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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

エウレカセブン・・・豊穣な世界

2009-01-20 09:12:00 | アニメ


■パチンコ屋さんの看板の「エウレカセブン」って何■

「エウレカセブン」というアニメをご存知でしょうか?
最近、パチンコ屋の店先に看板が立っているアレです。
ロボットの前で、少年少女が爽やかに笑っているアレです。

パチンコを打たない身としては、パチンコとロボットアニメがどう結びつくか、
皆目見当もつきませんが、エバンゲリオン、アクエリオンと来て、
次はどうやらエウレカセブンのようです。

パチンコ台になるくらいだから、それなりの作品かと思い、
早速ネットで見てみました・・・、って、これ50話もあるじゃない・・。


■空から少女とロボットが落ちてきた■

良い子のアニメの鉄則はボーイ・ミーツ・ガール。
突然出合ったあの子にハートを鷲掴みにされて、
カッコイイ所見せたさに、がむしゃらに頑張る健全な男子の話が基本。

ラピタだって、ジータが可愛いからパズーはあんなに頑張っちゃう。
エヴァのシンジだって、かなりネジ曲がっているけど基本は同じ。

エウレカセブンも基本はしっかりボーイ・ミーツ・ガール。
ただ、空から落ちてきた彼女が、ちょっと変な子だっただけ。
なんせ、人間の形をして人間の心を持ち合わせていない・・・。
そう、この星を覆う謎の知性体コーラリアンが人と接触する為に作り出した
人型コーラリアンだったのだから。
彼女の名前はエウレカ。彼女に夢中になったのはレントン・サーストン。

舞台は人類が移住した惑星。
砂の様なスカブ・コーラルに覆われ、度重なる地殻変動が人類を襲う星。
人々はトラパーというエネルギーの流れに乗って飛行機を飛ばし、
又、トラパーの波に乗って空中をサーフィンの様に滑空(リフ)する。
トラパーからエネルギーを取り出して機械を動かしたりも出来る。

そんな世界のプロのリフライダー集団が月光ステイト。
月光ステイトはレントンの憧れ。
そして、何故かエウレカも月光ステイトのメンバー。
気がつけば、エウレカを守りたい一心にレントンも月光ステートのメンバーに。

ここまでは、少年向けロボットアニメの大道です。
大空を翔るリフボード、
軽やかにトラパーの波に乗って滑空するロボット(VFO)。

■エウレカセブンは変なアニメだ■

しかし、視聴者は直ぐに気づくでしょう。
「エウレカセブン」は変なアニメだと・・・・。

何故なら、キャラクターのデザインがバラバラなんです。
今風のキャラクターもいれば、お前手塚アニメか?ってのもいるし、
サイボーグ004もいれば、ちょっと間違えば超人ロックもいる。
極め付けは、往年の東映ロボットアニメのキャラ風から、
イデオン時代の湖川友謙キャラ風までが、ワラワラ出てくる。

イデオン風のエッジの効いた科学者ミーシャの旦那が、
細野不二彦風の巨大頭だったりするから、これはもう呆然となってしまいます。
さらに、各キャラクターの動きや背景も、その時代のアニメ風だったりします。

これが邪魔をして話に集中出来ないオトモダチも多いのではないのでしょうか?


■これは罠です■

これは罠です。
何をハメル為かというと、オタクを振るい落とす為の。
この程度の陽動で、「キャラの絵がバラバラじゃん」とか、
「作画崩壊してるよね」なんていうオタクは、
この素晴らしい作品を見る資格が無いのです。

かつて、富野監督はイデオンをあえて格好悪くデザインしました。
ガンダムが人気の時に、作品の内容よりプラモデルに人気が集中した経験があるからです。
エウレカセブンはキャラクターもむちゃくちゃですが、
肝心のロボットもかなりのものがあります。
何故か車になっちゃいます。
さらに、他のメカの方が圧倒的に格好良いのです。

さらに、主人公エウレカは姿はどんどんと崩れていってしまいます。
それは、お岩さん顔負けなくらいに。

でも、ここで声を大にして言いたい。
素晴らしい作品にとって、キャラクターなんて、瑣末な事に過ぎないと。
作者はあえて、オタクが寄り付くのを嫌って、
こんな、オタクトラップを仕掛けたのでしょう。

■SFとして、ビルディングストーリーとして圧倒的な力■

エウレカセブンはタイトルにあるように、交響曲のようにその音色を変えて行きます。

少年の無垢な憧れが奏でるファンファーレに始まり、
二人の気持ちのすれ違いが、通奏低音のように広がって行く。
挫折から立ち直った二人が、主題を高らかに歌い上げたと思えば、
世界の真理が音の波のように遅い掛かって来る。
不安と絶望による何度かの変調を繰り返しながら、
最後天上に響く歌声となって昇華する世界・・。

初めは少年の日常の視線で始まる物語は、
少年が世界を知る事で、重みを増していきます。
人を殺す事を知り、それでもエウレカ守る事を決意し、世界を守る事を決意する。

今まで、日常として見えていた大地は、
スカブ・コーラリアンという知性体であった。
今まで、憧れの女の子だったエウレカは、
スカブ・コーラリアンが人類と接触を図る為に送り出した人型コーラリアンだった。
憧れの対象であった月光ステイトは、
軍と敵対する、テロリストだった。
そして、この星はコーラリアンによって蹂躙された地球であった・・。
コーラリアンの目覚めが、情報力学の限界を突破して物理宇宙の崩壊を呼ぶものだった。

レントンは一つ、一つを学び、一つひとつ自分の道を選択していきます。

そう、エウレカセブンとは重厚なSF的背景の上に、
クールなサーフカルチャを纏いながら繰り広げられる
少年の真っ直ぐな成長の物語なのです。

■タルコフスキーと手塚治虫を繋げる荒業■

SF的視点に立てば、エウレカセブンは「惑星ソラリス」です。
あるいは、ロボットを過去の遺構から発掘するんのは、「ストーカ」かもしれません。
いずれにしても、ロシアの映像詩人、アンドレー・タルコフスキーの影響が、
あるいは原作のスワニフラフ・レムやストゥルガスキー兄弟の影がよぎります。
私達の若い時代は、タルコフスキーは「神」でしたから・・・。
ソラリスの海が、スカブ・コーラル。
ソラリスの海が生む実体幻影がエウレカ・・・。

これだけを、今風のキレイ絵で、スタイリッシュに展開する方法は容易に想像できます。
しかし、エウレカで取られた手法は、過去のアニメのリミックスでした。
キャラクターのリミックス、シーンのリミックス、設定のリミックス。
これを、表面上だけ見れは「パクリ」といいます。

しかし、「リミックス」はアートであり手法です。
過去の表現の強靭なイメージを作品に外挿する手法です。
30分を費やして、手塚治虫の世界の豊穣さを表現するよりも、
手塚的キャラクターと演出を外挿する方が一瞬で済みます。
このスピード感と密度感を勝ち得た物が現代の表現者です。

エウレカセブンはリミックスによってタルコフスキーの世界と手塚治虫の世界を
繋ぎあわせるという荒業をやってのけます。

それは、映画やSF小説という土壌と、日本アニメという肥沃な土壌から
栄養を吸い上げて、作品を作る事に他なえいません。

■アニメという大地に咲く花■

最近はアニメの技術も進んで、美しいアニメや
スタイリッシュな映像はいくらでも見る事が出来ます。
しかし、どれも、模倣と再生産、消費のサイクルから出るものではありません。

エバンゲリオンは、そんな時代に咲く仇花のような作品でしたが、
我が子に見せられるような物ではありません。

いくら、時代が複雑になったからといって、
子供は真っ直ぐに夢に突き進んでいって欲しいと思います。
今、そういう分かり易いアニメに出会う事が無くなりました。

息子の受験が終わったら、エウレカセブンを見せてあげようと思います。
日本のアニメの土壌の豊かさを味わう作品として。
(息子にはダサいと一蹴されそうですが。)




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