尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

怪談

2008年05月15日 16時40分52秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
怪談


おもしろいは
おもしろいかしら
かなしいは
かなしいかしら
AイコールAかしら

あなたがあなたでなかった
ショックから
わたしは
ほんとにわたしかしら
AイコールAだったら
いつまでも今日じゃないかしら

明日来るのは
ほんとに明日かしら
何かが来るって
ほんとは
恐いことじゃあ
ないかしら


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鳩よ(2)

2008年05月14日 23時35分01秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「鳩よ」


冬の公園の
日だまりは
知らない鳩でいっぱいだった
ノアの放った鳩の末裔だろう
噴水が高くなると
しぶきを怖れて
噴水の形で
飛び去った

その夜
知らない
一行目が降りてきた
オリーブの葉を
音符のようにくわえている
優しい一行を探しながら
知らない詩のまま
終わりの行を
書き終えた

思い出の
日だまりを
首をすくめて
歩いている鳩ぐらい
小さく遠のいていく
男の物語

その男を
今日も生き
寝返りをうって
彼の一行を
明日へと改行する

わずかに
揺れた気がするのは
箱船の底の暗さだろうか
朝が来れば
自分をまぶしい空へ
放とう

おおい
鳩よ




  鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。
 見よ、鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえ
 ていた。ノアは水が地上からひいたことを知
 った。彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩
  はもはやノアのもとに帰って来なかった。
               (創世記8章11~12節)      
   

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2008年05月14日 22時32分06秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「凧」



あなたの姿は
とうとう  
見えなくなったけれど
細い絆を
懸命に握りしめている
地上の小さな手を信じる

胸の結び目に
その力を感じ
僕は青い階段を駆け上る
てっぺんでは
くるくる回り
それから逆さまに
落ちてあげる

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真珠貝の唄

2008年05月14日 22時29分46秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「真珠貝の唄」



わたしは石のように硬くて 
閉ざされた目蓋の形をして
深い海の底に置かれています
自分の吐き出す砂粒でさえ
見ることはないでしょう

遠い呼吸のような 
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と

果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく 
小さな星があるのです

地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら


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なんどでも

2008年05月14日 22時21分05秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「なんどでも」



こらえきれず
あなたが
泣き出してしまうと
死んであげるよと
後ろから
言ってあげる

なんどでも 
死んであげるよと
なんどでもなんどでも
言ってあげたので
ついにあなたが
笑い出すと

こうして
右の手が
左の胸を押さえ
なんどでも
僕は死んできたのだと
ついに思い出す

黒い木から
石のように
スズメが
飛びだす明け方に



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雑踏

2008年05月14日 22時02分46秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「雑踏」



嫌いになることは
一生かけても
できないことでした
ただ
鏡の向こう側に
入っていったあなたを
探してさまようことに
疲れたのです

あなたも
あっという間に
おじいさんになった
わたしを探さないでください
夜ごと
夢の中の雑踏で


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ポスト

2008年05月14日 21時57分03秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「ポスト」


この秋の
深い空のどこかに
赤い切り傷のような
ポストの入り口は
隠されていないか

カポン!

ふいに
明るい音がして
あなたからの
なつかしい便りが
僕のこころに
降りてくる

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七月の海

2008年05月14日 21時19分27秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
かげろう水平線は
わずかに揺れる
地球の首飾り

ダイヤモンドの連なりが
恋人たちに押しよせる

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相対性原理

2008年05月14日 21時17分13秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「相対性原理」


風に
凧がまわると
糸でつながった
僕までまわる

おーい
凧よ

僕が
青い壁に
君をあげているのか
君が
黒い壁に
地球を
あげているのか?


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カテドラル

2008年05月14日 21時12分51秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「寺院」



どんな名僧よりも深く
誰もが一人静かに
瞑想しておったのです

母という寺院

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求道

2008年05月14日 20時59分58秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「求道」


無神論者のお前の舌には
億万個の目がついているだろう
お前のそのざらつく目で
この世のすべての面を
なめて、すべてなめつくしてな

よく聞けよ

なめきれぬものの輪郭が
カッカッカッカッ
神だろうが!

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病気の女

2008年05月14日 20時46分36秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「病気の女」


あなたの詩には
ほんと
ポエジイがありませんね…

しんみり
百枚目の
原稿用紙から
顔をあげてこう言う
すすけた
病気の女が
なにを隠そう
私の惚れた
私の詩です

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名人

2008年05月14日 20時36分10秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「名人」


誰にも悟られず
ゆっくり ゆっくり
死んでいくこと
こんなふうに

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地平線

2008年05月14日 20時28分05秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」

追えばどこまでも遠ざかる
不思議な一本線を見つめ
君は人生に凡庸な結論を下し
立ちつくすのである

地平線なんて夢だ

そこが
誰かが見ている
地平線の上だ

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進化論

2008年05月14日 19時58分08秒 | 新編「もう一つのカメラ・オブスキュラ」
「進化論」


あなたの くしゃみ
宇宙のビッグバン

あなたの あくび
宇宙の退屈

あなたの ため息
宇宙の憂鬱

あなたの おなら
宇宙の油断

あなたの 煙草
宇宙の思索

あなたの 鼻歌
宇宙の希望

あなたの 足跡
宇宙の歴史

あなたの くちづけ
宇宙の欲望

あなたの 鼓動
宇宙の時計

あなたの おしゃべり
宇宙の進化論

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