尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

「哲学」

2007年03月30日 01時37分24秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
 「哲学」


スカートをふわりとさせて
少女は少年の僕を
またいだ

落書きはだめ
答えはここに書くのよ
あなたの生涯をかけて

それからは
どんなものにも股がある

見上げれば
いつも空にまたがれていた
空はそれだけで立派な
股であった

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カメラオブスキュラ Ⅱ

2007年03月29日 19時56分16秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集


明かりを消して
目蓋をとじるとわかる
あなたの
ことばが
差しこんでくる
一行の光だって

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カメラオブスキュラ Ⅰ

2007年03月28日 15時09分11秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
言葉という穴が空いていないと
僕はただの暗い箱
だったね

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石の花

2007年03月26日 00時25分04秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集

 「石の花」


真空に丸い小石が
一つ浮かんだよ
くるくる
回っているよ

石に川が流れたよ
石に草原が開けたよ
石に花が咲いたよ
花、花、花のなかで
今、女の子が笑ったよ

そんなの嘘だわっ、て?

地球のことだよ
君のことだよ



   (詩を書き始めた頃の作品で、大阪文学校で長谷川龍生さんに、約一時間ほ    どねちねちこき下ろされた今となっては嬉しい経験があります。
    三連目の「嘘」はもともと「奇跡」で、長谷川さんがそれは詩語
    じゅあない!と言ったことがまじまじと思い出されます。
    だから改稿したのではなく、意味が通り安くしたつもりですが、
    さてみなさん、どうでしょうか?)
コメント (2)
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ユキジルシの人々

2007年03月22日 23時00分15秒 | 詩の習作
深い夜だった
明かりはないのに
影絵のように
すべてが見通せた

彼等は
紺色のスーツを着た
穏やかな人たちだった
いつまでたっても建築がはじまらなくて
草ぼうぼうの造成地を
一日の仕事のことなど話ながら
僕たちは歩いていた

電話で流行をリサーチすると
くってかかる客が多いんだ
トレンドなんて過去のものなど
うちらにありません!
てね
彼等はマーケティング課に所属しているらしかった

つまり
流行がないということが
流行なんだね
彼等の話から
結論らしきものをまとめてみると
彼等はびっくして僕を見た
そして僕は
彼等がびっくりしていることに
びっくりした

夢というのは
たいてい
自分の思考にあるものが
外の景色に現れるからである

この平地のどかかに
北の国へ帰る地下鉄の駅があるらしい
草むらでちょっと寂しい挨拶をして
僕たちは別れた
そのうちの一人がひょいと
片腕をあげたとき
目があった
犬のような目であった


ひとりぼっちで歩きながら
生きているのは
僕一人だったなと
ふり返った
しかし
その淋しさを
片腕をあげた男に
見抜かれていたな
と思いながら
目が覚めた

目が覚めても
ほんとうに
流行っているものなど
何一つ無い
国であった



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「月間賞」と「大賞」受賞のお知らせ

2007年03月19日 22時40分52秒 | みなさんへ・その他
昨日は日曜でしたが、
先月の15日産経新聞に掲載されました詩「まんなか」が、二月度の『月間賞』に選ばれ、選者の新川和江さんの言葉と共にふたたび掲載されました。
もちろん賞を頂いたりすることは光栄です。
この詩を新聞で読まれた女性の方が、自分の体験と重ねて涙ぐまれたと、
人づてに聞いて、もっと嬉しかったです。

それから、日本文学館主宰の「五行歌でつづる『思い出の歌』コンクールで、大賞を受賞したとのお知らせを頂きました。(応募した作品の10編はこの下に掲載)

 もし僕の詩に少しでも新しいところがあるとしたら、
「詩の仲間」ではなく「人間の仲間」としてのあなたにまっすぐ訴えようとしていることだと思います。
応援していただいているみなさん、ほんとうにありがとうございます。
 ほんとうのところ、
自分がなんのために書いているのかは分かりません。
しかし、あなたがいないと全く、
書く気になれないのは確かです。

コメント (2)
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五行歌でつづる思い出の歌 

2007年03月19日 00時29分34秒 | 五行歌・自由律俳句
五行歌でつづる思い出の歌    
        尾崎まこと


木の陰で
脱皮しても
脱皮しても
また蛇
わが思春期


遠い花火が開いて消えた
遅れて音がやってきた
唇が今ごろ
あなたの名前を呼んだ
これはなんという花火?


わけもなく楽しい日々に
たった一つのわけが来て
哀しみに立ちつくした
わけもなく美しい
夕暮れに囲まれて


自分が死ぬということを
納得できかねて
ジャックの豆の木のように
ベッドから空に伸びてきた
あなたの腕を抱いた


三度あなたの名前を呼んだ
二度まで瞬きで答えてくれた
三度目 
答えはあなたを連れて
帰ってこなかった



追えばどこまでも逃げる
不思議な地平線を見つめ
僕は立ちつくしてしまった
ここがあなたの見ている
地平線の上であると知らずに


優しいあなたは
花のように
教えてくれた
ここが
わたしのまん中よ


少年時代
昼間は青い帽子を
夜は星の帽子を
被っていた
地球のように


わたしという本
軽いキスは
時の栞
深いキスは
命の栞


海は地球を四十億年洗い続けた
洗っても洗っても落ちなかったものが
陽に焼けて飴湯を呑んで
その子どもの手を握り
長い影を曳いて帰っていった

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ナマコの女

2007年03月18日 00時34分01秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「ナマコの女」
     
昨日のことだ

朝市の
ブリキのバケツの中に
彼女はいた
これは命の原型だと感動
いわゆるナマコの女であった

震える指で万札を数え
それでも盗人のごとく
あさましい心持ちで
家に連れ帰ると
さすがにナマコ女である
いきなりマリ状になって
僕に跳びかかり
胸やら尻に張り付いて
吸ったりして
噛んだりもして
伸び縮みを繰り返し
黄緑色にも発光した

あらゆる角度をさらし
その下等の文様をみせつけ
縄文式とか
弥生式!
なにやら叫び声を発しては
オートマチックに昂ぶり
その軟体を
引きちぎり引きちぎり
こねまわし

日が暮れて遠雷が光り
部屋が青白に浮かんだとき
ナマコの女は
バタリ
はがれてしまうと
落ちた床から僕を見上げて
 そろそろ帰らねば
虫みたいに悲しい声だった

今さらだけど
 どこから来たの?

 遠くからです
 うんと遠くからです

 十億光年くらい?

いいえもっと遠くから
 昨日からです
 
えらそうにしないあなたが好きでした
 これはほんとです

穴の目から
ポロポロ泣いた

それからナマコの女は
雨に叩かれる深夜の国道を
ずりずり這って帰っていった
もちろん
十億光年の峠を越えて
昨日へ

昨日ほど遠い国はない

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星だ

2007年03月16日 23時51分56秒 | 詩の習作
人間だと思ってきたもの達は
もう人間でないかも知れない
星だろう
星だと思うと楽になる
星だと思うとわかることがある
そう
星がツバを吐いたのだ
星がゲロを吐いたのだ
星を抱いたのだ
星だ
星だった


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金環食

2007年03月14日 21時29分03秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「金環食」


※およそ語り得ない、そして論じえぬものについては
 沈黙しなければならない

・・・なるほど
では語り得ぬものについてこそ
語らねばならない呪われた詩人の戦略は
こうでなければならない

背中の恐怖に沿って
語りえるもののすべてを明晰に
語りつくすこと

暗黒の沈黙のまわりを
語りえるもので愛撫し
その語りえるもの縁取りが
語りえぬもの=黒い太陽
の輝く金冠になりますように!



    ※ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』序文より


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相対性原理

2007年03月14日 21時24分49秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「相対性原理」

元旦
凧が
糸をぴんと張り
地球を一個
揚げている

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瀬戸物

2007年03月14日 21時21分11秒 | 童話詩「千年夢見る木」候補集
「瀬戸物」


天気の良いほど
暗いのです
わたしという形の
瀬戸物の内側

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人形劇(マリオネット)

2007年03月02日 00時29分49秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
〈これはもうお芝居じゃない!〉
カトレア組の子供達は一斉に悲鳴をあげた
惨劇は舞台で起きたのだ
植木バサミが一本の糸で宙づりにされ
回る刃先で中央に倒れ伏しているマリオを指している
あちらこちらに失禁の水たまり
引率の女先生は金切り声で自分を慰める
 〈いいえ、これはお芝居です!〉

人形と人形遣いとの禁断の恋  
狂ったマリオは頭上でハサミを振りまわし
自分と世界をつなぐ糸をことごとく切った
恋人は上の方で操り棒を握ったままスポットライトを浴び
 〈人の糸も切れるのです〉
白い目玉で放心している

 〈タム タム タム !〉
初老の男が幕を降ろさせながらよく響く拍手をした
 〈お静かに 人形に魂はありませんから
  先生のおっしゃるとおり 人形を愛した人形遣いが
  操り糸を切った というお芝居です〉

男は悪寒に震えだした先生を楽屋に運び入れ
そばかすだらけの背中をさすってやった
先生は化粧鏡の中の男に尋ねる
 〈あれはあなたのシナリオ通りですの?〉
 〈そうですとも全くシナリオ通りですとも〉 
 〈よかった、お芝居で〉
男は先生の答をわずかに修正した
 〈神の〉

男は白いうなじに黒子を見つけ
 〈ありました、人間の糸〉  
先端からつーと引き出すような仕草をすると
 〈壊れるのはいつも人間です〉
女はびくんとのけぞり黄色い液体を
 〈どこにこんな溜池があったのだろうか〉
恍惚の表情で吐き続ける
 〈ワハプス ワハプス ワハハプス ワハハプス〉

劇場前の広場では
影を長くした子供達がハサミを頭上で振りまわし
地面にどっと倒れこむ遊びを繰り返しながら
 〈糸を切ったのはやっぱりマリオだよ〉
カトレア組の美しい先生を待っている



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