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「イスラム国」という茶番が何故必要なのか・・・中東の未来

2015-02-05 09:40:00 | 分類なし
 

■ 「イスラム国」が茶番である事を看破する事よりも大事な事 ■

多くの方が「イスラム国」の不自然さを薄々と感じている事でしょう。陰謀論好きは、イスラム国の背後にアメリカの影がある事を見つけては、それで溜飲を下げしまいます。

しかし、問題なのは何故、今、「イスラム国」なる茶番が必要なのかという「目的」です。

1) シリアのアサド政権を崩壊させる
2) 中東のシーア派をスンニ派を対立させ分断する
3) イスラエルを守る為に、イスラエルやアメリカに対立する国を内戦で崩壊させる
4) 中東に適度な混乱を維持する事で軍産複合体が利益を出す

一般的にはこんな理由が考えられます。

■ 中東の変化 ■

一方で、現在の中東では大きな変化が生まれつつあります。


1) イエメンでシーア派がクーデータで政権を崩壊させた
2) シーア派独立の気運はバーレンなどサウジ周辺国でも高まっている
3) サウジの油田地帯はシーア派住民が多い
4) サウジの王室はスンニ派の中でも戒律の厳しいワッハーブ教徒
5) サウジは女性の権利拡大など、戒律を緩めて国民の支持を保とうとしている
7) バーレンのシーア派の決起をサウジが軍で抑え込めば、サウジ国内のシーア派が反発
8) サウジとカタールの関係がムスリム同胞団ダを巡ってギクシャクしている
9) サウジの国王が交代した

一方、イスラエルと欧米諸国の関係も変化しています

1) オバマ大統領は訪米するネタニヤフ首相との会談を拒んでいる
2) オバマ就任以降、イスラエルと米国の関係は冷えている
3) 昨年5月にネタニヤフ首相が日本を訪問している
4) 先日、安倍首相がイスラエルを訪問している

まだ、輪郭はハッキリしていませんが、中東情勢が変化しつつある様です。

■ フセインやカダフィ、アサドの排除で戦後の中東のパワーバランスが崩れた ■

中東は国家という意識の無い部族社会を欧米諸国が勝手に植民地とした事で近代国家の枠組みが生まれました。国境線は宗主国同時が勝手に決めた直線で区切られ、部族が分断されたり、対立する部族が一つの国に押し込められる事で、国内政治は安定しません。

第二次世界大戦後、欧米諸国は中東諸国を独立させますが、その多くが傀儡政権でした。石油利権はメジャーなど欧米の企業が握ったままでした。

これに対してエジプトのナセルや、イラクのフセイン、リビアのカダフィー、シリアのアサドなどの若き将校達がクーデターを起し、傀儡政権を放逐して「汎アラブ主義」の国家建設を試みます。石油利権を国家に取り戻す事で、社会主義的経済の基盤としようとします。

しかし、これらの若き主導者達の志は、その周辺から腐敗して行きます。部族社会であるアラブの社会では血縁者が優遇され、社会主義革命はやがて独裁に変わって行きます。

彼らは国内の政治的求心力を保つ為にイスラエルと反目しますが、逆にそれはイスラエルとのなれ合いでも有り、この緊張関係が中東の「不安定の上の安定」の維持に貢献します。

しかし、中東の「不安定の上の安定」は、アメリカがフセインやカダフィーやアサドを排除する事で崩れつつあります。

そして、中東で台頭したのは、アルカイーダやISIL(イスラム国)などの原理主義的な武装集団です。

■ ダブルスタンダードのサウジアラビア ■

サウジの王家はアメリカの傀儡なのでアメリカには逆らえません。ただ、表面的には「アラブの雄」として、中東戦争の頃まではアメリカやイスラエルに対抗している様に見せていました。

しかし、サウジアラビア国内にアメリカの空軍基地が有るなど、サウジがアメリカの傀儡国家である事は現在は公然に事実となっています。

サウジアラビアはアルカイーダに資金提供するなど、CIAと一体となって中東情勢をコントロールしています。

一方、同じ親米政権であるカタールなどは、シリアの内戦でエジプトのムルリム同胞団に資金援助をしています。イスラム原理主義の台頭を恐れるサウジアラビアはカタールから大使を引き上げるなど、両国の関係は険悪になっています。

カタールはアルジャジーラ(放送局)が有り、「イスラム世界の味方」の様に見られていますが、アルジャジーラの資本はロスチャイルドが提供していると言われています。要は、アラブ側から「反欧米」の危機を煽る役割を担っています。その反面、ムスリム同胞団を支援するなど、イスラエルの利益に反する動きをしています。

アメリカが背後に居るサウジアラビアと、ロスチャイルドの影がチラホラするカタールの温度感の違いが気になります。

■ 困惑するイスラエル ■

「不安定の上の安定」という戦後中東の政治的バランスが崩れつつある名で、一番不安なのがイスラエルです。

多分、イスラエルはカダフィーやフセインらと裏では繋がっていたと思われますが、これらの勢力が排除される事で、交渉する相手が不在となりました。

アルカイーダーやISILは、交渉の核を持ちません。組織が統率されているとも言えず、勝手にテロ行為を繰り広げる集団となっています。

イスラエルはゴラン高原でシリアと国境を接していますが、アサド政権が盤石な間はゴラン高原の国境は安定していました。しかし、アサド政権が弱体化する中で、ゴラン高原からイスラエル領にアルカイーダが攻撃を仕掛ける可能性も高まっています。

■ イスラエルを直接攻撃しないアルカイーダとISIL(イスラム国) ■

ここで不思議な事に思い当たります。

アルカイーダもISIL(イスラム国)も、イスラム教最大の敵であるイスラエルを直接攻撃しないのです・・・。

アルカイーダやISILもイスラム教のスンニ派の組織です。そして彼らの攻撃対象はイスラム教のシーア派です。彼らはイスラエルでは無く、イスラム教シーア派を攻撃しているのです。

イスラエルを攻撃しているのは、パレスチナのハマスと、ヨルダンのヒズボラです。ハマスの背後にはエジプトのムスリム同胞団が付いており、(ムスリム同胞団はスンニ派の原理主義組織です。)ヒズボラの背後にはシーア派のイランが付いています。

こうして見ると、シーア派に対して、アルカイーダやISL(イスラム国)が攻撃を加えている構図が見えて来ます。イラクの現政権はシーア派、そしてアサドもシーア派です。

■ イラク北部のクルド人地域を攻撃するISIL ■

ISIL(イスラム国)はイラク北部の油田地帯を手中に収めようとしています。この地域はクルド人が住んでおり、キルクークなど大規模な油田が点在しています。

イラクはシーア派とスンニ派、そしてクルド人のパッチワークの様な国ですが、クルド人が住む北部油田地帯は、経済的にも重要な地域となっています。

アメリカのイラク攻撃はこの地帯をフセイン政権から切り離す結果になります。そして、クルド人自治が実現するかに思えた所で、「イスラム国」に攻撃させています・・・。

■ そもそもテロリストの原油が市場で売れる訳が無い ■

ISIL(イスラム国)のクルド人支配地域への攻撃は、石油資源を手に入れてそれを市場で売る事で資金源にする事を目的にしていると言われています。

しかし、テロリストの原油が市場で売れるのでしょうか?答えはNOです。

イラン制裁を例に取るまでも無く、テロリスト認定された組織が原油を市場で売る事は極めて困難です。中国やロシアが存在するかも知れませんが、アメリカがその事実を見逃すハズは有りません。ではISILは何故クルド人地域を手中に収めようとしているのか・・・。

現在、クルド人の民兵組織は果敢にISILの攻撃を撃退しています。しかし、その勢力は戦闘によって着実に疲弊し、町も戦闘によって荒廃してゆきます。

多分、ISILが排除された後には、「人道支援」を名目に、欧米諸国がこの地域に勢力を拡大する事でしょう。そして、クルド人の自治独立を盾に、イラクから独立させるかも知れません。

■ 石油利権の大きな組み換えがされようとしているのでは? ■

中東地域の混乱は原油価格を高騰させます。しかし、現在、原油価格は40ドル/バレル程度と極めて安くなっています。原油価格の低迷が長期化すれば、原油の売り上げによって財政を支えている国々は財政赤字に陥ります。

中東産油国の国内の安定は、オイルマネーがもたらす安い食材などに支えられています。アラブの春の原因は、インフレによる食料価格の高騰でした。

サウジアラビアに原油安政策を要求しているのはアメリカだと思われますが、原油安は中東諸国の政権基盤を脅かし、福祉政策や安い食料の供給が後退すれば、国内的な緊張が高まります。

サウジやカタールの政権基盤が危うくなるのです。そういった危機的な政策をサウジは自ら継続しています。シェール革命が潰れる前に、サウジ革命が起きる危険性も有るのです。

■ 中東戦争は起きるのか? ■

中東戦闘が起きるとしたら、イスラエルVS周辺国だと言われて来ました。

しかし、改めて見回してみると、イスラエルの周辺国はイラクもリビアもシリアもガタガタの常態になっています。イランのみが健在ですが、最近のイランはイスラエルにあまり噛みつきません。

中東に危機は常に存在していますが、なんだか状況としては「グダグダ」になってきています。

統率された強い国家が消滅する事で、突発的な危機の危険性は高まりますが、さりとて、国家VS国家としてイスラエルに対抗し得る勢力が消え始めています。

ハマスもヒズボラも100倍返しでイスラエルにいつもボコられています。

中東は分かり易い戦争が起きないまま、なんだかかつての国家がメルトダウンし始めています。そして、知らず知らずの内に、かつての独裁国家が抑えていた石油利権は、欧米諸国に握られる事になりそうです。

「アラブの春」のもたらしたものは、「汎アラブ主義」というイスラム国家の理想の完全消失なのかも知れません。


はたして、アラブの人達がこの状況を見過ごすのか・・・宗派間対立と、部族間対立を欧米諸国に仕掛けられている間は、アラブに真の独立は訪れないのかも知れません。