尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

くしゃみ

2006年12月31日 13時41分51秒 | 詩の習作
会社を首になった
と云うようなことではない
妻が印鑑のセールスマンと浮気をしていた
と云うようなことでもない
明るみに出てくしゃみするよりも
もっと些細なことで
この人は生きてはいけないだろうと
左手の上に右手を重ね
自分のことをそう思ってきた

小学校の門をくぐったが
いきなり教室を忘れてしまい
校庭の奥の藤棚の下に座っていた
空っぽの校庭の四隅からは
子供たちが一斉に椅子を引き
立ち上がる音や元気な挨拶が
青い空に
夢のように立ちのぼっていた

校庭の正面から
駆け足でやってきたのは
授業のない
校長先生か教頭先生だったのだろう
名札を見て僕を
藤棚の影から引き出した
そのとき僕はきっと
くしゃみをしたのだろうと思う
くしゃみして振り返ると
僕はまだ
藤棚の下にいたのだ

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2006年12月30日 21時11分11秒 | 詩の習作
常に尾のようなものが
尻にある
血ではない
それは影である
つまり失ってきたプライド
のようなものが
無いモノとしてあるのだ
有るモノとしてないのだ

ホースではない
むしろ血管である
自分を顔だと信じ切っている
人々の顔を見るとき
その尾を前に出してきて
必ずぱたつかす
歓迎しているのではない
むしろ怒っているのだ
お前の顔は尻だと
俺の尻が顔だと

デカダンスの
能面のような顔の前で
振られる尾が
よく見える
ひとつの顔に
一本の尾だ
それが
殺され続けてきた蛇だとしても
もう驚かない

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「信号灯」

2006年12月30日 20時03分41秒 | 短詩集
信号灯がまた
ぶっ壊された

いつもそうなんだ
犯人は
信号を守らない人ではなくて
律儀に守ってきた人なんだ

泣きながら
壊してたんだよ

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ミニ詩集『亀山博士』

2006年12月29日 22時57分20秒 | 自選詩集
「水準器」
   
信じるべきは
彼方の水平線ではなく
二人の間に降ろした
重力である

僕ら二人が
まっすぐに
立っているとすれば
満ちてくるこの海は
君の胸の角度で
傾き始めた

月の方へ



 「創世記」   

人生をはじめたばかりの君は
ある日思い知らされるかも知れない

たとえば当て逃げ事故のような
訳のわからない失恋なんかして
たとえば詰め将棋のような
謀られた友の裏切りにあったりして

あたりを見回すと
祭りの後の舞台のように
仲間はみんな消えている
そのとき君だけが
塵と風が舞うこの世の舞台で
たった一人の人間だ

世界史の教科書には
省かれているが
人間であるということは
いつもそういうことだった

人類の隊列の最後尾に
たった一人の人間が取り残された
彼は人類の最初のアダムのように
イブを捜しに出かけるだろう

何度でも言うよ
そのとき君だけが
この地球の上で
ほんとうの人間だ



「ツリー」 
       (2006『詩と思想』11月号入選・掲載)
 
朝 
螺旋のかたちで
降りてきた木の葉を
光りに透かすと        
もとの木と枝のデザインが
エッチングの技法で
刻まれている              
                    
お昼休み
レントゲンのバスがきて
白衣の人は言う
ここに立って あなた動かないで
息をすって もっとすって
息をしないで しないでったら
はいっ!

 ふぅ

四角いカメラを丸抱え
乳房つぶしたけれど
明日になれば
透かされているかしら
白と黒のわたしの木
暴かれているかしら


一日の終わりに
天井の明かりをシャットダウン
パソコンのモニターが遅れてプシュー
するとわたしこんな闇に
立っていたよ
朝から

叱られて覚えた一人遊びは
息をしないでツリーのように
ほの白に身体を灯す

積もらない
木の葉降っている
 
 ふぅ ふぅ


  
 「歯ブラシ」

生きても
生きても
生ききれなかった
男と
死んでも
死んでも
死にきれなかった
男と

二人の
双子が
夜明けに
一枚の板ガラスを挟んで
出会っている

お互い
一本の
水平線を
激しく揺すり
同じ波動で
世界を白く
泡立てる

誰かに
呼ばれて
同時に背中を
振り返る

一人は
むっつり
仕事に出かけ
一人は
ばかめと
出かけない



 「亀山博士」 
      (『詩と思想』2007年1月号入選・掲載)

亀山博士は
ラーメンの汁をすすり終え
干上がった鉢の底を見やりながら
おっしゃったのだ

 君、想像したまえ
 人間はすでにいないんだ
 地球もね
 神様だけだ
 そんな宇宙は奇妙に歪んでいて
 寂しいだろう?

神様は風邪をひくでしょう
僕の答えに
博士は鉢の縁を
箸でパチンと叩いた
次の客に押されるようにして
僕たちは屋台を出た

博士と別れてから
古ぼけた煙草屋のある角で
ちょっと酔って
まるで彼女に電話するみたいに
絶対に話し中の
携帯電話の番号を押した

 ピポパ
 パピポ

月もないのに
群雲が光っていた
話し中である
神様も
電話をかけているらしい


 
 
 「月の方へ」     

それは
軽い戯れから始まった

竜蔵という名のやくざな男は
惚れた女に
ほんとは一番好きだ
という男の名前を
呼ばせてみた

女は竜蔵の奇妙な哀願に
しかたなく一度だけ呟いてやったが
瞑った目じりから涙を一筋垂らせると
後は魔にはまり
愛しい男の名前を繰り返し
繰り返し呼びだし
自分自身の声の反響に
激しく昂じていった

見たこともない
女の法悦の有様に竜蔵まで
神がかった文楽人形
己が誰だかわからない
白目と顎と手足の関節を
カックカック
させている
二体の人形は壊れる寸前だった

静けさが戻ると
喧嘩という喧嘩に
負けたことのなかった竜蔵は
見えない相手に
初めて負けた気がした

風呂で女に龍の彫り物のある
背中を流させ
女を心配させるぐらい
湯船に沈む遊びをし
最後に浮かび上がって
帰るぞ
と湯を吐いた

なに言ってんのよ
ここ
あんたの家じゃない

木戸の外は
醤油の溜まりのような
濃い夜だったけれど
その闇に切って跳ばした
爪 よりも細い月が
釣り糸でも垂らすように
一筋の光を差し入れていた

竜蔵は
背中に青い龍をしょい
立ち泳ぎで
そろーり どこかへ
帰ったそうな

つまり竜蔵
粋がって家は女に
くれてやったのだが
その女が一番目の男を招くには
半年とかからなかったそうな

生きているとしたら
今でも そろーり
立ち泳ぎだろうね
竜蔵という
二番目の男は
月の方へ




「星も都会も」
       (2006年11月26日関西詩人協会総会にて朗読)


              ほしもとかいも
           ものすごいスピードで
             のぼっていくとき
              ひとりぼっちで
              おちてゆくひと

            そのひとにおいつき
        ゆっくりおはなしできるのは
          かなしみをおもりにして
              おなじそくどで
              おちてゆくひと

                かみのけを
          ほうきみたいにさかだて
     ひふ と けっかん をめくりあげ
め と みみ と はな をふきとばしながら  
            ふたりわらっている

                はなびちる
              キスをしている
             むじゅうりょくの
            ブランコのセクスも
                 ためそう

               はてしのない
         よろこびがおちてゆくとき
        そのよろこびのかなしみには
                そこがない
       とかいは うえのほうでほしだ



 




      





コメント (2)
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谷川俊太郎 『歌の本』

2006年12月25日 21時45分22秒 | ことばの玉手箱
「歌になった詩と真空管ラジオ・コレクション
詩人が半世紀にわたり書き綴った歌うための詩、単行詩集未収録の66編を自選。秘蔵の1930~50年代の真空管ラジオ・コレクションを添えた贅沢な歌・詩・集」
…アマゾンには出版社 / 著者からの内容紹介として
こう解説がありました。

お金と欲望が神に代わった現代に生きようとすると、
こんな美味しい毒を飲んで、冷たい世間や人間に対して
免疫を得なければならない、ということだと思います。
前衛という死語をまだ使いたがる現代詩というのもが、
同じ時代の変化に自閉という形で対応しているとしても、
これらの谷川詩の底にある諦念(叙情の死の叙情)と比べて、
いかにも幼く未熟なものに思えます。


〈二行と三行のことばの玉手箱…谷川修太郎『歌の本』より〉

3ひく3はゼロなんだ
ああ いい気持ちいい気持ち   (「3たす3と3ひく3」より)


しょっぱい涙を自分でなめて
そんなもんかい 哀しみなんて   (「へえ そうかい」より)


かなしみはふくれる
ふうせんのように
それがわたしのよろこび   (「うたうだけ」より)


謎のようなひとの裏切り
白いよろい戸が閉じられる   (「夏が終わる」より)


ジクソーパズルのひとかけら
過ぎた夏の風景のどこにもはまらない   (「いたずらがき」より)


私はあなたにおいてけぼり
後ろ姿を見ていたら
ついて行く気もなくなった     (「おいてけぼり」より)


人は本当はいつもひとり
でも嘘ついてほしかった
あの時だけ             (「土曜日の朝」より)


風はそっと押してくる
遠い誰かの手のように
明日へとふりむかせて        (「風」より)

  …ではみなさん、谷川さんの美味しい毒で免疫を!(尾崎)









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デジャビュ

2006年12月25日 00時43分50秒 | 詩の習作
時間は
部屋を暗くして
幻灯を見せつけられているような
錯覚であること

この風景は
知らんぷり
を決め込んだ
女の顔と
濡れて乾いた
そのボディー

すべてのこんにちわが
さようならであること

よそよそしさと
ノスタルジー

すべて失ったこと
すべては失われないこと

君に手を伸ばすと
君の肌は一枚の
布であった

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自由律俳句「生まれた…」

2006年12月24日 14時57分27秒 | 五行歌・自由律俳句
生まれた家のあった辺り犬に吠えられる

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モナリザ

2006年12月24日 13時47分52秒 | 短詩集
今裏切ったばかりの顔が
噴水の横で
モナリザの微笑み

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リアリティー

2006年12月24日 12時24分48秒 | 短詩集
赤ん坊と野良犬の
目の先にあるもの
金を数えられる目が
失ったもの
あらゆる懐かしさが
人に指し示している
ものの総体

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大坂

2006年12月24日 12時10分56秒 | 詩の習作
死んだような
児を背負い
機嫌が悪いと
首の辺りで
死ね という声をなだめて
ここまできた
大坂の
逢坂
しんどいことやった
誰と
アウサカ?

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五行歌「死者の腹の上…」

2006年12月23日 23時58分39秒 | 五行歌・自由律俳句
死者の
腹の上
生き別れた
右手と左手が
再会している

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嘘をつくあいつ

2006年12月23日 22時33分55秒 | 詩の習作
嘘をつくのは言葉です
いいえそれは嘘です
嘘をつくのは
いつも君と僕です
いいえそれは嘘です
嘘をつくのは
いつもそこにいる
あいつです
それが証拠に
君と僕が死んでも
たとえ地球が無くなっても
たとえ言葉が無くなっても
あいつは嘘を言いつづけます
いいえそれは嘘です
…と

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五行歌「蟻よりもくびれていたなあ」

2006年12月23日 21時56分19秒 | 五行歌・自由律俳句
逆光の海より
立ち上がる君は
ダイヤモンドをちりばめて
蟻よりも
くびれていたなあ

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詩でなくては

2006年12月21日 11時20分26秒 | 詩の習作
僕は生きながら詩を書いている
それなら詩でなくても
絵でもピアノでもよかっただろう
死にながら詩を書いている
詩でなくてはならなかった

生きている人間とキスをした
キスでなくても
福笑いでもカルタでも良かったのだ
死んでいる人間と
夜のように長いキスをした
キスでなくてはならなかった
コメント (2)
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一番長い、キス

2006年12月20日 00時17分17秒 | 詩の習作
12月の深夜
死んだ男とわかりながら
一時間キスを続けていた少年に
駆けつけた救急隊員は
お父さんは、死んでます
とは、よう言わなかった

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