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映画・演劇のレビュー

湊かなえ『ユートピア』

2016-03-20 21:16:39 | その他

 

このストレートなタイトルとそれに呼応するような内容。最初は、こんなつまらない小説を読んでしまったことを後悔した。途中で何度となく止めようと思った。でも、途中で辞めるのは嫌いだから(でも、本気で時間のムダ、と思うとすっぱりやめるけど)最後まで読んだ。とりあえずは、納得はしたから、いいとする。だけど、あのオチはないわ、と思う。ああいう安易なオチを用意するから小説のレベルが下がる。もちろん、これ自体それほど高いレベルの作品ではないから、あれはあれでいいのかもしれないけど。作者があの程度で「してやったり、」と思ってるのなら、浅はか。まぁ、そこまでは思ってないだろうけど。

 

それにしても嫌な話だ。「善意は、悪意より恐ろしい」というキャッチコピーを目にした時から嫌な予感はしていたけど。ネットによる書き込み炎上というよくあるパターンを使う。地方の活性化のために、新しく入ってきた住人がこの町で暮らしてきた住人たちと手に手を取ってイベントを立ち上げる、なんていう美しい話にはならない。3人の主人公の女性たちのそれぞれ置かれた状況も、なんだかパターン通りで、そこから始まるドラマもありきたり。しかも、5年前の事件とか、ボランティア基金を巡る内紛とか、安物の2時間ドラマを見ている気分。(これは、きっとドラマ化されるね)

 

湊かなえはたまにしか、読まない。最初『告白』を読んだ時、凄い、と思った。こんな怖い小説を書く人が出てきたのか、と感心した。でも、その後、一気に加速して続々と新刊が出版され、すぐに減速する。今では、時間と暇があり、読む本がない時に手に取る。でも、そうすると時になかなか面白い作品の出会えることもある。まるで期待しなかった『絶唱』なんてとてもよかったし。

 

だが、こんなにも嫌な話でどこまでも見せていくのはある意味『告白』と近いかもしれない。だからこそ、もっとお話を突き詰めて欲しかった。これは安易な次元で妥協する作品ではなく、僕たち読者を地獄の底に突き落とすような傑作になったかもしれない。それだけに残念だ。

 


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