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映画・演劇のレビュー

『東京オリンピック』

2013-12-30 23:39:18 | 映画
 たまたまBSプレミアムでやっていたので、見た。今まで見ていなかった市川崑作品なので、これはうれしい、と3時間TVと向き合う。まず、冒頭のビル解体シーンに驚く。映画はここから始めるのだ。1964年の日本がここには浮き彫りにされている。これは東京オリンピックのドキュメンタリーであるだけではなく、あの頃の日本と言う国のドキュメンタリーだ。戦争が終わって、未来を失ったはずの日本人が、自分たちはもう復興を遂げたのだという自信に裏付けられた一大イベントを成し遂げる。これをちゃんと成し遂げることで日本は再び世界の一等国になるという使命感。アジア初のオリンピックを開催し、世界に日本を知ってもらう。平和国家として、世界に認められるため、この壮大なプロジェクトを成し遂げる。

 先に書いた冒頭のシーン、その後の聖火リレーのシーンから、開会式までの20分間が素晴らしい。何度となく涙が溢れた。戦争で壊滅的な打撃を受けた日本が、オリンピックという祭典を世界に向けて発信する。世界をもてなして、この難事業を見事にやり遂げる。これはそのための闘いの記録だ。

 スポーツを通して、世界がひとつになるという幻想なんて信じてはいない。それどころかスポーツは一種の代理戦争だ。だが、人と人とが出逢い、戦うことでお互いを理解出来る。知ることは大事だ。わかり合うためには、出逢わなくてはならない。そのための舞台がオリンピックだろう。

 あの頃の日本人にとってオリンピックはなんだったのだろうか。いくつもの顔が、コラージュされていく。競技の結果なんてどうでもいい。それを見つめる人々の視線のほうが興味深い。彼らが世界と出逢う瞬間が、ここには描かれる。同じように日本を訪れた外国人の様々な顔もモンタージュされる。

 これもたまたまだが、『日本万国博』という映画を数年前に見る機会があった。DVD化された記念試写会として劇場で上映された時だ。あの時はただ懐かしくて、(大阪万博は僕にとって、リアルタイムの体験だったからだろう。)それだけだったけど、この映画は違う。あの映画を見ることはあの頃の確認でしかなかったが、この映画はもっと客観的に見れる。これが自分の記憶にはない出来事だからだ。あの時代、まだ幼かった僕にとってオリンピックは、自分とはまだ関係のない世界の出来事だったからだ。

 だが、ここに描かれる風景には心当たりがある。あの時代、僕もまた生きていたからだ。50年前の日本は、今の日本にとってどういうものになるのか。ふたつの時代を対比させながらこの映画を見た。2013年(というか、もう後少しで2014年だ!)の今、2020年の東京オリンピックも視野に入れた目で、この映画を見る。あれから50年で何がどう変わったのか。そして、あと6年で何が変わることになるのか。あの時の日本とは違う日本がある今目の前位にはある。それが何なのかを見極める、これはそんな貴重な体験が出来る映画だ。

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