
172回芥川賞候補作。というか、乗代さんがまだ芥川賞を貰っていないなんて、驚き。今の彼なら芥川賞の審査員をしていてもいいくらいの作家だけど。だからまぁ、そんな新人賞はもういいかも。
新幹線の車内で『違国日記』の最終巻を読んだところから始まる。彼女はあの漫画と同じように叔母のことを思う。
彼は今回もマイペースでいつものように何もない作品を作っている。本人をモデルにした新人作家が弟の結婚式に参列するために仙台にやってきた数日を描く。5年前に亡くなった叔母のこと、式前夜、両家での食事会、弟と同室で過ごす夜のホテルで語り合ったこと、仙台で叔母と行くはずだった場所。
9回目の担任クラスでの修学旅行で仙台にも行った。三陸被災地を訪れた後、最終日の仙台では自由行動。僕はもちろん生徒たちとは離れてひとりで街歩きをした。牛タンのランチを食べて、ふらふらあてもなく歩く。青葉城趾まで足を運んでギリギリで集合場所に行く。クラス委員が点呼をしてくれている。10年ほど前になるあの数時間を思い出す。
結婚式の翌日、日曜日。新幹線の車内で会って読み終えた『違国日記』をあげた女子大生とふたりで過ごす。彼女の家の近所にある古墳、ランチは近所のイオンに行く。まるで友だちみたいに一日を送る。旅の途上で偶然出会っただけの人なのに。
初めて乗代雄介を読んだのは『旅する練習』。コロナ禍真っ盛りの2021年に読んだコロナを題材にした小説。あの時を思い出す。亡くなった叔母を思うこの作品を読んだ今という時の空っぽな気分。たった3日の旅。二四、五歳という時間。幼なじみと結婚したまだ23歳の弟。