なら、朝鮮のほうが進んでいるというのは地理的条件から見て当然に思えます。江戸時代後期になるとオランダの科学書が一般にも出回った影響もあり逆転するのですが。
それから今手元にある『坂本龍馬と朝鮮』という本によると、幕末・明治期の著名人はほとんど征韓派だと思ってまちがいないようです。勝海舟が日韓清の3国で西欧列強に対抗しようと言ったとき、現実主義者の彼は、朝鮮が黙って協力してくれる、と考えてはいませんでした。一度力で屈服させる必要があると思っていたのです。
私も福澤よりは勝のほうが好みなのですが、中韓への友好をアピールしたいなら聖徳太子を復活させた方がよいかと愚考しますが。
韓国側の「捏造」については次の機会がありましたら述べることといたします。
コメントありがとうございました。
学術的な次元でしっかりと議論する必要がありますね。
しかしデルタさんも書いていますが、なにをもって「オリジナル」とするのかが非常に難しいですね。たとえば、日本の将棋のルールは「相手から奪った駒を使ってよい」という日本にオリジナルなルールがありますが、「軍勢を率いて相手の王を奪うゲーム」という点では、将棋はインド起源というのと同じように。
「日本刀」は日本のオリジナルでも、そもそも刀の製法を伝えたのは朝鮮半島からの渡来人ではないか・・・・、製鉄技術そのものが渡来人起源ではないか、など。
各国の文化が相互に影響を及ぼしあっているので、お互いの寄与度をそれぞれ認めて、尊重するのが建設的なのではないでしょうか。
もっとも韓国でナショナリズムが非常に強くなって行き過ぎた主張があるのは事実だと思います。経済発展を急速に遂げた若い国は一般的にナショナリズムが強く出すぎる傾向があります。成熟を待つことだと思います。
>まあ、笑い話になる分にはよいのです。感情的に>受け止めることのほうが滑稽だと思います。
理性的に受け止めようとするのは大切です。
しかし、現状韓国が行っていることを知れば、「笑い話」になっていないから困るのです。
韓国は、アメリカやヨーロッパで、明らかに日本が起源のものを「韓国起源だ」と宣伝してまわっています。剣道、合気道などいろいろなものが、その標的とされています。
それでネタではなく実際に「韓国起源だ」と思っている人が増えているから困るのです。
インターネット上で調べればすぐにわかります。(ネットのソースが信じられないといわれればそれまでですが…)
この問題は根が深いので、簡単に感情論だとは思っていただきたくなくて、投稿いたします。
ご再考を望みます。
デルタさん、私に代わって答えてくださってありがとうございました。
たしかにウリナラ起源説のたぐいは、お笑いネタとして楽しめばよいのではないでしょうか。
日本にもたくさんあります。源義経は欧州で死ななくて、大陸にわたってチンギスハンになったとか。モンゴル人が聞けば、やっぱりよい気持ちはしないでしょうね。
まあ、笑い話になる分にはよいのです。感情的に受け止めることのほうが滑稽だと思います。
ただ世宗大王の当時の朝鮮が、天文・暦・農具・医学などで日本より格段に進んでいたことは、歴史学的に否定できない客観的事実ですから、こうした事実は知っておいた方がよいと思います。秀吉の朝鮮侵略が、いかに朝鮮半島に壊滅的打撃を与えたかも知っておいた方がよいでしょう。
「ウリナラ起源説」ていわはりますけど、
日本にもありますやん、キリストの墓が旧戸来村にあるとか、あの種のものですから、そりゃーウソでしょうし、みんなネタとして楽しんでいるだけですけどね(苦笑)
また、
少なくとも、茶道と剣道は日本のオリジナルとも言いにくい面がありますよ。
歴史的な経緯があって李朝の間に廃れたとはいえ、韓国にも茶道の原型にあたるものが禅宗の伝来とともに伝来していましたし、近年そのころの記録を手がかりにして韓国の茶道が復興したのも事実です(韓国でいう茶道は、日本でいう煎茶道に近いものです。だから茶道のパクリとは言えません。それに日本の煎茶道自体が清朝時代の文化に強く影響されています)。
また、日本の剣道は在来の剣術と禅思想とが結びついたもので、原型になる剣術は朝鮮半島にもあったし、日本同様に禅思想と武道とが結びついた例も(偶然にも剣術ではなかったけれど)あります。
つまり、在来の文化としての武術と中国からの禅思想とが融合した、という点で、日本の武道自体が純然としたオリジナルではないともいえるし(中国の少林寺拳法と同じ仕組みじゃないですか!)、
逆に日本の武道がオリジナルと呼べるならば、同様に韓国の伝統剣術もオリジナルの剣道とも言えるでしょうね。
日本の剣道、茶道、柔道、武士もすべて韓国起源だと主張し、極最近ではカメラ付携帯もワンセグ携帯まで韓国が起源だと主張しています。
これらの韓国による捏造、文化簒奪は調べれば直ぐにわかります。
わずかな書籍だけを鵜呑みにすると危険ですのでご注意下さい。
私は高校のときの物理の授業で仮説実験授業を受けていたので、その授業法のすばらしさは実体験しています。
私自身、板倉氏の作成した授業書をそのまま使うわけではありませんが、「予想を立てさせ、実験する(社会科学の場合、統計など実証的データを見せる)」という方法は大学での授業に取り入れています。
私の場合、板倉氏の社会科学理論には、批判的な部分が多いのですが(板倉氏は経済理論をちゃんと分かっていないので、その点で多くの間違いをしています)、仮説実験授業は、日本で生まれた世界に誇るべき授業法だと思います。
板倉さんのお名前を拝見し、もう20年以上も前に、仮説実験授業のセミナーに行ったことを思い出しました。なつかしい~。
別に教師だったわけではないのですが、面白そうだったので、迷わず参加しました。
このセミナーではわたしは絵画の指導の方に興味が行ってしまい、1万円札(だったでしょうか?)が磁石につくこと、ジャガイモは根ではない、茎だ、から始まる講演内容はほとんど覚えていませんが、語り口から休憩時間のリラックスした様子からお人柄が垣間見えて、楽しい1日でした。