■ ロックを忘れた大人たちへ ■
「オリコチャート年間ベストテンを「嵐」と「AKB48」が独占するなんて・・・」そうお嘆きの貴兄に朗報です。
「サンボマスター」のニューアルバム「きみのためにつよくなる」を聴けば、「最近の日本のロックはつまらないよね。」などという失望も吹き飛びます。
そこには「ロックやろうぜ!!バーーン」という初期衝動と、ロックンロールという音楽が50年間積み上げてきた歴史が凝縮されています。
■ 見た目はお笑い芸人、魂はロックンローラー ■
「こぶ平」を暑苦しくしたようなデブが、ギターを胸の前に高めにぶら下げた姿を見て誰もが「新手のお笑いバンド」かと思うでしょう。
しかし音がハジケタ瞬間、紛れもないロックンロールが炸裂します。このビジュアルとのギャップに、どれだけのロックファンが椅子から転がり落ちそうになった事でしょう。
東洋大学の音楽サークルで山口 隆(G,Vo)近藤 洋一(B)木内 泰史(Dr)が2000年に結成したサンボマスターは、デビューアルバム「新しい日本語ロックの道と光」でメジャーデビューします。初回プレスは3000枚でしたが、彼らのストレートなロックは少なからぬロックファンの支持を得ます。
2ndアルバム「サンボマスターは君に語りかける」からは、「青春狂想曲」がアニメ「ナルト」のOPに使用され、子供とアニメを見る事を楽しみにしているロック好きのお父さん達をCDショップに走らせました。(私の事ですが)
その後、TVドラマ「電車男」の主題歌に採用され、お笑い番組で「ブサンボマスター」なるパロディーバンドが誕生するなど、世間一般に知られる存在となっていきます。
■ ロックのパロディー? ■
サンボマスターの曲は、どれも高いクオリティーを有しています。シンプルなロックンロールだけで無く、フォークやブルースを感じさせる楽曲も多く、ロックの歴史も十分に知っているバンドです。それでいて、どうしてもそれらが「ロックのパロディー」に聞こえてしまう事も否めません。
「暑くなれない若者」達に暑く語りかけても滑稽にしか見えないように、サンボの楽曲も空回りし続けます。
本人達もそれに自覚的で、「今となってはダサイROCKを、ダサい自分達がやると、他人からは面白く見える」という事をセールスに繋げていた感があります。
■ 欲望の脳内昇華 ■
サンボマスターの音楽がそれでも魅力を持っていたのは、彼らが凡百の似たような「暑いロックバンド」とは一線を画していたからです。
「彼女の居ない僕だけど、彼女が居たら死んでもキミを守りたい」
「彼女の居ない僕だけど、彼女を失ったら死ぬほど辛い」
そんな、「腐女子顔負けのピュアーな欲望」と「抑えきれないヨコシマな欲望」が脳内昇華して、暑いほとばしりとななってCDから溢れ出しています。
この一種自虐的とも言えるスタイルが、楽曲のクオリティーの高さにも関わらず、世の中にサンボマスターが受け入れられない最大の要因でもありました。
■ ロックの王道を行く決意 ■
しかし、サンボマスターのニューアルバム「きみのためにつよくなる」からは、オタク的な卑屈さは微塵も感じられません。
デビューして10年で、ロック歌手としての地位を確実にした彼らには、もう「ダサいロックを装う」必要など無いのです。
タイトルが示すように、サンボマスターの本当のロックを聴きたいというファンの暑い思いに彼らは正面から向き合う決意をしたのでしょう。
■ 「ラブソング」以上の曲が今年あっただろうか? ■
「きみのためにつよくなる」は、「ラブソング」から始まります。
今は無き(亡くなったのか、去って行ったのかは不明)彼女を思い、声をふりしぼって切々と歌い上げるこの曲は、この10年で日本、いや、世界で生まれたバラードの中でも最高の一曲です。
シンプルでありながら、恋人を失った悲しみを切々とうったえるこの曲を聴くと、ロックの本質が「若者の破壊衝動の噴出」であると同時に「若者の女々しさのはけ口」である事に気付かされます。
■ あれ?これって「長澤まさみ」だよね・・・勝手にPV ■
プロモーションビデオも秀逸で、「竜馬伝」で一躍人気俳優の仲間入りをした桐谷健太が一人砂浜で涙する姿をひたすら追い続けます。これは女子ならずともハートを鷲掴みされます。
一方、サンボマスターのアートディレクションを勤める「箭内道彦」が、あまりの曲の良さに、当時、カレンダーの作成をしていた長澤まさみに頼んで勝手に2本のPVを作成してYoutubeで公開しています。
こちらも、ホームビデオで撮った素顔に近い長澤まさみが堪能できます。
■ 開き直ってポップを肯定した ■
キラーチューンの「ラブソング」で幕を開けるニューアルバムは、その後もどれをシングルカットしても良いような完成度の高い曲の連続です。
ハジケタ曲の後は、ギター一本のバラードでしんみりさせ、またハイスピードな曲に突入するといった様に、アルバムのバランスも良く取れています。
そして、女性コーラスを使用するなど、今までとは異なりポップなアプローチが商業音楽としての質を高めています。
今まで、オタクながらの卑屈さから、ストレートなポップを回避していた彼らが、ポップを肯定した事がこのアルバムの最大の魅力です。
その現れとして、今まで「ダサさ」を前面に押し出していたアルバムジャケットを、カワイイ女の子のイラストにしています。
これまでのサンボのジャケットは、一部の卑屈な男子を喜ばせると同時に、明らかに多くの女子を彼らの素敵な音楽から遠ざけていました。
■ 今年一番のアルバム ■
デビュー当時からサンボを聞き続けてきた身としては、彼らが「一皮剥けた」のは、喜ばしい限りです。
間違いなく、「今年一番のアルバム」として、多くの人にお勧めしたい一枚です。
40歳、50歳のオヤジでも、少年少女の心を取り戻せます。
儲けに群がる大人達に操られた「AKB48」や「嵐」にうつつを抜かすマヌケな息子や娘達に、本当のロックを聞かせてやろうでは無いでしょうか!!