尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

夜行バス

2008年10月31日 23時31分04秒 | フォト日記


構図や明るさ、彩度を少しいじるぐらいで、ほとんど編集しない主義だったですが、ちょっと遊んでみました。「人気のないバスの不気味」というようなテーマでね。編集はフォトショップエレメンツを使っていますが、お金があれば来年ぐらい本物に挑戦しようかな。

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おれだけ村の火の玉坊や

2008年10月31日 17時08分58秒 | 童話

「おれだけ村の火の玉坊や」
尾崎まこと


 お侍さんが、刀をふりまわしていばっていた、大昔のお話です。
 お山にはさまれた、おれだけ村という村がありました。冬には雪が積もる、寒い村でした。村のまん中には、丘の広場がありました。そこには大きなぶどうの木が一本、でんと座っていました。夏には、たくさんおいしい実がなりました。村の人たちは、
 「これはおれだけのぶどうだ、誰にもあげるものか」
 と口々に言いはって、うばいあいの喧嘩になります。まるで、喧嘩祭りです。ぶどうがつぶれて、みんなの顔はぶどう色に染まりました。
 秋には、柿のとりあいになって、みんなの顔はかき色になりました。春には、桃のとりあいで、みんなの顔はもも色になりました。お米ができても、おいもができても、
 「おれだけのものだ」
 と叫ぶので、この村は「おれだけ村」と呼ばれたのです。

 ある年の、ほんとに寒い寒い冬のことでした。秋の収穫が少なかったので、おれだけ村の村人は、食べ物にも、暖まるための炭にも困るようになりました。昼間でも、灰色の雲が空をおおい、夜明け前のように暗いのです。
 「お日様が出るともう少し暖かくなるのになあ」
 と、みんな口をあいて空を見ておりました。
 すると雲に裂け目ができて、まばゆい金色のロープがするする降りてきました。きらきら輝くロープは、雪でおおわれた広場のまん中の、大きなぶどうの木まで下がってきました。
 「なんだろう?」
 村人は空に顔を向けたまま、広場に集まってきました。みんな、ロープのまわりに輪になって、がやがやしていました。
 「わっ、お日様のしずくが降りてくる!」
 そうです、火の玉坊やが、ロープをつーと降りてきたのです。坊やは頭の毛が逆立っていて、たいまつのように燃えていました。顔と体は人間の子供とおなじで、人なつっこい丸さです。トラの皮のパンツをはいていました。
 「寒かろう、火の種はいらんかえー、火の種はいらんかえー」
 広場に降り立った坊やは、歌うようにかわいい声で繰りかえして言いました。
 誰か一人が言いました。
 「雷さんの子だ!」
 あっという間に、雪で滑ったりしながら、逃げていってしまいました。坊やは村じゅうの家を、駆け回り
 「火の種はいらんかえー」
 と声を張り上げました。注文がないので、だんだんその声は、やけくそになってきます。
 「坊や、いらないよ。火事になるから早くお日様のところへ帰っておくれ」
 家の戸を閉ざしたまま、こう言って追い帰してしまうのでした。ある家の二階の窓が開きました。坊やと同じような年頃の女の子の頭が出てきて、
 「鬼は外!」
 硬い豆が降ってきました。かわいい女の子に鬼と間違われた坊やは、がっくりしたのでしょう。頭の炎がうなだれています。
 最後に、大きな庄屋さんのおうちに訪れました。門が開いて、用心棒のひげづらのお侍が出てきました。手に桶を持っていました。
 「ジュー」
 お侍は、坊やの頭から水をぶっかけたのです。坊やは、ワーッと叫んでしまいました。
煙を引きずりながら走って逃げました。

 丘の広場に戻った坊やは、ひっくひっく泣いていました。泣くとオレンジ色の炎が、小さくなっていきました。炎が消えると、坊やは死んでしまうでしょう。
 「坊や、どうして泣いてるの?」
 ぶどうの木のおじさんが、しゃべったのです。
 「おれだけ村をあっために来たのに、お水をかけられちゃったよ」
 おじさんは、腕のような太い枝を坊やの方に傾けて優しい声で言いました。
 「さんざんだったね。じゃあ、お父さんとお母さんの待っているお家にお帰りよ」
 坊やは首をちょっとかしげて言いました。
 「それがね、お父さんと、お母さんのお家が別なんです。…では今夜、お母さんのお家に帰るとしましょう」
 おじさんは、枝をかさこそさせて坊やに頼みました。
 「それまで、この裸のおじさんを 暖めてくれないか」
 坊やの炎がぱっと明るくなりました。坊やは、頭をふって、おじさんのまわりを踊りながら回りました。そうです、ほんとこの子は、みんなが喜んでくれるのが一番なんです。
 おじさんは、地面が揺れるぐらい、根元をゆらして笑いました。すると、見る見るうちに、葉っぱが茂り紫色の大きな実がたくさんなりました。それから雪の消えた丘には、色とりどりの花が咲き蝶も来ました。夜になっても、坊やのおかげでそこだけが明るくて、春のような丘でした。
 雪の山から、きつねのお母さんが、白い息をぽっぽさせておりてきました。背中に、お母さんとそっくりな顔をした、子供が乗っていました。お母さんは、祈るような目をして言いました。
 「お乳が出ません、ブドウをわけてくださいな」
 ブドウのおじさんは、
 「だいじなものはみんなのものだ」
 と、体をゆすって、実を落としてあげました。お母さんは、ブドウをかんでブドウのお乳を作りました。飲んだ子供は元気になりました。
 「コン、コーン、ココーン」
 もう、ブドウの木の周りを歌って跳ねてます。坊やの火の玉は、うれしくて、大きくなりました。
 こんな風景を見ていたたぬきの親子三匹が、山から下りてきました。三匹の親子はみぞれで濡れていました。たぬきの家族は、坊やの明かりで美しくチラチラ照らされていました。お父さんがいいました。
 「夜になっても、この子が寝ないのです。
お月様が見たいようって、ね」
 お父さんに抱っこされている、たぬきの子供は口をとんがらせています。火の玉坊やは言いました。
 「大事なものは、きっと、みんなのものなんですね。お月様もね」
 そして、雲の空に向かって大声を出しました。
 「ぼくのおかあさーん」
 雲に穴が開いて、まんまるお月様があらわれました。 たぬきの親子は喜んで
 「ポン、ポン、ポンポコリン」
 おなかの太鼓をたたいて、狐さん達と一緒に踊りだしました。それを見ていた、山の動物達がたくさんやってきました。リス、うさぎ、熊さん一家までやってきました。
鼻の頭をすりむいた、熊の子が言いました。
 「おいら、お砂糖のお菓子が食べたいよ」
火の玉坊やは、空の星におねがいしました。
きらきらお砂糖のお菓子が、流れ星のように降りました。リスには栗のお菓子が降りました。こうして動物達は、お星様からいろんなお菓子をもらって、嬉しくて、歌って踊りました。

 お祭りの最中に、お月様から銀色のロープが降りてきました。坊やが
 「おかあさん、今晩はみんなとここで過ごします」
 と言うと、ロープは消えました。ブドウのおじさんは、ロープを消した、お母さんの気持ちを思いました。
 「この子は、今夜のような賑やかなことが好きなんだなあ。だから、お母さんは、夜のお祭りを許したんだなあ」
 丘の動物達のふしぎなお祭りを、窓や戸の隙間からみていた村人達も、がまんできずにやってきました。
 「坊や、昼間は悪かったね。火の種くれませんか」
 坊やは、頭の火の種をブドウの葉っぱで包んで、ひとりひとりにあげました。火の種を胸にしまうと、もらった人は心まで暖かな気持ちがしました。おまけにぶどうを食べると、酔っぱらってしまいました。動物達と一緒になって、輪になって踊り歌いました。いつもは、畑を荒らすとかで仲が悪いのにねえ。
 坊やの頭の火は、種をあげるたびに、小さくなっていきました。坊やは、最後の力をふりしぼって、頭から派手な花火を打ち上げました。
 『ドカーン、バリバリ、ドカーン』
 空いっぱいにヒマワリが咲きました。みんな手をたたいて大歓声をあげました。
 ところが、夜明け前でした。強欲な庄屋が、火の玉坊やのまねをして、空に向かって叫びました。「大事なものはみんなのもの。小判よ降って来い!」
 すると、風が吹いて、小判のかわりに霰が降ってきました。
 動物達は山の巣へ、村人はそれぞれの屋根のあるお家へと、てんでばらばらに帰っていきました。楽しいお祭りは、こうしてあっけなく終わったのです。

 夜が明けました。丘の広場には雪が降っています。静かです。火の玉坊やと、ブドウのおじさんだけが残っています。おじさんは、言いました。
 「坊やの頭、ロウソクの炎みたいに、小さくなったね」
 坊やは、にっこりしました。
 「おじさんだって、丸裸じゃないか」
 「そのうち春が来たら葉をつけ、夏が来たら房をつけるさ」
 寒くて身震いしているおじさんを、あっためる力は坊やに残っていませんでした。坊やも、震えていました。トラの皮のパンツ一枚なんですから。
 おじさんは坊やを、根っこの穴に入れて抱いてあげました。疲れた坊やはすぐにいびきをかいて、眠ってしまいました。雪で体が白くなってきたおじさんは、独り言を言いました。 「この子は、いつになったらお父さんとお母さんと三人して暮せるだろうか」
 おじさんの言葉はたちまち、木枯らしの風が巻き取っていきました。お昼を過ぎて、ブドウのおじさんは寝ている坊やを起こしました。
 「さあ、坊やのお家に帰る時が来たよ」
 お父さんのお日様は、厚い雲で見えませんが、雪の渦巻くなかに金色のロープが真っ直ぐに降りています。おじさんは、坊やの腰にロープを結んであげました。
 坊やはいつまでも手を振って、おじさんにバイバイしてました。ずんずん高くなって、雪でとうとう見えなくなってしまいました。

 おれだけ村には、もう二度と火の玉坊やは現れませんでした。今でも坊やは、金のロープと、銀のロープを、元気よく、降りたり昇ったりしています。あなたのこころの丘にもね。


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女の一生

2008年10月31日 00時01分15秒 | 尾崎まことの「写真館」

「女の一生」
女は脚を削りつつけるのである。

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健忘症

2008年10月30日 01時30分54秒 | 詩の習作
どうもあなたをあいしているとは
あなたをおもいだしていることらしい
瞬間の短い煙草を吸いながら
永遠にたなびく煙をくゆらせながら

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永日

2008年10月30日 00時57分15秒 | 詩の習作

昨日という日は
昨日一日
きのうを思い出すためにきて
今日という日は
今日一日
きょうを思い出すためにきて
明日という日は
明日一日
あしたを思い出すためにきて
君は君と私を思い出し
私は私と君を思い出し
ただそれだけのために

思い出しては忘れ
忘れては思い出す

ただそれだけのために
昨日は
きのうをまた忘れ
今日は
きょうをまた忘れ
明日は
あしたをまた忘れ
君は君と私をまた忘れ
私は私と君をまた忘れ

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天満宮

2008年10月29日 01時27分47秒 | フォト日記

昼休み、昼食の後大阪天満宮に寄りました。
都心のど真ん中にありながら、人も風景ものんびりほんわか、懐かしい昭和の時代がここには生きています。
ちょっぴり傾きながら寄り添っている酒樽達を見ているだけで、彼等のひそひそ話が聞こえてくるようです。
思わず頬がゆるみました。

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劣情

2008年10月29日 00時42分25秒 | 詩の習作

恨むような
その右目はなんだ
それだけで生きもののような
その左目はどうだ
二つ合わせて
悪魔さえ誘惑する
その両眼はなんだ

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縫合

2008年10月28日 21時10分08秒 | 詩の習作


脊柱に右目と鼻と睾丸を縫う
頭蓋骨に左手と心臓と右足を縫う
散髪屋
針と糸を持つ透明な手つきの
奇妙な運動が
俺を縫い合わすのである
その舞踏を言葉とは言うな
それを容易く詩とは呼ぶな
どうか脚を止め
一瞬手を合わせてくれ
永遠どもっててくれ
どもったら去ってくれ

蛇ではない
傷ではない
おれはのたうつ縄である

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この一行

2008年10月28日 04時42分47秒 | 詩の習作
詩が一行
書けなくなると
死んでしまう気持ちがする
かっこいいな

それでいて実は
詩など一行も書いたことはない
無様だな

この一行

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夜の腕

2008年10月28日 04時17分31秒 | 詩の習作
父が死んでから
45年経った
100回は父の夢を見た
100回とも
父が死んでいるとは気がつかなかった
ついに父の年を15年越えた
15才年下の父に会っても
彼が死んでいるとは気がつかない
15才年上の息子を見つけても
父は自分が死んでいるとは気がつかないで
蛇腹のカメラの使い方など教えてくれる

母の夢を見たことは一度もない
見ることが出来ないのである
ただ若い頃
夢を見た記憶がないのに
目覚めると泣いていることがあった

正体の分からない
こわい夢もたくさん見た
夢は優しい
こわい夢の正体も
僕に会いたくて来ているような気がする
夢は
夜の腕である

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まさか

2008年10月28日 00時10分54秒 | 詩の習作
まさか自分だけは
死なないだろうと
今日の今日まで
思って生きてきた

死ぬと思っておれば
もっと良いこともしただろうし
もっと悪いこともしだだろうし


死ぬって
良いことも悪いことも
もうしなくていいんだよね

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ほんとう

2008年10月27日 23時59分10秒 | 詩の習作
しっぽを振っている犬が
瞬間
ほんとうの人間に見えた
瞬間だけど
ほんとうをかいま見て
涙が出た

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生まれた日

2008年10月27日 23時53分32秒 | 詩の習作
この年になるまで
生きて来れたんだからね
いまさら死にたがっている訳ではないよ
泣きたいだけだよ
おぼえてないけど
生まれた日
のように

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回想

2008年10月27日 23時44分16秒 | 詩の習作
僕がいつも
首を回しているわけを話そう

持病の頭痛から解放されていくとき
この風景と
この風景にずっぽり取り込まれている
この自分というものが
誰かの回想のなかにいると
はっきり感じることがある
その場合
彼は夢を見ている とはいわないだろう
いわゆる 現実というものを
彼は見ているわけだ
そしてその回想の中で
僕は君と出会ったわけだ

ほら
君だって回しているじゃないか

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記憶

2008年10月27日 23時25分15秒 | 詩の習作
圧倒されてしまうのは
彼の記憶力である
つまり彼は
記憶力のある岩石である
というよりも
岩石とは
そこにあり続ける
自分自身としての
記憶ではないか

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