
毎回必ず食をテーマにした作品を綴る冬森灯の新作。今回は弁当屋さんが舞台になる。特別な弁当を作り、運ぶ。あなたの想いをお弁当にして相手に伝える。
5つのお話からなる短編連作。弱っていた心を癒やして、明日からの毎日につなぐ。たかがお弁当なんて言う勿れ。そのお弁当が壊れそうになっていた人々の想いを甦らす。立ち直るきっかけを作る。心が折れていた人たちがお弁当を通して復活する。そんな奇跡のお弁当。
発想は面白いが、さすがにリアリティはない。あまりに夢物語すぎて。ひとつひとつのお弁当はリアルである。だけどお話と上手くシンクロして、(だから)嘘くさくなっている。難しいところだ。
最後のエピソードでそこまでの謎解きがなされる。さらには拗れていた人間関係も決着が付き見事大団円を迎える。めでたし、めでたし、である。だけどこんなに上手く行くなんて、こちらも嘘くさくて、なんか乗り切れない。
よく出来た、作られた小説。そんな印象が残るのが残念だ。細部まで目が届く。丁寧な仕事である。それだけに、それがアダになっているのは返す返す残念でならない。