哀演児(2)

2017年06月27日 | 健康・病気

その夕方の、Kデザイン研究所の学生が中心となる演劇グループの話し合いに、I と私は出席した。
場所は、原宿の喫茶店だった。
それまで私は、原宿なんて行ったことがなかった。
原宿というのは、明治神宮の前の商店街ぐらいにしか考えていなかった。
現在の原宿にも私は行ってないから、どのようになっているかまったく分からない。
たまにテレビで観るぐらいしか知らない。
I と私は黙ってみんなの話を聞いていた。
話を聞いていると、天井桟敷館を借りて、夏の頃にミュージカルを公演する。
そのために、原宿にアパートを借りて劇団事務所にするということだった。
劇団のリーダーは、東京キッドブラザーズにいた U だった。
その日の打ち合わせを進行していた男です。
パーマのかかった髪が顔を小さく見せていた。
私が見た感じではこれまで出会ったことのない男だった。
Kデザイン研究所を卒業して、そのときはグラフィックデザインの仕事をしていた。
私はその頃、会社を辞めようと考えていた。
ただただ金儲けのことだけを考えている社長について行けなかった。
会社の社長なんだから、会社の発展を考えることは自然なことだと今は思うが、
そのときは、なんかそんな社長を受け入れなかった。
私の“若さ”なんですかね。
3ヶ月ほど前に退職した龍彦とよく社長の悪口をいっていた。
今の私が考えると、あのときの社長は悪くないと思う。
しかし、あの当時の私は社長を許せなかった。
まだまだ人生を知らない、アホな青年でした。
私は、劇団の打ち合わせに出席して、会社を辞めようと決めた。
あんな会社でうじうじ自分の人生を終わりたくない。
「おれは、役者になるんだ~」と思ってしまった。
次の日、私は会社に辞表を提出した。

つづく

コメント
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