
モンゴル出身、元相撲取りの男とその妻が主人公。ふたりは蕎麦屋をやっている。原宏一お得意のグルメ小説。今回のポイントはなんといってもモンゴル、相撲に尽きるだろう。万太郎(本名はガンボルト・バトヤバル)は日本に来て関取になるために頑張ってきたが、思うようにはいかず、相撲を断念する。希子と出会い結婚し、新橋烏森に店を開いた。「グルメもの」というより、猪突猛進の万太郎が自分と向き合う短編連作。
軸足をグルメから相撲の方に移したところが今回の新機軸であろう。万太郎は相撲から足を洗ったにも関わらず髷を落とさないで蕎麦屋の店主をしている。相撲界の八百長を描く3話『先輩』は切ない。相撲界、芸能界、音楽業界、TV業界、もちろん最悪なのは政治家か。上の人たちは自分たちの利益のことしか考えず、そのツケは我々庶民に払わされる。そんな現実を背景にしてモンゴル出身の万太郎はマイペースでみんなと共に行きやすい世界を作るために戦う。
いつもとは一味違う作品を、いつもと同じテイストで描く。さすがベテラン職人作家原宏一。