美術書としては異例の、全3冊で累計20万部を超える「怖い絵」シリーズの完結編です。
著者の中野京子さんは、ドイツ文学・西洋美術史がご専門の、早稲田大学の先生です。
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■ まずは、本の表紙からして「怖い」のです。 フュースリの「夢魔」という作品。
のけぞった若い女性の腹部に、醜悪な姿をした「異形のもの」が! 夢で犯されている?
■ ルーベンスの「メドゥーサの首」のように、グロテスクの極みのような作品もあれば、
いったい何処が怖いのかわからない、「平和的」に見える作品も含まれています。
■ 当時の社会的状況などを基に、作品に対する中野さんの「読み解き」が始まります。
すると、どうでしょう? 「怖さ」が、ひたひたと押し寄せる波のように伝わってきます。
■ この本の中で、私が特に惹かれたのは、レーニ作とされる「ベアトリーチェ・チェンチ」。
処刑される前日に描かれたという、虚ろで悲しげな表情で振り返る、薄幸の美少女。
■ 鑑賞する際、余計な「先入観」は、純粋な感性を鈍らせるという考え方もありますが、
本書の解説のような「予備知識」を持つことは、作品に広がりと深みを与えてくれます。
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本書は、美術愛好家の方が読まれても、十分納得できる充実した内容をもっていますが、
そうでない、歴史(西洋史)好きの方、ミステリー・マニアの方にも、お薦めの作品です。