慣れぬパソコンを操作、図書館に予約をしたのはペトロ が入院中の頃。
朝日の書評欄に、“ アンリ・ルソーに絡む美術ミステリー ” と評価されていた「楽園のカンヴァス」(原田マハ著・新潮社刊)、大方半年も経って貸出可のメールが届いた。
小説は、素朴派を代表するルソーのある絵を巡ってミステリアスに繰り広げられる。
その彼の絵、幾つかの美術館で見たものの、風景画も人物画も平板で切り絵のように感じたものだ。
密林の絵などにある単色の重なりを明暗にする描法は面白いが、総じて遠近法、明暗法のない下手な絵という印象があった。
私の中で評価が変わったのは、ペトロが投稿した<「蛇使いの女」>(オルセー美術館蔵)からで、そこには強烈な色のインパクトと構図があった。
そして、一昨年、NY近代美術館、通称MoMAで出会った「眠るジプシー女」(上)。
穏やかな色調の中に、ライオンにも眠る女にも、生を超越した落ち着きと物語を紡がせる画家の囁きが感じられた。
彼は終生、税関吏の老いた日曜画家と嘲笑されたが、ピカソやダリなどシュールリアリズムの画家に大きな影響を与え、死後評価が一変、近代絵画の先駆者とされている。
小説に戻って、主人公は倉敷・大原美術館の監視員の早川織絵とMoMAのチーフ・キュレーター(学芸員)のティム・ブラウン。
話は17年前に遡り、スイス・バーゼルの謎に包まれた伝説のコレクター、コンラード・バイラーからの招請状をティムが受け取るところから始まる。
当時、アシスタント・キュレーターだったティムは、招請状の宛名こそ自分になっているが、文面から彼のボス、チーフ・キュレーターのトム・ブラウンへ出されたものであることを知る。
ピカソの研究者として世界的に有名なトムは、ピカソが敬愛したルソーに関心を持ち、ティムをアシスタントにルソーの企画展を計画中だった。
“ Tom ” と “ Tim ”、宛名の一字違いと気づくティムだったが、ルソーの研究者として幻の名作に出会える高揚感と企画展を成功させあわよくば出世もと、トムに成りすましスイスへと向かったが、そこには、バイラーから招請されたルソー研究の若き第一人者オリエ・ハヤカワがいた。
オリエとティムを縦糸に、美術館やコレクターなどの思惑、陰謀を横糸に、MoMAに架かるルソーのもう一枚の傑作「夢」(下)の秘密が・・・。
これ以上明かすとこれから読む方の興を削ぐのでやめるが、良質のミステリーには読者をあっと驚かせるものが不可欠、それも、些かの無理もなく。
この小説には最後まで、「え~っ、そうだったの?」があって面白くお勧め。ただし、自己責任でね。()
Peter & Catherine’s Travel Tour No.501
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