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映画・演劇のレビュー

蓮見圭一『美しき人生』

2023-07-24 08:03:00 | その他
こんな小説があるのか、と感心する。ある記者がどこにでもいるような普通の男に取材して彼の人生を聞く。彼は高校の校長。56歳。大学を出て教師になり、管理職になった。話が上手く彼の卒業式の式辞は素晴らしい。それはただの挨拶ではなく、人生を感じさせる。心惹かれる。だから、卒業生だけでなく、みんなが聞きたいと思う。 記者はそんな彼の出自から、現在までの軌跡を聞く。初恋の思い出が中心になる。中2の頃、初めて . . . 本文を読む
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あみゅーず・とらいあんぐる『愛逢月冴えて』

2023-07-23 11:28:00 | 演劇
あみゅーずの「しゃば・ダバ・だぁリーディング 」もついに12回を迎えることに。今回のタイトルは『愛逢月冴えて』。2年ぶりの時代劇。着物を着て演じる。リーディングだけど、それだけで見ている僕らもなんだか身が引き締まる気がする。コミカルな風野真知雄『下げ渡し』からスタートしてしっとりとした藤沢周平『桐畑に雨のふる日』と続く。末永純子の琵琶演奏を挟んで最後は、あさのあつこ『もう一枝あれかし』。渋い選択、 . . . 本文を読む
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『ミッション・インポッシブル デッドレコニング  PART ONE』

2023-07-23 07:42:00 | 映画
監督・脚本は『ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション』以降の全シリーズを手がけているクリストファー・マッカリーが今回も担当。彼はトム・クルーズから全服の信頼を得ている。さらにはこれはシリーズ初の2部作。もちろん主演はトム・クルーズである。安易な2部作ではないことは確実だ。なんと2時間43分の大作である。アクション映画でこの尺は普通じゃない。もちろん映画自体も普通じゃない作品だ。前作『トップ . . . 本文を読む
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大谷高校演劇部『僕らは最強』

2023-07-23 06:24:00 | 演劇
これはなかなか大胆なタイトルではないか。普通自分からそんなことは言わない。せめて、『彼らは最高』くらいに止める。なのに『僕らは最強』である。これは最強の演劇部大谷が放つ荒唐無稽、言語道断のスペクタル大作。扱うのは高校卓球部。まるでどこかにある漫画の世界だ。見ながらこれは松本大洋の『ピンポン』ではないか、と最初は思った。映画化されアニメにもなった伝説の傑作へのオマージュか、と。だが、もちろんそうでは . . . 本文を読む
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恩田陸『鈍色幻視行』②

2023-07-23 05:57:00 | その他
「真実があるのは、虚構の中だけだ」と映画評論家の武井が言う。現実の世界より映画(虚構)の方が素晴らしい。   これはある呪われた小説を巡る因縁話。2度の映画化の頓挫。映画に関わった関係者の方々を集めて話を聞く。監督、脚本家、俳優、そしてこの小説を書いた作家。監督以外は映画に関わって死んでいる。今回集まった監督、評論家とその恋人、プロデューサー、ディープなファンである漫画家、編集者夫婦 . . . 本文を読む
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『オレンジ・ランプ』

2023-07-22 17:10:00 | 映画
三原光尋監督の久々の新作映画だ。うれしい。しかも今年は来月にも、もう1本新作が公開される。そちらは傑作『しあわせのかおり』(08)に続いて再び藤竜也とのコンビ作である。とても楽しみ。さらには年末にもう1作待機しているようだ。さて、だけどまず今はこちらから。  若年性認知症になった39歳の男性とその家族の物語。冒頭の病院での検査シーンから驚く。僕も彼と同じくらい忘れている。スプーンと歯ブ . . . 本文を読む
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西河克己映画記念館

2023-07-22 17:05:00 | 映画
大好きだった西河克己監督の業績を集めた「西河克己映画記念館」に行ってきた。鳥取県の智頭というところにある。大阪から青春18切符を使って行くことにしたが、なかなか上手く行けない。智頭急行や新幹線を使うといいのだが、在来線だけで行くなら、遠回りしてなんと片道6時間もかかるのだ。まぁ暇だから、それで行くことに。 智頭はいいところだった。観光客はたぶん僕だけ。どこに行っても人はいない。記念館でも僕ひとり . . . 本文を読む
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原田マハ『原田マハ、アートの達人に会いにいく』

2023-07-22 17:04:00 | その他
33人のアートの達人に会いにいく。みんな凄い人たちばかりだ。さまざまなジャンルにわたる人たちが登場して、原田マハは尊敬する彼らと向き合う。対談ではなく、対話。話すことでさらに刺激を受ける。彼女が会いたい人に会い、対話を通して新しい発見をしていく。それを目撃する僕たちも同じように刺激と発見をする。目が覚めるような驚きがそこにはある。知らない人から受ける刺激。知ってるはずの人から受ける驚き。そんなもの . . . 本文を読む
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『ママボーイ』

2023-07-21 07:26:00 | 映画
デビュー作『台北の朝、僕は恋をする』がなかなかチャーミングだった台湾のアービン・チェン監督第3作。マザコンの息子(『あの頃、君を追いかけた』のクー・チェンドン)が、母に少しだけ似た魅力的な年上の女性(ビビアン・スー)に恋する話。今回も難しい設定に挑戦している。年齢的に離れすぎているから(親子ほど)あまり恋愛という感じにはならない。このそんなかなり微妙な設定を安易なコメディにすることなく、シリアスに . . . 本文を読む
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恩田陸『鈍色幻視行』①

2023-07-21 07:17:00 | その他
まさかの650ページを超える大長編だ。しかもなんと15年もの歳月をかけて完結したものらしい。(もちろん、その間実にさまざまな作品をちゃんと発表しているのに)ミステリーなのにこんなにも長い歳月をかけて連載続けるってなんなんだろうか。一気に書かないとトリックも成り立たない気がするけど。当然悠々たるタッチで見せてくれる。ただ300ページを越えたけど、まだ話は序盤戦というのは、なんだかなぁと思う。2週間の . . . 本文を読む
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『遠いところ』

2023-07-18 17:43:08 | 映画
沖縄県のコザで幼い息子(2歳)を抱えて暮らす17歳の女性アオイ(花瀬琴音)を主人公にした人間ドラマ。彼女は幼子だけでなくまともに働かなくて酒浸りの夫も抱える。あり得ないくらいに重くて暗い話なのだが、スクリーンから目が離せない。こんな男とは別れたらいいと思うのは大人だから、だろう。彼女はまだ17歳の子どもなのだ。ひとりで生きていく覚悟はない。未成年だけど(だから!)キャバクラで働いている。だが摘発さ . . . 本文を読む
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『アイスクリーム・フィーバー』

2023-07-18 17:42:21 | 映画
川上未映子の映画化は今回が初めてではないか。これは彼女の短編小説『アイスクリーム熱』を原案にして、アートディレクターの千原徹也が初めて監督した作品。ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(1994)をイメージしたと、どこかに書いてあったので興味を持ったのだが、これはダメだ。あの傑作は時代を経ても残るが、これは風俗の表層を軽くなぞっただけで、残らない。川上未映子の世界を描くというわけでもなく、彼女の . . . 本文を読む
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加藤千恵『マッチング!』

2023-07-18 05:46:00 | その他
移動中の電車と映画、芝居の開演までの時間潰し(それは持ち運びが便利な短編集か短編連作の文庫本がいい)で読んだけど、なかなか面白く読めた。  たわいない内容だけど、読みやすいし、実はなかなか考えさせられるような小説だった。マッチングアプリを利用した出会いから始まるお見合い結婚を描くのではなく、自分探しになる。30歳、会社員。独身、彼氏は今はいない。焦ってはいないけど、このままでいいわけは . . . 本文を読む
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『モーリタニアン 黒塗りの記録』

2023-07-18 05:31:00 | 映画
これは2021年のイギリス映画。(一応はアメリカと合作だが)コロナ禍で公開され目立った興業収入も得られないまま市場からは消えていったが、これは凄い映画だ。   プロデューサーにベネディクト・カンバーバッチが名前を連ねている。黒塗りの記録を出版するという英断には驚き禁じない。そしてこれを映画化する勇気。カンバーバッチはもちろん役者として弁護士役を演じ主役のジョディ・フォスターと向き合う . . . 本文を読む
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小手鞠るい『鳥』

2023-07-17 16:12:00 | その他
『窓』『庭』に続く「世界を広げる3部作」の完結編。3部作だが3作はそれぞれ独立した作品である。主人公は別々の女の子。それは少女たちの人生と向き合う日々のスタートを描くスケッチだ。『窓』は亡くなった母の日記。『庭』は父の故郷であるハワイへのひとり旅。   そして今回は森にやってくる子鳥を見ること。それが作品の根幹にある。ふたりの中学生の女の子たちが主人公。アメリカ東海岸と京都。義姉妹の . . . 本文を読む
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