尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

2006年08月29日 21時05分03秒 | 詩の習作
人を一日中
人の形をした 箱
だと思ってすごす
曇り日がある

啄木の歌のように
そのなかに
自分が閉じこめられている
という「牢獄」
の比喩としてではない

むしろ
ちょっと前まで
確かにそこに
誰かがいたのに
あわてて逃げて
空っぽだ
人間の箱は

詩を書いているのは
箱だろうか
逃げた人だろうか
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打明け話し

2006年08月22日 21時46分48秒 | 詩の習作
人とは
人の形をとりあえずしているが
中身はひとつの
虚しい打ちけ話し―
みたいなものだろう
僕には
打ち明けることはない
という打ち明け話だ

砂漠に生息する
トカゲの縞模様や
サボテンの突起以上に
人はどんな
個性的で重大な
秘密を持ちうるのだろうか
月や太陽に

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尾形さん

2006年08月21日 22時33分13秒 | 詩の習作
尾形さんは
僕の顔を見るたびに
僕の耳に白い顔を斜めにして
「松林の中には魚の骨が落ちている
 それを三度も見たことがある」
と囁くのであった
王様の耳はロバの耳
ということならば我慢できたが
ある日 とうとう
「それがどうしたの?」
と、真顔で答えてしまった
尾形さんは
もちろん
目の下を痙攣させ
ひどくがっかりして
二度と会ってはくれなかった

君の場合はどうだったのだろうか
親友と別れなければならなかった
理由は
松林の中の魚の骨
こんなものではないかな

吉野さんが
おっしゃるとおり
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうかいい

その後悔のために
僕は死ぬとき
父や母や妻に感謝した後
尾形さんの見た
雨に打たれている
魚の青い骨のことを
一番最後に
思い浮かべるに違いない


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若嶋眞吾著「もう一つの『知』」

2006年08月20日 20時21分19秒 | 読書記録
若嶋氏の著作の動機も、その論の展開の方向性も明確である。
コスモロジーとは、誰もが既に抱いている世界観・宇宙観であり、それは人生を幸せにするものでなくてはならない。
しかるに今日の社会と時代を覆う利己的な閉塞感は、科学主義的なコスモロジーから一方的に影響を受けた結果ではないか、ということが、この本の知的冒険旅行の出発点になっている。
我々が盲信してしまった「因果律」に対して「感応律」をアンチテーゼとして立てた若嶋氏の熱い論述は、今後我々の思想と文化と生活のために、必ず覚えられるべき卓見である。理解されにくい事を承知でさらに付け加えると、迷える時代の「核心」を正面からついたものである、ということだ。
 通読して実に読み応えのある本だった。座右においてパラパラめくり目にとまったところから、東西のコスモロジーについてトピックス的に楽み、知見を広めることも、間違った読み方ではないと思う。
コメント (2)
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ドン!

2006年08月20日 19時18分23秒 | 詩の習作
我が家の便所のなかで
小便を垂らしながら
ドン
と自分で言って
花火を上げることがある

季節が終わりました
ので

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2006年08月20日 19時03分19秒 | 詩の習作
海水客の去った海が
雲の影に
入ったり出たりすると
横たわる女の胸元に
見えることがあった

その頃
僕がぼくに
渇いていたように
たしかに海は渇いていた

彼女は苦い自分を
こくりと飲んでは
さらに乾き
遠く霞んで見える
腕のような島影に
潮騒の息づかいをして
あこがれた

水平線を過ぎる
船が
ブローチのように
光った


  (8/18アップのものに手を加えました。これを決定稿とします)




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きつい抒情

2006年08月19日 22時08分38秒 | 詩の習作
新しい
抒情のしぐさで
こころの
果てに立てかけた
ガラスを割ってみる

きらきらと
降りそそぐ
この粉末が
新しい

かな

車内では
前の席の
全員が
きつい
顔して
メールを打っている
あたらしい
きつい
抒情を

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面影

2006年08月19日 00時19分52秒 | 詩の習作
面影って
なんだろう

泣くなよ

今この目で
見えて
今聞こえて
今触れるっことのできるもの
すべてが
ぼくらの
面影のすべて

たとえば
コーラの一杯
シュワー
と跳ねている
二酸化炭素の気泡


冷蔵庫の
底に流れる
見ることのできない
谷川

面影
この世の

泣くなよ

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notebook

2006年08月18日 00時25分51秒 | 詩の習作
消しゴムを
使って消される
訳じゃない
ピストルを
使って消される
訳じゃない

カスもでないし
音もでない

静かに
きれいに
たやすく
子供は
大人のまぶたで
消されてしまう

だから
君のノートも
僕のノートも
こんなに
白紙なんだ

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触覚

2006年08月17日 23時38分53秒 | 詩の習作
ころころ
秋虫みたいに笑っていた女が
座り直して
ちょっと真顔になって
尋ねるんだ

ふーん、それから?

なにを隠そう
その
それっから
というのが
僕の額には
はえてないんだよ…

それから?
って聞かないでよ、ね
君もまた
その二本の触覚で



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あいうえおの旗

2006年08月17日 21時47分59秒 | 詩の習作
空に一本
痛い痛いと
旗のはためく
声を上げるのは
血と肉と骨
で出来た僕の
人差し指
ではありません
ましてや空よりも
もっと虚しい生い立ちの
こころ
なんぞではありません
あいうえお
の組み合わせで
偶然出来た
一行

一本、立って
鳴って
鳴っているのです
時の風に

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蝉の声

2006年08月16日 21時57分02秒 | 詩の習作
蝉時雨のなかには
ついに笑わなかった
わたしの赤ん坊たちが
隠れている
蝉時雨のなかには
ついに泣かなかった
わたしの赤ん坊たちが
昼寝している
わたしの赤ん坊たちは
この世の人類の数より
多いだろう
それゆえに
わたしは
木漏れ日に激しく
揺すぶられながら
林の中の
汲まれることのない
一本の深い井戸のように
蝉の声を
冷たくなって
聞き分けねばならない

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龍よ

2006年08月13日 21時10分56秒 | 詩の習作
夏の盛り
ではあるけれど
働くことと
死ぬことと
その他に
たいした用事がない
わたしなので

舞台裏の
龍よ
この晴天を汚す
むらさきの
雲吐く煙草を
一本
くださいな


(初出、8/11「むらさき」を改題・加筆)
コメント (1)
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ほーい

2006年08月13日 20時55分19秒 | 詩の習作
ほーい
ほーい
と、あれは
山火事ではない
ほーい
ほーい
と、あれは
火の玉ではない
逃げているわたしの
後ろの方へ投げた
夢の玉です
追ってくるものの
名はなく
姿も知りません
知っていることは
彼は夢を食うことと
夢を食い尽くせば
わたしに追いついて
ゲームセットの
ゲームだということです
これは
ほーい
ほーい
の、ゲームです

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あたらしい男

2006年08月11日 21時03分42秒 | 詩の習作
かみさまを
みんなでなぶりごろしにかかって
二百年…
わたしは
あたらしい男である

瀕死のかみさまなしに
やってはいけない

人という人が
かみに這う
ムカデに見えます

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