■ 細田守 ポスト宮崎駿の筆頭 ■
私と同世代のアニメ好きのお父さん達が、
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲームはスゴイ」と言っていたのが10年程前。
私が娘と毎週楽しみにしていた「お邪魔女どれみちゃん」の、ある一話で、
「演出 細田 守」の名を心に焼き付けてから7年。
この夏、「サマーウォーズ」で「細田 守」の名がポスト宮崎駿の筆頭として
が多くの人の心に刻み付けられる事でしょう。
■ 今度はアクションだ!! ■
細田守の名が世間に知れたのは、秀作「時をかける少女」からです。
かつて少年ドラマシリーズや、原田智代の映画でヒットした話を
見事にリアレンジしたストーリーもさる事ながら、
青春の一時期のみが持つ特別な「時間」を見事に描き出し、
青春映画の傑作のひとつに名を連らねる事となりました
今回の「サマーウォーズ」は、主人公は「大家族」です。
そして、今度の舞台はバーチャルワールド!!
世界終焉の危機に、90歳のお婆ちゃんから、5才くらいの子供までが立ち向かう、
アクション大作です。
バーチャルワールドの危機に子供達が立ち向かう「デジモン」をさらにスケールアップさせ、
「時をかける少女」の高校生男女の初恋をブレンドした、
「デジタルアクション・青春・大家族エンタテーメント」に仕上がっています。
■ 先ずは劇場へGO ■
ストーリーは既に各所で紹介されているので、そちらを参考にして下さい。
私が言いたいのは、「とにかく劇場へGO!!」
昨日は満席で見れませんでした。
(おかげで、娘と「ハリーポッター」を見ました。これもシリーズ最高では?)
本日も、レイトショーでようやく見れました。それも満席。
土日は早めに劇場に出かけた方が良さそうです。
■ ジブリとの確執 ■
実は、細田守とスタジオジブリの間には大きな確執があります。
細田の才能に惚れ込んだ宮崎駿は、ジブリに細田を迎え、「ハウルの動く城」を監督させます。
しかし、当時「千と千尋の神隠し」で手一杯だったジブリは
細田を充分サポート出来ませんでした。
細田は自分の知り合いをかき集め、シナリオを完成させ、絵コンテまで起しました。
しかし、突然、ジブリによって細田は降板させられてしまいます。
ジブリの発表は、細田の演出力が不足していたので、急遽、宮崎が代役を務めるというもの。
しかし、本当の理由は「宮崎でなければ客を呼べない」という思惑があったようです。
■ 「お邪魔女どれみ」の40話は奇跡に近い ■
突然の降板で、細田は自分が集めたスタッフに充分報いる事も出来ず、
アニメ業界のメインストリームから外れる覚悟を強いられます。
しかし、そんな細田に救いの手を差し伸べたのが、古巣の東映動画でした。
当時、日曜日の朝には「お邪魔女どれみ」ちゃんシリーズを放映していました。
栗山緑の脚本が丁寧で、親子で楽しみにしていました。
そんな、「どれみちゃん」も、3シーズン目ともなるとマンネリ気味で、
演出も荒さが目立ち、ドタバタ劇になっていました。
そんな「お邪魔女どれみ ドッカーン」の40話を細田守が演出します。
水彩画風の淡い背景。
冒頭の不思議な三叉路。
繰り返されるガラスのイメージ。
冒頭の5分で、鳥肌が立った事を思い出します。
古い一軒屋で、どれみは魔女のミライと出会います。
ミライはガラス工房を営み、どれみにガラス細工を教えてくれます。
二人は仲良しになりますが、ミライはどこか寂し気です。
彼女は魔女として多くの時間を生き、多くの友人を失っているのです。
そんな彼女の元に90歳になるベネチアのガラスの巨匠から誘いが来ます。
・・・しかし、彼こそ、昔彼女が好きになり2日で分かれた男性でした。
彼は若いままのミライを、昔愛した女性の娘や孫だと思い込んでいるのです。
彼女のクレーゼットには、そんな思い出の写真が沢山あります。
そして、ドレミとも写真を撮ります。
「どれみ、私と一緒に来ない?」ミライの口から、ふと寂しさが漏れます・・。
翌日、ドレミが写真を受け取りに行くと、ミライは既に旅立っています。
一度も魔法が使われる事なく、話は終わってしまします。
さらに、ドレミの中では何の解決も着いていません。
・・・子供番組なのに・・・・。
たった30分で、子供番組で、このクオリティーは異常でした。
アンニュイな未来の声を演じていたのは原田智代でした。
なんという贅沢。
この「どれみと魔女をやめた魔女」は、その後、伝説となって語り伝えられます。
細田守の名は、娘とドレミちゃんを楽しみにするアニメ好きの父親や、
何故か日曜の朝から子供向けアニメを見る不思議な大きいお友達の間で、
忘れられないものとなります。
この後、細田はもう一話、演出を担当します。
こちらも秀作ですが、「どれみと魔女をやめた魔女」は、まさに「神」の領域です。
どちらもインターネットで見れる様です。
私は、「時をかける少女」よりも、むしろ優れた演出ではないかと思います。
■ 高畑勲の再来 ■
細田守の魅力は、なんと言っても綿密に練り上げられて演出です。
今回もバーチャルワールドと田舎の大家族という全くの異世界を、
見事に繋ぎ合わせています。
さらに、田舎の大家族の一人一人に日常を見事に描ききって破綻が無く、
細かなエピソードの集積が、クライマックスに向けて収束して行きます。
誰一人として、粗雑に扱われる事無く、
「こういう親戚いるよな・・」なんて思っているうちに、
一人一人がやけに愛らしく思えてきます。
こういう、破綻の無い演出は、ジブリでは宮崎駿というより高畑勲に近いものがあります。
「魔女の宅急便」や「おもひでぽろぽろ」など、小粒な作品の多い高畑ですが、
ただひたすら母を訪ねる話を52話も続けて飽きさせない演出力には定評があります。
「アルプスの少女ハイジ」を宮崎の作品と思っている方の多いのですが、
ハイジの演出は高畑勲です。
宮崎駿は、完成した脚本を用意せずに製作に取り掛かる事からも、
演出的にはむしろ破綻している事の方が多く、
それを含めて宮崎の魅力と捕らえられています。
完成された脚本が持ち得ない、ダイナミズムが爆発します。
一方、高畑作品はジンと胸に来るものはありますが、
ドカーンといった感動は得られません。
これは高畑作品がリアリティーを追求する事に起因するかもしれません。
一方、サマーウォーズも圧倒的なリアリティーを追及しながらも、
バーチャル空間を話に取り入れる事で、
作品に躍動感とスリル、そして感動を与える事に成功しています。
「時をかける少女」が実写映画的な傑作だったのに対し、
「サマーウォーズ」はアニメとしての魅力に溢れています。
■ ジブリよりもジブリらしい細田作品 ■
「時をかける少女」にしても「サマーウォーズ」にしても、
ジブリよりもジブリらしい作品です。
しかし、これらの作品がジブリから発表されていれば、
ジブリのネームバリューで客は集められますが、
やはり宮崎を期待するファンには高畑同様、不当に低い評価を受ける可能性が大です。
その意味で、細田とジブリの縁が切れている事は、
細田自身にも幸運だったかもしれません。
家族で見に行ける良作アニメがジブリだけでは、年1本のペースは不可能です。
かつてクレヨンシンちゃんも「戦国大合戦」や「大人帝国の逆襲」など、
スーパーハイクォリティーな作品を排出しましたが、
近年、子供映画に戻ってしまったようです。
だいたい「クレヨンシンちゃんは凄いんだよ。」と言っても、
誰もバカにして相手をしてくれません。
(「戦国大合戦」は草薙剛君とガッキーで実写化されますが・・
やはり野原家の面々が居なくては、スープだけのラーメンみたい・・・)
そういった意味でも、「サマーウォーズ」が大ヒットして、
年1本ペースで細田作品が見られるようになれば、
ファンとしても、嬉しい限りです。
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