尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

湖(決定稿)

2007年08月01日 22時31分35秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
僕は少年の頃
死んだ人にまたがり
夜明けまで
ボートみたいに
揺すったことがある

(ラザロでさえ
 死んだのだけれど)

そんな湖がある



(2006年05月29日 習作にUPしたものを改稿しました。

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何度でも(決定稿)

2007年07月30日 00時51分18秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
 「なんどでも」



こらえきれず
泣き出してしまうと
あなたのために
死んであげるよと
後ろから
言ってあげる

なんどでも なんどでも
死んであげるよと
なんどでも
言ってあげて
ひつこくて
ついにあなたが
笑い出すと
こうして
右の手で
左の胸を押さえ
僕は
なんどでも
死んできたのだと
思い出す

黒い木から
スズメが
飛びだす明け方に



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雑踏(決定稿)

2007年07月29日 23時52分11秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
 「雑踏」


嫌いになることは
一生かけても
できないことでした
ただ
鏡の向こう側に
入っていったあなたを
探すのに疲れたのです

あなたも
あっという間に
おじいさんになった
わたしを探さないでください
夜ごと
夢の中の
雑踏で

コメント (2)
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葉緑素(決定稿)

2007年07月29日 23時15分40秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
  「葉緑素」



私のなかには
無口な植物がいて
語っていると
その葉が
次第にうなだれていくのが分かる
立派なことを聞かされると
しなだれていくのだ
小学生のように



(6/7UPのものを改稿しました。)

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場所(2/14UPの決定稿)

2007年07月29日 21時12分59秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
  「場所」


この風景は
誰にも説明できない

雨漏りがしないので
「部屋」
というべきだろうか

星と月が巡るので 
「荒野」
というべきだろうか

わたしは
わたしという場所で
いつまでも一人

この秘やかな風景を
死んでも
忘れないでおこう

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しゃぼん玉(決定稿)

2007年07月29日 14時01分48秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「シャボン玉」


生きたいことと
破滅したいことが
どこまでも
区別できないで
少しゆがんで
あなたは
くるくる回った
 
薄い皮膜に
世界と
僕の顔と
虹まで貼りつけて
あなたは一瞬
光って
笑った

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ミイラ男 (ミイラ改題・決定稿)

2007年07月29日 13時19分56秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「ミイラ男」


ガラスの中で
死んだまま

ああ
腐りたい
腐りたい


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くぼみの祭りだ(改訂)

2007年07月23日 23時23分53秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集


なんの不思議もなく
今日という日の
また 暮れてゆくことの
その不可解
その愚鈍
そのあきれた暗さに
人は
人の数だけ
灯を灯しはじめる

その時
地球は
まあるく はなく
闇をためる
ひとつの
くぼみで ある

くぼみの中で
揺れているのは
灯 だろうか
闇 だろうか
たまってくるのは
さむい魂 だろうか
あつい身体 だろうか
死にたい生 だろうか
生きたい死 だろうか

わずかな火花で
男の一番暗いものを 女に
女の一番暗いものを 男に
見せ合いながら
金と銀の
蛇 のような
刀 のような
斜めに掛かる
吊り橋 のような
そりかえる
祭りだ

天の川の
さしだす
手の平の
くぼみで
たとえようもない
こんな こんな こんな
祭りだ

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僕のダンス、ダンス、ダンス!

2007年07月02日 22時58分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
世界の真ん中に
引き出されたが
うさぎのダンスを
うまく踊れないので
踊らない振りをした

あの日
幼稚園の運動場で
みんなうさぎになって
僕は
でんでん虫になった

陽気な音楽と
手拍子と
明るすぎる陽ざしの中で
目も角も
手も足も出さなかった
笑われているのが
よくわかった

ふと真夜中に
目を出すと
あの歌が聞こえてくることがある
今さらですが
老いた殻から
変わらない柔らかな手と
白い足が出てきて
踊りだそうとします
何度でも
僕の
ダンス
ダンス、ダンス!

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白夜(改訂バージョン)

2007年06月25日 23時25分23秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「白夜」

 
光子で合成された
幾千万個の透明ゼミが
唸りながら高層ビルを飛び回っている
自ら発光する奴らのおかげで
空に太陽はいらない
夜は追放され
時計はいつも正午だ

         ジャイ ジャイ ジャイ
             しかし路上では
          間違いがたまに起こる
         ジャイ ジャイ ジャイ

鳴き声がワンオクタブ高くなったのは
車にひかれた犬の死骸に
粛清ゼミが群がったのだ
セミが飛び去ると
首輪だけが残されている
人々は薄く笑って
奴らの仕事をほめたたえる

             ビアウチフル!
      死体がないなら死は存在しない
       美しすぎる街並みをふたたび
        人々は後ろ向きに歩き出す
         ジャイ ジャイ ジャイ

僕は耳が痛くなって
白いカッフェに逃げ込んだ
尻のポケットには
死んだ父の帽子を忍ばせている
見つかれば頭から食われてしまうだろう
その帽子には闇が滲んでいるからだ
しかし死の滲んでいない
記憶なんてあるだろうか?
白夜において
すべては完成されたという思想と
それに付随する
終わったという感傷は賞賛される
人生と歴史を始めることは許されない
なにもかも終わったのだから!

           カッフェ白い家では
       ワルトのミキがウエイトレス
        彼女はもともと漫画なんだ
        プレスがいきとどいていて
          横から見ると一本の線
     だから正面からしっぽを振り回す
ジャイ ジャイ ジャイ
         とステップを踏みながら

アイス カッフィ!
これで僕はアイスを飲んでいる男
マルタテブルにも
平らなミキにも影が無い
一組の先客は
一本のアイスクリムトを
交互になめあうママと坊やだ
かれらは作法とおり
僕と目をあわさない

どちらが親だかわからんぞ
今、坊やはしかたなく
ママのオモチャしているけれど
ママは昔みたいに裏返ったイソギンチャク            
             でありたのか?
      坊やは明日ゴムのじいさんか?
         ジャイ ジャイ ジャイ
       白夜に冷たい雨が降ってきた
         ジャイ ジャイ ジャイ
     と正午のステップを踏んでしまう 

透明ゼミの鳴き声が
水滴の走るガラスを突き抜ける
尻のポケットを膨らませているのは
最後に残った
僕の夜だ

コメント (1)
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夏の犬(改訂バージョン)

2007年06月24日 21時58分33秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「夏の犬」


僕は歯と歯の間に
誰にも見えない海を
皿のように一枚くわえて
一夏 すたこらと
街を駆けています

遊びほうけたあなたを
涼しい汐風とともに
すばやい影が追いこし
びっくりさせたなら
それは僕です

さゞ波の反射が
銀紙のようにまばゆいので
振り返った 風の犬 
細い目で
笑っているように
見えましたか

それとも
振り返った 蒼い犬
洗濯されて晒されて
もうすぐ泣きだしそうに
見えましたか

岸辺の風は遠かったですね

夏が一匹 
赤い舌を垂らして
走って行きました

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「抱きしめながら」(最終バージョン)

2007年06月18日 23時42分30秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集


「抱きしめながら」


夏の盛りを
よく生きた
ほんとうに
よく生きたと思う

蝉が一匹
透きとおる羽を
乾いた地面の上に敷き
六本の脚を空に向け
かきかき かきかき
何かをつかもうとしていた

脚をぎゅっと立て
見えないものを
抱きしめながら
その形のてっぺんで
冷たくなって

あれは何だったのだろう


見あげれば
私の思いも逝く雲の盛りをこえて
流れていく

あのあたり いま
かすかに風にゆれている

おいしい樹液の
川のような淋しさ

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アダムの煙

2007年06月11日 00時05分01秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
言葉を
擦ってしまうと
あなたは
儀式のように
永遠より
やや短い煙草に
火をつけるのだ
世界のはじめを
やりなおす
アダムみたいに

わたしたちは
絶望より
やや軽い
暗闇の中で
火の玉が踊るのを見つめ
希望より
やや重い
何かを待っていた




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神様の電話(36行バージョン)

2007年06月10日 23時12分27秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「神様の電話」


雨の降る夜に限って
必ず鳴る
無言電話が幾日かつづいた

雨音のむこうの闇に
繰りかえされる息づかいは
切なげにも聞こえ
奇妙な緊張と興奮に
自分の息と神経までが
次第に同調していった

息苦しくなって受話器を下ろすと
その夜は再び掛かってこなかったので
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の節度の方に
デリカシーを感じた

何かの理由で
言葉を失ったに違いない
小さな胸の後ろには
もしかしたら羽がはえている

そんな油断からある晩
 マサコサンですか ときいた
 ミチルクンですか ときいた
 レイコサンですか ときいた
 
沈黙はそれらを聞き流したが
 やっぱり カミサマですか
ときいた時 
もう一つの受話器が
世界で一番小さな悲鳴のように
そっと置かれた

神様はもう
電話をしない



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二丁目の!(「!」を改稿)

2007年05月31日 01時04分07秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「 二丁目の!」 


二丁目のバス停に
朝日は注ぎ
人々の列は
そよ風にそよぐ
麦穂のように
揺らめいている

めいめいの頭頂からは
マンガの吹き出しのような空白に
○×□●△?
暗号が
吹き出しては消えている

一丁目の丘に
バスが光ると
一斉に


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