※ 続・ローマとナポリにバロックの奇才を訪ねる旅 (19/End)
ナヴォ―ナ広場近く、サンタゴスティーノ教会の入口直ぐ、薄暗い礼拝堂にその絵は架っていた。
昼下がりの休憩が終わったのか、扉の前で待っていた私たちを、手招いて一番に入れてくれた管理の青年、待ちくたびれた風の私たちに同情をくれたのか、直ぐにスポットライトのスイッチを入れてくれた。
彼の好意に浮かび上がったのが、カラヴァッジョの 「ロレートの聖母」別名 「巡礼者の聖母」(1604年頃)。
無頼の徒、それゆえと言うべきか単純な彼が、“ 感動を与える奉納画を描いた ” (カラヴァッジョ/西村書房刊)と評価されている。
主題は至って簡単、ふたりの巡礼者が柱の横の聖母子の彫像の前で跪いて手を合わせている姿である。
面白いのは信者の目線、つまりふたりの目には、この絵を見る者にもだが。静かに見下ろす聖母子が生きているかのように描かれていること。
カラヴァッジョは、徹底した写実性のもとで庶民的な巡礼者、おそらく母と息子であろう。の姿を描いている。
老女のしわくちゃな頭巾や汚れた男の足の裏から目を逸らすことはできないが、聖母子は光輪と一段高い位置で俗世間と切り離され、かつ、その美しさと温かい視線によって聖性は豊かに保たれている。
ところで聖母のモデル、例によって<彼の恋人>とされ、“ この女性を巡って争った ” とか。
それゆえか全体に質素に描きつつも、左腕のみ豪華な衣装を纏わせている点などに彼のモデルに寄せる愛情が見て取れる。
また、聖母の肩から首にかけて、また魅力的に交差する長い脚など、その伸びやかな姿態は、「<パラフレニエーリの聖母>」(1605-06年/ボルゲーゼ美術館蔵)などと同様に、この時期のカラヴァッジョ作品における<マニエリスム>を示しているのも面白い。
ちなみに、マニエリスムとは、バロック様式の一代前の様式のこと。
カンピドーリオの丘は<カピトリーナ美術館>から再開した、バロックの奇才カラヴァッジョ(1573-1610)とベルニーニ(1598-1680)を訪ねる旅、<序>を含めて区切りの20回、最終回ゆえ聊か長くなった。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.1269
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