■ 「中国版ブラザ合意」とは・・・ ■
にわかに話題になり出した中国版ブラザ合意。
私は先日の記事で「元の協調切り上げ」と書いてしまいしたが、これは大きな間違いだった様で「元の協調切り下げ」をマーケットは要求している様です。
私はプラザ合意当時の日本を想定して記事を書いてしまいましたが、マーケットが重ねているのは当時のアメリカ。日本やドイツの輸出に押され、貿易赤字と財政赤字という双子の赤字を抱えたアメリカですが、マルクと円に対してドルを協調的に切り下げる事で為替相場を強引にドル安に調整したのです。
現在、中国の景気は下降しており、成長率も7%を切っています。輸出産業の不調がその原因とされており、中国自身、昨年の夏に通貨政策を切り替えて緩やかな元安に調整しています。
マーケットはこの流れをもっと加速して協調介入によって大幅な元安に導けば、中国の輸出が増大し、中国経済の崩壊が回避できると主張します。
■ お金が欲しいだけのマーケット ■
中国が元を切り下げるかどうかですが、私は元の切り下げと言う「中国版のプラザ合意」は有り得ないと考えます。
昨年夏に中国は数%だけ元を切り下げましたが、それだけで中国国内から資産逃避の流れが発生して、上海市場が大幅に下落しました。下落する通貨国に対して資本が流入する事は有りません。通貨下落が予測されれば、海外の投資資金は引き上げられ、国内の資本も海外に逃避しようとします。ただでさえ上海市場の下落に頭を痛める中国が、元の大幅切り下げに同意するとはとても思えません。
マーケットは元の切り下げは、バブル崩壊直前の中国の不動産市場やシャドーバンキング市場に資金を提供して、崩壊を防ぐ為とも説明しています。これにも中国政府は納得できないでしょう。中国は金利を市場に委ねていません。低めの上限金利を定めているので、常に景気刺激をしている状態です。さらにリーマンショック以降、マネタリーベースも拡大していますから資金も既に十分に供給されています。だから不動産バブルやシャドーバンキングバブルが発生しているのです。ここでさらに緩和的な金融政策に切り替えたらバブルが限界に達して崩壊を確実なものにしてしまいます。これを中国が容認するとは思えません。
ではマーケットの本音はどこにあるのか・・・?彼らは中国の崩壊を望んでいるのか?
私はもっと単純だと考えます。彼らは単に目先の金が欲しいのです。
FRBの利上げ以降、世界の資金循環は完全に変調をきたしています。ECBや日銀の追加緩和もすぐに効果が薄れ、むしろ手詰まり感から逆効果を生む結果となっています。市場はもっと大規模な実弾投入を望んでいますが、ECBも日銀もこれに応えられません。
そこで彼らが目を付けたのが中国です。人民元を大幅に切り下げる為に大量の元を発行させようという短絡的な思考に支配されている様です。
■ 米国債がヤバイのかも知れない ■
中国は最近外貨準備が大幅に減少していると言われています。人民元は昨年8月の元安誘導より下落が進み、資本流出が加速しています。それを阻止する為に為替市場でドル売り元買いの為替介入を繰り返していると言われ、外貨準備を大幅に減らしています。(勿論輸出の縮小も影響はしていますが、依然として貿易黒字は巨大です)
中国のドルの外貨準備は当然米国債の姿をしているハズですから、ドル売りをすれば当然米国債も売られる事になります。
先日のG7で黒田総裁は中国に資本規制を勧める発言をして、中央銀行総裁らしからぬと批判を受けていましたが、これはドル売り(米国債売り)を止める為ならば、資本流出規制をする事も容認するとの発言と受け取る事も出来ます。
IMFのラガルドは「ドルと元の適切な関係を明確にすべき」と発言していますが、この適切な関係がさらなる元安なのか、元高なのかと言えば、黒田総裁の発言の内容からは「元高」を指すのでは無いかと思われます。要は、市場の過度な元安誘導を牽制したのだしょう。
これら通貨マフィア達の発言からは、現在の過度が元安が市場を混乱させ、中国の米国債売りを招いている事への不満が感じられます。彼らの発言は世間で言われ出した「中国版プラザ合意」とは真逆の方向性を示しています。
そもそも、IMFやイギリスは人民元のSDRの構成通貨入りを支援する事で、人民元の国際化を後押ししています。これは本来人民元の価値を高める政策です。
■ 管理通貨からの脱却を目指す人民元に「元安期待」が高まっているのは何故? ■
本来、ハードカレンシーと呼ばれる国際通貨は自由な為替取引で相場が決定される事を要求されます。人民元が国際通貨となる為には中国政府の為替誘導は否定されます。
では、現在中国が行っているとされる元安阻止の市場介入を止めたらどうなるのか?当然、大幅な元安になる可能性が有ります。
ただ、現在の行き過ぎた元安圧力には少々違和感を覚えます。不景気になったとは言え、中国はアメリカに次ぐ世界第二位の経済力を誇り、成長力も先進各国に比べれば高いはずです。その様な国の通貨は本来値上がりするはずですが・・・実際には下落しています。
これは中国国内からの資本流出が大きく関わっているでしょう。元を海外に持ち出す時にドルに換えるので、市場では実需の元売りドル買いが拡大しているはずです。中国政府の介入はこれに対する反対取引であるとも言えます。
■ マーケットはどうして「中国版プラザ合意」を望むのか? ■
何れにしても「中国版プラザ合意」は中国からの急激な資本流出を起こす可能性が高いので、マーケットが口にする「中国経済の崩壊を防ぐ」どころか、崩壊を加速する政策の様に思えます。中国がその誘いに乗るとは思えません。
仮に中国版プラザ合意が実行されるのであれば資本規制とセットである必要が有ります。しかしこれにマーケットは合意できません。彼らの利益は自由なマーケットが作り出すからです。
色々考えると、にわかに浮上した「中国版プラザ合意」の大合唱は、単に実弾供給に飢えたマーケットの断末魔なのかも知れません。