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映画・演劇のレビュー

『モーリタニアン 黒塗りの記録』

2023-07-18 05:31:00 | 映画

これは2021年のイギリス映画。(一応はアメリカと合作だが)コロナ禍で公開され目立った興業収入も得られないまま市場からは消えていったが、これは凄い映画だ。

 
プロデューサーにベネディクト・カンバーバッチが名前を連ねている。黒塗りの記録を出版するという英断には驚き禁じない。そしてこれを映画化する勇気。カンバーバッチはもちろん役者として弁護士役を演じ主役のジョディ・フォスターと向き合う。いや、主人公はタイトルにあるモーリタニアンだ。9・11の首謀者の一味というレッテルを貼られた彼の地獄が描かれる。演じたのは『預言者』でセザール賞に輝いた実力派タハール・ラヒム。
 
さすがにこれはアメリカ映画では作れないのか。実話の映画化は数あれど、制作時にまだ事件が進行中というなんて驚きだ。彼の釈放も含めて映画は取り込んでいる。本編の後に実際の今の、また当時の彼の姿が描かれるのも凄い。勾留から15年を経ての無罪。だが開放までは判決が出てもかなりの時間を要した。映画はドキュメンタリーではなく、完全な劇映画だが、ラストで現実の彼の姿と連動することで、映画として見たことが現実の彼の姿だったような気になる。あまりに凄まじい国家権力からの介入に、民主主義国家のリーダーのはずのアメリカですら現実はこんなえげつないことをしているのかと、暗澹たる気分にになる。だが、同時にこんなふうにちゃんと正確な取調べの記録を残すところには感心する。
 
9・11のテロの衝撃は大きい。アメリカ政府が国家の威信をかけて、犯人をなんとしても挙げたい気持ちもわかる。だからこんなにも躍起になって、暴走して吊し上げをしたのだということもわかる。だが、これはあり得ない。
 
監督は『ラストキング・オブ・スコットランド』のケビン・マクドナルド。民主国家のあまりの行為。それをこんなふうに暴いて映画にする勇気のには頭が下がる。しかも感情的にならず冷静な映画で、へんに感動を押し付けないのもいい。スタンダードサイズで描かれる地獄巡りと、それを冷静に暴いていく記録を並行して描く。(こちらはシネスコサイズで見せる)ふたつのスクリーンサイズで描き分ける。(ただ、今はシネスコになると反対にスクリーンが狭くなる劇場ばかりだから本来の効果は期待できない。もちろんTVでも同じだ)
 
今は劇場で見逃したけど、配信でちゃんと見れる。だけど、ちゃんとした映画館(シネスコになると横に広がる)で見たかった。

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