goo blog サービス終了のお知らせ 

習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『笑う警官』

2009-11-28 23:09:48 | 映画
 角川春樹渾身の力作である。12年ぶりに監督に復帰し、思いの丈をすべてこの1本にぶつけた大作映画となるはずだった。なのに、結果は見るも無惨な仕上がりになり、結局これで彼は映画界から完全に引退することになるだろう。少なくとも監督としての復帰はもう不可能だろう。プロデュサーとしても、この大失敗を取り戻すことは難しいはずだ。刑務所から出てきて、プライベートフィルムのような小品『時をかける少女』のリメイクで監督として復活し、今回は満を持しての大作映画であったのに。

 娯楽大作として、商業用映画としての勝負作である今回の作品は彼にとって起死回生の1作だろう。『蒼き狼』でプロデューサーとしても失敗しているのだ。彼にはもう後がない。70年代から80年代にかけて日本映画界を席巻した彼が自らも監督としてヒット作を作っていた頃、毀誉褒貶はあったが彼は常に時代のリーダーだった。

 しかし、今、彼は完全に時代から取り残された。もともと作家としての才能はない。でも彼には勢いがあった。そしてそれを味方につけて常に勝ち続けてきた。だが、もうあの頃のやりかたは通用しない。中身のない映画なんかに誰も振り向きはしない。

 今回の失敗はまず、彼がまともな映画の文体すら作れなかったことにあり、役者を動かすことすら出来ていない。これでは仕方ない。ブラックバードというバーに集まる6人の刑事たちの棒立ちに順番にセリフをしゃべるシーンを見て、あぁもうこの映画あかんわ、と思った。映画としての躍動感はないし、段取り芝居をしているだけで、全く映画としてのリアリティーもない。酷すぎる。

 ストーリーをただ追っかけてるだけで、彼らは人として映画の中に存在しない。しかもここで角川が視覚的に何を見せようとしたのかも明確ではない。ラストの100条委員会に宮迫を連れていけるか、というシーンですらサスペンスも何もない。

 役者はただ与えられた台詞をしゃべっているだけ、それをカメラが撮っているだけ。もともと才能がないのだが、老いてさらに勢いすらなくして、これだけの社会派大作という舞台を自分で用意したのに、情けない。2週目の土曜の朝なのに、梅田で20人くらいしか客はいなかった。大きな劇場は寒々していた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『曲がれスプーン』 | トップ | 『2012』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。