巨大な植物で満たされた原色のジャングルに、裸婦が長椅子に横たわっている大胆な構図。
アンリー・ルソーの代表作「夢」と酷似した幻の作品の真贋を巡る、絵画鑑定ミステリー。
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伝説的なコレクターからの依頼を受け、この魅惑的な難問に挑んでいく二人の若き研究者。
一冊の古書に書かれた「物語」を読み解いて判断するという、極めてユニークな鑑定方法。
読者は、彼ら二人と同様、この作中作の「物語」を読み進めて行くという「仕掛け」が秀逸。
自らが鑑定人に選ばれた気分にさせられ、思わず知らず、読書の世界へと誘われます。
ストーリーの展開や登場人物の設定には、少々難癖を付けたい気もないではありませんが、
それらを軽く封じ込めてしまうくらいの興奮度・サスペンス性を、この作品は持っています。
何よりも、著者の美術に対する深い愛情や敬意が、作中人物の思いに投影されています。
ミステリーとしての面白さもさることながら、そういう「情熱」が読み手の感動を誘うようです。
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高樹のぶ子さんの「マルセル」を読んだ後で、この作品に出会えたことも幸せなことでした。
そして、先日発表された「直木賞」の候補作にも! 17日の審査発表が待ち遠しく思います。
いつも通りのayachinさんの滑らかな書評に、感服してしまいました。
直木賞は残念でしたが、言われるように著者の絵画に対する情熱がよく表れている作品でしたね。
元々、長文を書くのが苦手なので、知らず知らずのうちに今のスタイルになりました。
クラシック音楽とか漢詩のもつ形式美が好きなのも、影響しているのかもしれません。
新聞報道によると残念ながら、「楽園のカンヴァス」は僅差で受賞を逃したそうです。
名画の謎をめぐる物語は、「大きなうそを描いている」と評価されている反面、
「作中に登場する物語が弱い」といった欠点を指摘する声もあったそうです。