日本維新の会の鈴木望氏は9日夜、浜松市のJR浜松駅前で演説を始めた。ところが開始からわずか2分後、司会者に制止され、代わりにマイクを握ったのは到着したばかりの橋下徹代表代行。そこで思いがけない発言が飛び出した。
「原子力発電所の問題は、はっきり言って選挙のあまり重大な問題にはなっていない。どの政党も原発を少なくしていくってのは、みんな同じ考え方だ」
鈴木氏は静岡3区内にある運転停止中の中部電力浜岡原発(御前崎市)について、再稼働の是非を問う住民投票条例の制定を求める市民運動で知名度を上げ、選挙戦でも「廃炉」を訴えてきた。橋下氏より先に3区に入った野田佳彦首相と自民党の安倍晋三総裁は示し合わせたように原発問題を「素通り」し、主張の違いはより鮮明になるはずだった。
だが、この前日、全国的な自民党優位の情勢に危機感を抱いた鈴木氏陣営の静岡県議は「争点を『自民党政治に戻すのか、戻さないのか』に変えた方がいい」と記者に語っていた。これが橋下氏の演説の伏線だったのかは定かではない。ただ、鈴木氏とともに市民運動に取り組んだ支持者には「石原慎太郎代表が合流し、維新の原発政策があいまいになった」という不満が残り、鈴木氏が廃炉を強調するほど、党とのずれが顕在化することを陣営は懸念していた。
一方、自民党は原発問題を争点にしない方針を徹底している。10日昼、JR掛川駅前で宮沢博行氏と並んだ小泉進次郎青年局長は1000人近い聴衆に「自民党を若返らせる。過去の自民党に戻るんじゃない」と歯切れよく訴えた。具体的な政策論はなし。党への追い風に乗って選挙戦を制しようという意図が透けた。
磐田市内の宮沢氏の選挙事務所には公示後、中部電力副社長らが「陣中見舞い」に訪れた。陣営幹部は「鈴木さん一人が廃炉と言っても、実現できるわけがない。分かっている人は多いよ」と語る。
民主党の小山展弘氏も9日、掛川市で開いた決起集会で浜岡原発に触れず、社会保障問題を重点的に訴えた。代わりに、地元政界に影響力を持つスズキの鈴木修会長兼社長が「浜岡だけでなく、全国の原発をどうするかを考えなければいけない」と助け舟を出した。