七十年代後半、ネバダで実施されていたベテルホースによる生きた動物の裁断実験は、七十年以内に停止を見る。
しかし時を置き、動物の死体裁断実験が再開している。
転送されている、多様な刃の降り方を見せる機体群は、操作法を所掌する空軍の組織倫理を、刃の下降軌道で、非倫理性で、ズタズタに切り裂く。
円柱を形成すべくかのように、円柱側面のみに、下の方へ、縦に刺さりまくる刃群の中央に、死体を留置すると刃が回転していく。
視認速度に収まるその速度は、死体を底から、竜巻の発生を示す、抉り抜かれ状に穿孔していく。
オス、縦なる刺さりまくり刃に対し、メス構造らしき、下での渦状、刃への滑り流し機能らしき刃群を、円周回転するオスが動かす。
いずれが、主体なのか、回転を始めるとすぐさま、不可解に至る。
渦状の中央には、渦が回転すると、四本の注射器の筒状が上下に、それぞれがざんばらに動く。
これは刃状ではないが、とにかく、留置物を中央底部より、くり抜いていく。
重機を操作し、直径八米の穴に、上空から空軍が投下していったのは、裁断措置に向けて、薬物や毒ガスで殺害した動物の死体だった。
投下されたのは、地球人の手早い言語捉え曰く、地球中の動物の死体だった。
何ら功利を、一切、提示せず続けに終始した。
ネバダに満ちし、異星人動態の逼迫性に対し。
現場が想像していた意味は、発生してはいなかった。
動物裁断実験は、米軍にとって、実は無意味だった。
三週間から四カ月半にわたり、ネバダ地下の狭い監獄が上下に二階並びで、並び続ける区画に動物は監禁された後、殺されていく。
薄い水色の電色は動物の精神へ鎮静効果を及ぼしていたが、窮屈感から動物を解放はしない。
皆、泣いていた。
“ひとひとへの見せ物にされるのではなく、こんなところに色んな、違う奴らと一緒に閉じ込められるだけだなんて、全然詰まらないよーーー出してよーーー。”
等しく、ズタズタに、無意味に、裁断されまくっていった。
コアラ、カンガルー、鹿、シロクマの子供、イグアナ、ワシ、鷹、ヨウム、パイソン、リス、ウサギ、タヌキ、猿、チーター、虎、ラクダ、チンパンジー、ゴリラ、ヤギ、フクロウ、ミーアキャット、カバ、サイ、犬、オオカミ、ポニー、狐、ペンギン、ワニ、イルカ、シャチ、鯨の赤子、カピバラ、オランウータン。
各種、各種、各種、各種、各種、各種、各種、各種、そこら領域の全種。
長さ八十から九十糎の細い棒並び、二双がほんの少し上下に潰れた“X”字を描いていく。
左右、斜め上から、それぞれが求める方角へ突き刺さっていく、濃い灰色、棒並び領域の幅二・四米のこの機器は空軍により、“comb”、クシと呼ばれていた。
留置重量の重さに比例し、この機器は突き刺しの速度を遅く変化させていた。
“X”字を形成時、百八十糎となるこの機器に、人間輪郭が縛り付けられた事態は無かった。
生存中の動物が用いられた件数が在ったが、カバ、大蛇、ワニ、コアラのみだった。
カバの巨体を針、ではなく、八粍、六粍なる鈍い正方形面積との棒なる先端が、ゆっくりと突き刺していく。
カバはただ、泣いた。
涙を流し、絶叫し続けた。
“酷いよーーー、何でだよーーー、痛いよーーー、ひとひとに何も悪い事していないよーーー、口が大きい事は知っているよーーー、これを怒ったとしか思えないよーーー、何でだよーーー、酷いよーーー、口が大きいのはしょうがないよーーー、助けてよーーー、口が大きいからってこんな目に遭えって言ってくる生き物は、こんな檻を作るぐらい頭がいい事で気付く、大きな口を見つけて、こんな目に遭わせる衝動を溜めているから、僕よりも、もっと大喰らいな筈だよーーー、何で気付かないんだよーーー”。
周囲には、誰も居ない。
カバは何となく、その事に気付いていた。
“みんな大勢で黙って僕を食べているんだろーーー、こんな静かな口を、みんなで作るなんて、どれだけ強欲なんだよーーー”。
皮膚への接触から死亡まで、二分五十秒が経過する事となった。
最期への、四十秒はただ人間への憎悪に意識が染まり上がった。
“ひとひとが憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、あの頭に金色の毛が生えてにやついていた奴が憎い、憎い、憎い”
コアラは、三匹から四匹が同時に、機器へ縛り付けられた。
死亡への所要時間は九秒から十五秒だった。
“ぬぬあうあああああああああああああああああああああああああああああああ”
大蛇、ワニは、神経反応を示す、にただ終始していた。
四十七匹ものカバが、“comb”へ装填され、殺害されていった。
四例、四匹のみについての串刺し実験を、空軍が直接監査していた。
“軍人として、軟弱判断を集積せし指標を、決定ごと完遂精神にて、破砕せねばならない。
さもなくば、異星人動態に即応すべき組織精神が、軟弱雰囲気で溶解していき、ただ、畏怖を、地上へ、だらしなく、漏らし続ける、無限硝煙銃口と化すのみだ。
在ってはならない。
軍人の職責は、文明に巣食う野蛮に対し潔癖の盾を掲げる事だ。
一般人に、それを担わせるなど、軍人の恥だ。”
そして空軍の軍人は、“重要実験への立ち合い”から、無言で逃避していった。
八十年代半ば、こういったキチガイ状況に対する米軍の対決意識が、“comb”へ攻撃措置を及ぼすに至る。
空軍と海兵隊による、丁寧な議論を通じての軍紀の刷新が、ようやく反撃の相を帯び、“comb”を爆破するに至った。
高性能爆薬を据え付けられた“comb”等、“キチガイ状況支援物体”は空軍少将、海兵隊中将に率いられた一団により、破壊された。
“ただ、狂気の増幅に終始するのみが定めにして、地下のここにしつように君臨する毎夜の満月、ただ狂気の女神共よ。
死ね。
粉々になれ。”
“comb”により串刺しにされた、動物の死体の多様さは、先述の動物図鑑級なる広がりを残した。