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マンガの実写化はこうで無いと・・・『青い春』

2018-01-20 05:53:00 | 映画
 


『青い春』より

■ 初めてamazon prime に入っていて良かったと思う ■

amazon prime の年会費を収めているのに、動画の無料視聴が出来ると知らなかった私。数か月前のその事実に気付き、プライム・ビデオのページを開くのですが・・・アニメしか見るものが無い。映画『長い言い訳』を見直せたのは良かったのですが、その他の実写映画で観るものが無い・・・。

そんな折、『青い春』という映画を興味本位で観始めて、10秒で名作と確信しました。何故かって、画面からきちんと映画の空気感が伝わって来たから。

■ マンガ原作を実写化する意味 ■

『青い春』は松本大洋のマンガの実写化です(原作未読)。松本作品を実写化して成功した先例に窪塚洋介が主演した『ピンポン』が有ります。あの作品は、マンガの雰囲気を良く残して成功しています。まさに「実写によるマンガの再現」。

『ピンポン』では成功していた「実写によるマンガの再現」ですが、この手の作品は駄作が多い。話題の『コウノトリ』も、あの髪型を見ただけで観る気が失せます。何か勘違いしています。マンガはデフォルメを得意とする表現ジャンルですが、実写でそれを真似る必要は微塵も無い。実写には実写の「お作法」というものが有るのです。

『青い春』はマンガを下地にしながらも、その表現は抑制的で、実写映画の作法に則った作品。

「実写映画の法則」って何かと聞かれたら、私は「人物の実在感」と答えます。フィルムやスクリーンという偽物の二次元の中に、体温や役者の周辺の空気感をどれだけ再現出来るか・・・この一時に尽きる。それは単なる「リアリティー」では無く、表現としての統一感。監督が、役者も背景も光も音響も、全て自分の支配下に置いた時に出現する「空間」。それが映画の作法に則った時のみに出現する次元だと私は妄想しています。

『青い春』ではマンガ原作独特の「ケレンミ」もしっかりと残しながらも、豊田利晃監督はフィルムの中の次元を完璧に自分の支配下に置いています。

■ タランティーノよりも純粋な暴力のオンパレード ■

落ちこぼれ男子校の不良グループは、「ベランダゲーム」で新年度の番長を決める。屋上の手摺の外側に立って、体を外側に投げ出して、何回手が叩けるかという度胸試し。今年の番長は8回手を叩いた九条になりますが、彼は何を考えているか分からない寡黙な性格。但し、カリスマ性が有り、不良達の一目を置いています。

不良達は将来の目的も無く学校に通っていますが、学校だけは好きな様で、授業はサボるものの、校売のおばちゃん(小泉今日子)と親しかったり、校長(マメ山田)と不思議な交流を続けています。

そんな気ままに見える不良達ですが、抑えきれない「焦燥」を誰もが抱えています。それは漠然とした不安や焦りに見えますが、根本的な所では九条のカリスマ性に対する潜在的な嫉妬なのかも知れません。

彼らのコミュニケーションは暴力を基本としています。グループの外側への暴力は結束を意味し、グループ内の暴力は、伝わらぬ思いを相手にぶつける手段として機能します。

九条の幼馴染の青木は、九条のパシリと揶揄されても気にしていません。九条と彼の間には小学生時代からの不思議な繋がりが有るからです。しかし、些細な事からその繋がりに自信を持てなくなった青木は九条に敵対する様になります。それは「オレを見てくれよ」という悲痛な叫びですが、感情を表に出さない九条は、その叫びに応える事は有りません。次第に追い詰められた青木は・・・屋上に立ち、一人ベランダゲームに挑みます。

普通の方が見るには暴力描写が過激で「見るに堪えない」作品ですが、その暴力からは「キリキリ」とした切実さと純粋さが伝わって来ます。

暴力を特徴とする監督にクエンティー・タランティーノが挙げられますが、彼は日本のヤクザ映画から「暴力の快感」だけを感じ取っただけで、暴力と表裏一体の「純粋性」には気づいていません。

『青い春』の暴力は、ライアン・ゴズリングが内気な「逃が屋」の役を好演したニコラス・ウィンディング・レフン監督の『drive』に似ています。何かを守る為の純粋な暴力。

『drive』のゴズリングが守ったものは無力な母子ですが、『青い春』で不良高校生達が守ろうとしたのは、形のはっきりしない彼らの居場所だったのでは無いか・・・。

■ 暗い青春映画の金字塔の一つになるだろう ■

青春映画と言えば、アイドルタレントが出演してやたらチャラチャラとした作品を想像しがちですが、「暗い青春映画」も数多く存在します。ぱっと思い浮かぶのは岩井俊二監督の『リリい・シュシュのすべて』。

私などはキラキラした青春の思い出は少なく、明るい青春映画に共感を覚える事は難しい。そんな、暗い青春を送った方ならば、この作品の素晴らしさも理解出来ようかと・・・。



本日は、良識的ま大人や、婦女子なら絶対に眉を顰めるであろう素晴らしい映画の『青い春』について、簡単に紹介しました。



最期に松田龍平っていい役者ですね。改めて関心しました。