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最強失恋ソング登場・・・さユり「フラレガイガール」

2016-12-18 08:10:00 | 音楽
 


MVの出来が良くないので、映像を見ずに本文に進んで下さい!!



最近、歌謡曲の歌詞が覚えられない。
何を聞いても右から左に歌詞が抜けていってしまう・・・。
これが歳を取るという事かと諦めかけていた。

先日、Apple Musicに登録して色々と新しいアーティストを聞いるが、
誰一人、一曲たりとも「ビビッ」と来る曲に出会えない。
「聴き放題」という販売形式が曲との繋がりを薄くするのだろう。

そんな事を考えながらしばらく開いてもいなかったApple Musicを今朝開いてみた。
「For You」の下の方にちらりと「さユり」のEPのジャケットが目に留まった。
「さユり」は『僕だけが居ない街』のエンディングで気になったが、
梶原由紀が提供したこの曲以外は、全く良くなかった記憶がある。

金属質でささくれた神経質なビブラートボイス。
椎名林檎も似たような傾向だけれど、
彼女の場合は、甘ったるい鼻濁音や、切ないブレスや、艶めかしい声も自在。
「さユり」の場合は、単調で一曲を通しで聞くと息苦しくなる。
そういえばジャケットのアーティスト名は「酸欠少女 さユり」になっている。

そんな印象の良くない歌手ではあるが「気になる」というのは何かの縁。
10秒聴けるかな・・・なんて思ってプレイボタンを押した。


なんなんだ、この曲!!
もう完全ノックアウトされちまったよ、開始10秒で!!



ささくれ立った彼女の声が、切々と歌うツンデレな失恋ソング。
彼氏に突然フラれて、「サプライズ」ならもう種明かししてよ・・と歌う。

声の質と歌詞の内容がもうハマり過ぎていてヤバイ。
こんな曲、誰が書いたんだ?と思って確認したら野田洋次郎(Radwimps)でした。
オイオイ、『前前前世』や『スパークル』なんかより全然全然イイじゃないか!!

そもそも野田洋次郎の歌詞って、目女々しいというか、メランコリック過多で
男が歌うにはちょっとデレ過ぎてないか・・・って曲が多いのだけれど、
女性視点、それもチョット肩肘張っちゃってる女の子の弱い面で詩を書くとピッタリじゃないか。


残念なのはMVが椎名林檎みたいな事・・・
ここは従来通り「2.5次元」のアニメコラボだったら完璧だったのに・・。


<ここから歌詞の分析>

椎名林檎の「依存症」そっくりのメロディーで始まるこの曲・・。
「・・・のです」「・・・のです」と繰り返すのも林檎節。

「助詞」を言葉から切り離して、フレーズの冒頭にもって来るのはミスチル以来の手法。
ただ、ミスチルの場合は、リズムにタメを作る為に使ていましたが、
この場合は、助詞を切り離す事で「言葉が宙ぶらりん」になる効果が凄い。
助詞は次の文節と前の文節の関係性を表しますが、
これが切り離されると、今放たれた言葉の意味が確定しません。
すると、言葉は同時にいくつかの意味を獲得します。
これ、通常の会話の中でも良く起こる事で、
ゆっくり話す人の言葉が説得力がある様に感じるのも、聞き手が勝手に意味を膨らめるから。
「書き言葉」では成立しない「助詞の分割」ですが、
「時間の流れ」を有する会話や歌では、これがとても効果に言葉の意味を拡張します。
そして、「助詞」が現れる事で、言葉が「ストンとあるべき場所に落ちる」。

さらに「さユり」は、助詞を発声する前にわざわざブレスを入れています。
これも椎名林檎が得意とする歌い方ですが、
「助詞」を確定する前の決意というか諦めみたいな感情がブヮーと伝わって来ます。



「瞳を飛び出し顎を伝う彼ら、顎の先で大渋滞」
「まあ、この先涙を使う事などもう無いし、まあぁいっか」


これは凄い。
涙を彼らと言って、自分の流す涙を認めたくない気持ちを表し、
それが「顎の先で大渋滞」って、大泣きしている事を客観的に見つめる視点。
「涙を使う」って所で勝気な面を見せた後に「まぁいっか」とあっさりと涙に降参する。

「まずい、まずい、まずい、強烈にまずい」
「あなたが買った歯磨き粉も」



言葉を繰り返すのは野田洋次郎の特徴でもありますが、
「強烈に」を足す事で、破壊力を増します。
「あなたが買った歯磨き粉」が出て来るのには脱帽。
二人が同棲している事を暗喩しながら、
「強烈にまずい歯磨き粉」を我慢して使っている彼女の不器用な愛情がズシンときます。


「わたしをフッってんじゃないよ、バカ」
「フっていいわけがないでしょう」


ウワァーーー「バカ」頂きました。
「フっていいわけがないでしょう」とたたみかけて
アニメのツンデレキャラを憑依させるのは新鮮な手法。

「あなたの分際で何をバカ なこと言い出してさ」

「あなたの分際で」とはアニメ世代ならではの愛情表現。
そして、「バカ」と「なこと・・」を切り離す事で「バカ」が協調されます。

ところが、次に出て来る「バカ」はちょっとニアンスが違います。

「バカまじめに取っておいた約束、部屋の中に散らかして」

これまでバカは彼に向けて発せられていましたが、
今度のバカはちょっとニアンスが違う。
「バカまじめ」は彼の性格でしょう。
それに甘えていた彼女の後悔の念がこの後の歌詞に続きます。


「「君は僕のすべて」って今はやり/ の/合言葉/ とか/何か?」
「もしや、もしかして、小さく「時々」/ て/言いてたり/ したりして」


またまた出ました、助詞を切り離す「文節のマジック」
これは上手い。
追想と混乱を見事に表現しています。


「そうだとしたら」
「そうだとしても」
「なんでもいいや」



「したら」「しても」「いいや」と「活用」する事で
後悔の繰り返しに疲れて投げやりになった気持ちが伝わる。


「ダサい、ダサい、ダサい、猛烈にダサい」
「あなたがくれたワンピースを着て」
「お行儀よくここで私待っるんだよ」
「ねぇねぇ待ってるんだよ」


うわーこれは凄い。ダサいの三連ちゃんに「猛烈」を追加した後に、
そのワンピース着てお行儀良く待ってるって
もう、完全にプライド捨ててます。
さらに、「ねぇねぇ待ってるんだだよ」と媚びる。
デレでます。猛烈にデレてます・・・だけど彼はもう居ない・・・この虚しさ。

「私と別れたならもう、次なんてないから」

最後のプライドを滲ませながら「なき脅し」が入りますが・・・これはもう負け確実。


「イタい、イタい、イタい」
「女にはなるまいと誓ってはきたけど」
「今のアタシは晴れてなってるかな」


「イタい」の三連発で心が「痛い」のかと思ったら、
「イタい女」という自虐が入りました。
「晴れてなってるかな」の「晴れて」が効いてます。

「永い、永い、永い」
「話をあったらまたしてしまうでしょう」


と続けた後に

「だらから最後に伝えさせて、2分だけでいいから」
「あなたが好きだったこと」
「とびっきりのバカヤロウ」


ほろりと本音がこぼれます。
でも、バカヤロウと照れ隠しするのはツンデレの鑑。


「わたしをフッってんじゃないよ、バカ」
「フっていいわけがないでしょう」
「だからあんたみたいなバカ」
「私からフってあげるわよ」


きました、ツンデレの名セリフ「私からフってあげるわよ」!!


「泣いて追っかけて来てももう許してたりしないから」
「いつか天変地異級の、後悔に襲われりゃいい」


「天変地異級の後悔」ってあんた、どんだけハルヒですか。
「天変地異」という言葉の選択は野田洋次郎的であり、アニメ世代的でもあります。


「そろそろ時間だ 私は行くね」
「次の涙もそろそろ溜まった 頃よ」


おーと、健気です。
もう、ツンデレの可愛さが滲み出しています。


「歌」とは「歌詞」と「メロディー」と「声」が生み出す「呪術」みたいなもの。
それらの歯車がピタっと合った時に「名曲」が生まれます。

『フラレガイガール』、今年最高の曲にして、近年最高の失恋ソングでした!!


私、野田洋次郎を「偽バンプ」って侮ってました。凄い才能の持ち主だったのですね。


ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞しました。歌詞の社会性や抽象性を評価したものですが、日本の歌謡曲は「私小説」としては欧米のポップソングの数段上を行っています。この曲もその最適な例なのかも知れません。この歌詞に比べたらテイラー・スイフトなんて高校生の日記に過ぎない。



ちなみに私の家内は私がプレゼントした服を褒めた試しがありません。「こんなの好きじゃない、着ない!!」といつも言うのですが・・・翌日からチャッカリ着て出かけます。実は結構ツンデレなんです・・・。



<おまけ>


実は「さユり」はデビュー当時、「2.5次元アーティスト」で売っていた。
3次元の現実の「さユリ」と、
2次元のアニメキャラの「永遠の14歳のさユり」がMVで共演していた。


実はこの戦略、私的には結構好きでした。
そもそもアイドルに興味の無い私には、現実の「さユり」の生っぽさは邪魔だったりする。
デビュー前に変な浴衣みたいな恰好で路上ライブをする姿も邪魔。
そんな現実のちょっと「イタい」姿は、2次元とのコラボで緩和さ
むしろ「イタさ」を強烈にアイコン化します。










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