■ 崩れ行く物理法則 ■
人生40年以上も生きていると、色々と不思議な光景も目にするものです。
沿岸の街を飲み込む津波の映像は、映画を見ている様で、非現実感を伴っていました。
そして先日の東北地方を襲った余震の際にNHKが生放送しのが、上の写真の映像。
仙台放送局の屋上固定カメラが捕らえた、「謎の光」です。
原因については、色々取りざたされています。変電所のショート。灯台の光。そして核反応時に放出されるチェレンコフ放射・・・。
でも、私が一番気に入っている説明は・・・「ランセルノプト放射光」。
そう、3.11以降、私達の世界は少しずつ狂ってしまったのかもしれません。
■ ゲートの出現と世界の変貌 ■
南米に「ゲート」が出現してから、世界は少しずつ狂ってしまいました。
「契約者」と呼ばれる、異能者達が出現し、各国の諜報機関は彼らを利用して、「ゲート」からもたらされる「理解不能な物」の獲得に血道を上げています。
ある者は重力を扱い、ある者は他人に憑依し、ある者は物質を転移させます。
そして「契約者」は、能力の発現に対して「対価」を支払わなければなりません。
ある者はひたすら大食し、ある者は無意味に小石を並べ、ある者はタバコを食べて吐き出す。
そして彼ら「契約者」は感情が無い。感情が無いというよりも、合理性が全ての感情に優先します。だから、平気で人も殺すし、組織も裏切る。それでも、人間的感情の片鱗を持ち合わせているので、彼らは自身の存在に苦悩しますが、それとて合理的意識に抑圧されています。
彼ら「契約者」達の能力の発現と同時に観測されるのが、「ランセルノプト放射光」。
青白く、ほのかな謎の光です。
■ 近年、日本のSFアニメの金字塔 「黒の契約者」 ■
「人力さん、とうとう狂っちゃよ・・・」と心配になられた方はゴメンなさい。
昔からの、私のブログの読者は、「またかよ・・。」と舌を鳴らしていらっしゃるかも。
実は、仙台の謎の光でネットで話題になった「ランセルノプト放射光」とは、2007年に放送されていたアニメ「DARKER THAN BLACK -黒の契約者-」の設定の一つです。
ちょっと複雑な内容なので、興味のある方はwikispediaを参照して下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/DARKER_THAN_BLACK_-%E9%BB%92%E3%81%AE%E5%A5%91%E7%B4%84%E8%80%85-
中国人留学生の李舜生(リ・シェンシュン)は、「組織」に雇われた「黒」(ヘイ)という殺し屋。彼は「ゲート」が出現して以来、この世に現れた「契約者」の一人。彼の能力は電流を自在に操る事。
無口なヘイは、相棒の「猫」(マオ)と、「銀」(イン)と共に、「組織」からのミッションをこなしていきます。ちなみに「マオ」は本当に猫です。猫に憑依したまま肉体を失った能力者なのです。「イン」はドールと呼ばれ、半ば魂を失った存在。水を媒介として意識を自在に飛ばし、監視や追跡を担当します。
CIAやMI6、KGBという諜報組織がそれぞれの「契約者」を利用して手に入れようとしているのは、「ゲート」の秘密であったり、「ゲート」から持ち出された「理解不能の物」です。
それらの情報や物は、既知の科学では解析不能な力を持ち、国家バランスさえも左右しかねない「何か」です。
■ 岡村天斎という天才 ■
「黒の契約者」が他の凡百のSFアニメと一線を画しているのは、その演出の素晴らしさにあります。無口な「黒」を取り巻く、あまりにも人間臭い人達の織り成すドラマは、毎週無意味に垂れ流されるアニメやTVドラマとは、かけ離れた地平に存在します。演出は岡村天斎。製作はBONES。
「狩る者」も「狩られる者」も、能力者としての烙印を背負い、それ以前に、それぞれが人生に挫折した者達です。戦いの最中に回想される彼らの過去に、私達が同情した時、彼らの人生はあっけなく閉じられていきます。・・・戦いに敗れて・・・。
「ヘイ」が異常に無口なキャラクターなので、重苦しさが付きまとう展開になり勝ちですが、猫の「マオ」の軽快な語り口が、物語にリズムを生み出します。
さらに、2話完結で進行するエピソードのコントラストが素晴らしい。得に私立探偵の「ガイ」の登場するエピソードは軽快で笑いたっぷり、そして、この明るさに「イン」や「ヘイ」が救われたりします。
・・・うーん、文章では表現できないな・・・まあ、カーボーイ・ビーバップ並みに面白くて、ドラマの演出のツブが立っていると言えば、イメージできるかな?
■ タルコフスキーへのオマージュ ■
「黒の契約者」には元ネタがあります。ソ連の映像詩人、アンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー」です。
80年代に日本でも大人気だったソ連の映画監督のアンドレイ・タルコフスキーは、その映像の美しさで「映像詩人」と称されましたが、作品は難解な物が多く、当時どのくらいの人が理解して見ていたのかは不明です。しかし、当時の学生の間では、「タルコフスキー好き=インテリ」という暗黙の了解があった様に思われます。
タルコフスキーは賓作な作家す。
ローラーとバイオリン Katok i skripka (1960年)
僕の村は戦場だった Иваново детство (1962年) *ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞
アンドレイの受難 …… 当初制作された「アンドレイ・ルブリョフ」の完全版
アンドレイ・ルブリョフ Андрей Рублёв (1967年)
惑星ソラリス Солярис (1972年) *カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ
鏡 Зеркало (1975年)
ストーカー Сталкер (1979年)
ノスタルジア Nostalghia (1983年) *カンヌ国際映画祭監督賞
サクリファイス Offret (1986年) *カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ
タルコフスキーの作品に共通するのは、「睡魔」です。とにかく彼の作品を「寝ない」で見れたら、たいしたものです。ひたすら長回しのカメラが追いかけるのは、草原を彷徨う人たちであったり、見事な移動カメラが辿り着く先は、滴り落ちる水であったり・・。とにかく、思わせぶりな映像のオンパレードは脳を麻痺させ、映画館全体を眠りに誘います。
映画館を出る時、人々が口にするのは「寝ちゃったよ!」という一言でした。
しかし、静かな映像や、滴る水滴は、眠りの隙間から潜在意識へと浸み込んで、人々はタルコフスキーに取り付かれるのでした。
「黒の契約者」がオマージュを捧げる、「ストーカー」はストゥルガスキー兄弟というソ連の偉大なSF作家の「路傍のピクニック」という小説を原作としています。
原作の方が「黒の契約者」の設定に近い様です。
突如出現した「ゾーン」という地帯では、色々な異常現象が観測され、軍も全滅します。ところが、ゾーンから持ち帰った物は、人類の科学では理解不能ですが、その効果は絶大で、ゾーンに不正に侵入して、ゾーンから物を持ちだす者が絶えません。しかし、彼らは幾多の怪現象に遭遇し、生還する者は僅かです。
ゾーンとは何か・・・ゾーンとは宇宙人のゴミみたいな物。車でピクニックに来た者達が、道端にゴミを散らかすが如く、宇宙人が残していったゴミや痕跡なのだろう・・・。そんな落ちのSFの傑作です。
■ 体制批判をSFに託したタルコフスキー ■
タルコフスキーの映画「ストーカー」は原作よりもずっと難解です。
「ゾーン」の案内人「ストーカー(密猟者)」を務める男が物理学者と作家を伴ってゾーンに潜入します。物理学者は密かにゾーンの破壊を心に秘め、作家はゾーンによって名声を得ようとしています。
彼らは様々な不可解な現象を体験しながらも、ゾーンの中心部の部屋に到達します。「部屋」の爆破を試みる博士と、それを阻止しようとする「ストーカー」。彼らはそれぞぞれの思いの強さゆえ、ゾーンに絡め取られた人達なのです・・・。
さて、何の事だかさっぱり分かりませんね。「ゾーン」を「社会主義」とか、「ソビエト連邦」と書き直すと、当時のタルコフスキーの表現したかった事の欠片が見えてきます。
当時のソ連には言論の自由は無く、映画監督達や作家達はSFという架空の世界で、体制を批判していました。この手法の最初の一つにジョージ・オーウェルの「1984」年や「動物農場」があります。
「ストーカ」でタルコフスキーは、「社会主義体制」を破壊しようとする者と、それを利用しようとする者、そして「社会主義体制」を宗教の如く妄信する者の姿を描いています。
しかし、映画の最後は「ストーカー」の娘が、念動力でコップを動かすシーンで終わります。電車の振動で激しく揺れる部屋の中で、コップを動かしたのが果たして少女なのか、それとも単なる電車の振動なのかは、私達には判断のし様がありません。タルコフスキーがこのシーンに込めたのは、「社会主義」の内的成長なのか、それとも「社会主義への妄信」が単なる錯覚であると、痛烈に批判したかったのかは知る由もありません。
■ とにかく見るべきアニメ ■
20世紀の問題作、「ストーカー」に正面から挑む「黒の暗殺者」は、エンタテーメントとして最高の出来栄えです。タルコフスキーの様な難解さは無く、ただ「謎」が置き去りにされたまま、私達は「ヘイ」達と共に、「ゲート」の深部に挑む事になります。
そこで「ヘイ」達が知る真実とは・・・。
後はとにかくTSUTAYAで借りて見て下さい。
最後に、シャープでスピード感溢れる音楽を付けているのが、「菅野よう子」である事を加えておきます。彼女にしては素晴らしく手抜きな?(手馴れた)、それゆえに一種楽しめるサントラになっています。
ジャケットも気が利いています。黒猫はしゃべる猫の「マオ」ですね。
「菅野よう子」については、以前このブログでも取り上げています。
「菅野よう子 映像音楽・・コピーの天才」
http://green.ap.teacup.com/applet/pekepon/msgcate8/archive?b=5
ところで、「菅野ようこ」が昔東京電力のCMの為に書き下ろしたこの曲。ピーク電力が大問題になるこの夏にリバイバルして欲しい。(ちなみに、彼女はCM音楽の女王として君臨しています。彼女のCM曲集のCDは2枚発売されていますが、その才能の凄さは、小林亜星に匹敵します。)
http://www.youtube.com/watch?v=C0lZv7fSm_0&feature=related
そして、今回の地震で製油所の火災に見舞われたコスモ石油のあの名曲も彼女の作
http://www.youtube.com/watch?v=VTBxLtlnhdw
最後に、「黒の暗殺者」には続編「DARKER THAN BLACK -流星の双子-」がありますが、こちらは駄作で一作目の世界を見事に粉々に粉砕してしまいます。くれぐれもご覧にならないように!!
ただ、挿入歌の「猛犬ケルベロス」のロシアン・テクノだけはクセになります。(これは菅野作ではありません)。
http://www.youtube.com/watch?v=LeooxQ1_ezM&feature=related
「自粛」ムードを吹き払い、スッキリします
最近、妙に真面目な内容が多い「人力でGO」ですが、本来目指しているのは「東スポ」的エンタテーメント