浮遊する逃避のことばたち=現代詩もびっくり!
ビビッドな三行詩として読みました。
文庫版ですが、初版本の体裁である「四首見ひらき」で読むことが出来ます。
ひとつひとつの歌はもちろんそれぞれ自立した傑作ですが、啄木が一気読み切りを意図とした三行詩の「詩集」として読むと、さらに圧倒されてしまうものがあります。
では、そのなかから、僕の記憶に残ったものを書き出してみますので、
あとはぜひ本屋さんで買って読んでください。
かなしさは
飽くなき利己(りこ)の一念を
持てあましたる男にありけり
手も足も
室(へや)いっぱいに投げ出して
やがて静かに起きかへるかな
非凡なる人のごとくにふるまへる
後(のち)のさびしさは
何にかたぐへむ
箸(はし)止めてふつと思ひぬ
やうやくに
世のならはしに慣れにけるかな
何やらむ
穏(おだや)かならぬ目付して
鶴嘴(つるはし)を打つ群を見てゐる
一度でも我に頭を下げさせし
人みな死ねと
いのりてしこと
大いなる水晶の珠を
ひとつ欲し
それにむかひて物を思はむ
人間のつかはぬ言葉
ひょっとして
われのみ知れるごとく思ふ日
死にたくてならぬ時あり
はばかりに人目を避けて
怖き顔する
何かひとつ不思議を示し
人みなおどろくひまに
消えむと思ふ
人といふ人のこころに
一人づつ囚人(しゅうじん)がゐて
うめくかなしさ
わが抱く思想はすべて
金なきに因(いん)するごとし
秋の風吹く
不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
宗次郎(そうじろ)に
おかねが泣きて口説くど)き居(を)り
大根の花白きゆふぐれ
力なく病みし頃より
口すこし開(あ)きて眠るが
癖となりにき
松の風夜昼(よひる)ひびきぬ
人訪(と)はぬ山の祠(ほこら)の
石馬の耳に
手袋を脱ぐ手ふと休(や)む
何やらむ
こころかすめし思ひ出のあり
新しきサラドの皿の
酢のかをり
こころに沁みてかなしき夕べ
やや長きキスを交して別れ来し
深夜の街の
遠き火事かな
水のごと
身体(からだ)をひたすかなしみに
葱(ねぎ)の香(か)などのまじれる夕(ゆふべ)
底知れぬ謎に向ひてあるごとし
死児のひたひに
またも手をやる
ビビッドな三行詩として読みました。
文庫版ですが、初版本の体裁である「四首見ひらき」で読むことが出来ます。
ひとつひとつの歌はもちろんそれぞれ自立した傑作ですが、啄木が一気読み切りを意図とした三行詩の「詩集」として読むと、さらに圧倒されてしまうものがあります。
では、そのなかから、僕の記憶に残ったものを書き出してみますので、
あとはぜひ本屋さんで買って読んでください。
かなしさは
飽くなき利己(りこ)の一念を
持てあましたる男にありけり
手も足も
室(へや)いっぱいに投げ出して
やがて静かに起きかへるかな
非凡なる人のごとくにふるまへる
後(のち)のさびしさは
何にかたぐへむ
箸(はし)止めてふつと思ひぬ
やうやくに
世のならはしに慣れにけるかな
何やらむ
穏(おだや)かならぬ目付して
鶴嘴(つるはし)を打つ群を見てゐる
一度でも我に頭を下げさせし
人みな死ねと
いのりてしこと
大いなる水晶の珠を
ひとつ欲し
それにむかひて物を思はむ
人間のつかはぬ言葉
ひょっとして
われのみ知れるごとく思ふ日
死にたくてならぬ時あり
はばかりに人目を避けて
怖き顔する
何かひとつ不思議を示し
人みなおどろくひまに
消えむと思ふ
人といふ人のこころに
一人づつ囚人(しゅうじん)がゐて
うめくかなしさ
わが抱く思想はすべて
金なきに因(いん)するごとし
秋の風吹く
不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
宗次郎(そうじろ)に
おかねが泣きて口説くど)き居(を)り
大根の花白きゆふぐれ
力なく病みし頃より
口すこし開(あ)きて眠るが
癖となりにき
松の風夜昼(よひる)ひびきぬ
人訪(と)はぬ山の祠(ほこら)の
石馬の耳に
手袋を脱ぐ手ふと休(や)む
何やらむ
こころかすめし思ひ出のあり
新しきサラドの皿の
酢のかをり
こころに沁みてかなしき夕べ
やや長きキスを交して別れ来し
深夜の街の
遠き火事かな
水のごと
身体(からだ)をひたすかなしみに
葱(ねぎ)の香(か)などのまじれる夕(ゆふべ)
底知れぬ謎に向ひてあるごとし
死児のひたひに
またも手をやる