尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

日本歌曲コンクール課題曲「雪の音」

2007年08月28日 23時53分32秒 | みなさんへ・その他

第16回 日本歌曲コンクール
声楽部門本選会(公開演奏会形式)
が9/8(土)下記の要領で行われ、
予選を勝ち抜いた方々(14名)によって、三人の作曲家の方に作曲していただいた尾崎の「雪の音」も、それぞれ課題曲の一つとして歌われる予定です。
東京近辺の方で歌曲に興味のある方は、よければ足を運んでくださいね。

    (記)

日時 2007年9月8日(土)
開演(開場)時間 13時30分開演(13時開場)
表彰式 18時頃予定
会場 東京文化会館小ホール

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放心

2007年08月28日 00時20分21秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
鏡のなかの
あの白い人は
野菜のような人
世の中がほんとうに怖れている人
言葉を忘れた人
嘘と争いを望まなかった人
そんな人は
今でも
お金を見せると泣いてしまった

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十個の月

2007年08月26日 23時34分36秒 | 詩の習作
今日一日カメラを
ひとつの心臓のように抱えていた
その指をそらしてかかげると
十の爪が
十個の月のように
眼からとても遠くに登る

月と月の間には
風が吹いているらしい
月を組み合わすと
宇宙の距離が埋まり
あたたかである

生きなければならない
理由は
海にも山にも都会にも
顔にもどこにも映っていない

シャッターを切る理由は
そのつど
月の神経が知っている

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2007年08月24日 01時16分27秒 | 詩の習作
「底」



生まれたらすぐ
羽ばたきのしかたを
忘れたけれど
君だって
落ちる夢だけは
見つづけているんじゃないか?

つまり翼は失っても
今なお僕らは
一枚の羽根ではあるのだ

生きるとは
なんと深くて届かない
底なのだろう

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あげは蝶

2007年08月22日 22時35分23秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
  あげは蝶


忘れたいことが
たった一つの手荷物
であるような旅がある

旅の途中 
深い峡谷に架かる吊り橋があり
渡り口の小さな石碑には
 〈大正何年何月何日
  何々村の誰それが落下した〉
と刻まれていた

人ひとりがやっと通れる幅で
高所恐怖の僕は向こうから人が来れば
どうかわせばいいのだろうかと
気が気でない
目に映る生き物は自分だけ
姿のない鳥が鋭く鳴き
けたたましすぎる蝉の鳴き声は
むしろ鳴かぬに等しく
谷は不気味に静まりかえっている

前だけを見て一足ごと
雲を踏むようにして渡っていくと
中ほどで同じく雲を踏む歩みの
あげは蝶に対面した
 (蝶ならわざわざ
  橋を渡らなくても良いものを)
僕の耳を魂の速さで掠めたとき
たしかに 
手負いの重い羽ばたきを聞いた
それは鎧の擦れ合うような
鈍い金属音だった

汗だくになって渡りきる
もうふり返らない
後ろのことは山も谷も忘れた
無数個の樹の瞼が開かれ
僕をまん中にして
再び激しい読経が始まった
コメント (2)
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空を抱えて

2007年08月21日 23時53分51秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「空を抱えて」
      


口先の時代はかように寒い。僕らの饒舌から失
語へ落ちるこの切実さはなんだろう。詩はたち
まち殺されている。だから君、これは詩ではな
いぞ。

言葉の代わりに僕らの空をつくろう。二本の腕
を前にさしだし輪をつくる。輪の平面は水平を
保つ。また指先と指先の間に隙間があってはな
らない。見えないものがこぼれるからだ。奇妙
な円の姿勢を君が維持することを望む。その奇
妙な姿勢こそが、君の現在の位置だ。

風が来るまで待て、一分、一時間 、一年、ある
いは一生。運がよけりゃ、風は腕の内輪を循環
しはじめる。冷却の結果、幾分青みがかった気
体の円筒が現象するだろう。怖れず頭を差し入
れごくりと飲みたまえ。このうまさが君の空だ。

君が抱える垂直の井戸は、地球を突き抜けてい
る。断言しよう、これが君の空ではないとした
ら、そもそもこの世には空がない。虚無と交接
するような、君の奇妙な位置の背後から『影』
が近寄るだろう。

影は囁く。「君の空はどこにもない」
ゆっくり振り返る時、鏡に映った君のように奴
も振り向くだろう。すなわち実験は終わった。
こうして僕らは生き延びてきた。詩は黙って殺
されてやる。


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豆の木

2007年08月20日 10時13分10秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
自分が死ぬということを
納得できかねて
ジャックの豆の木のように
ベッドから空に伸びてきた
あなたの腕を
雲の上で
巨人のように抱いた

   *

その日のために
あなたの名前があったのだろうか
あなたの名前を呼んだ
二度まで瞳で答えてくれた
三度目 
答えはあなたを連れて
帰ってこなかった
コメント (3)
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ツリー

2007年08月16日 22時27分38秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
  ツリー

 
朝 
螺旋のかたちで
降りてきた木の葉を
光りに透かすと        
もとの木のデザインが
エッチングの技法で
刻まれている              
                    
お昼休み
レントゲンのバスがきて
白衣の人は言う
ここに立って 
あなた動かないで
息をすって もっとすって
息をしないで 
しないでったら
はいっ!

 ふぅ

四角いカメラを丸抱え
小さな乳房つぶしたけれど
明日になれば
透かされているかしら
白と黒の命の木
暴かれているかしら


一日の終わりに
天井の明かりをシャットダウン
パソコンのモニターが遅れてプシュ― 
するとこんな闇に立っていたよ
朝から

 あなた息をしないで

叱られた子供のように
自分で言って発熱し
ほの白に灯る わたしはツリー
積もらない
木の葉降っている

 ふぅ ふぅ














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2007年08月15日 09時08分52秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「あ」
   


おしゃべりな人々の間では
むしろあなたは「沈黙」と
呼ばれてしまうけれど
今日を始める私のために 
明日を語ろうとして最初が出ない
思いのみ溢れて 
あなた咳き込んでしまった

ランチの後で
友への私の嘘を
あなたの耳は数えていたね
優しく 百一 百二
陽だまりの猫など見ながら
百と三

せめて友よ
黄昏には「あい」を歌おう
けれどあなただけ
あ のところで
いきなり失語する
茄子紺の空に張り付く
永遠
あ!
 
みんな大好きなのに 
魚のように 
木のように 
一日誰とも喋らなかった

あなたは失意?
いいえ十の字に
おかれたα(アルファ)
もだえる希望

わたしたちの
言葉のはじめ

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曇り日

2007年08月15日 01時22分46秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「曇り日」



花屋の花より
野草がいい

歌よりも
雨を聞きたい

真実よりも
あなたの嘘を懐かしむ

友よりも
去った人を訪ねたい

木々の影の
やわらぐ日

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星も都会も

2007年08月15日 01時15分00秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「星も都会も」



         ほしもとかいも
      ものすごいスピードで
        のぼっていくとき
         ひとりぼっちで
         おちてゆくひと

       そのひとにおいつき
   ゆっくりおはなしできるのは
     かなしみをおもりにして
         おなじそくどで
         おちてゆくひと

           かみのけを
     ほうきみたいにさかだて
ひふ と けっかん をめくりあげ
    め と はな と みみを
        ふきとばしながら
       ふたりわらっている           
           はなびちる
         キスをしている
        むじゅうりょくの
       ブランコのセクスも
            ためそう

          はてしのない
    よろこびがおちてゆくとき
   そのよろこびのかなしみには
           そこがない
  とかいは うえのほうでほしだ


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なんどでも

2007年08月15日 01時06分09秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「なんどでも」



こらえきれず
あなたが
泣き出してしまうと
死んであげるよと
後ろから
言ってあげる

なんどでも 
死んであげるよと
なんどでもなんどでも
言ってあげて
ついにあなたが
笑い出すと

こうして
右の手が
左の胸を押さえ
なんどでも
死んできたのだと
ついに僕は
思い出す

黒い木から
スズメが
飛びだす明け方に



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シャボン玉

2007年08月15日 00時57分44秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「シャボン玉」



生きたいことと
破滅したいことが
どこまでも
区別できないで
あなたは
回った
 
薄い皮膜に
世界と
笑っている僕と
虹まで貼りつけて
あなたは
光った
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僕の犬よ

2007年08月15日 00時45分28秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「僕の犬よ」



春が来て
その次のページも
また春で
眠くなるような
春ばかりを パラ パラ
めくっていると
ハラリ そこに
はじめての夏があった

というような
白い雲と青い空の下で
僕の犬は
愚痴もこぼさず
相談もしないで
あっさりと 死んでしまった

君のいない季節はめくられ
なんどかそんな夏のページを
パッサリ 読み飛ばして
しかし 今日また
はじめての夏に
ハラリと出会った

この景色のどこを探しても
僕の犬はいないが
ぽかんとした空に
君の悪口を
大声で言ってみよう

君は人がよいのに
とうとう言葉は
三つだけしか
しゃべれなかったなあ

お腹減ったよ
遊ぼうよ
そして
あなたが好きだよ

僕の犬よ
僕はまだ
君の生きた何倍かを
生きなければならない
幾万語も駆使して
おまけに
訳のわからない嘘を
たくさんついて

だからもう一度
この青空の下に
ぬっと現われ
駆け寄ってきて
ほんとうのことを
言ってほしい

僕の白くて
丸くて小さな犬よ
あなたが
好きだよって 

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葉緑素

2007年08月15日 00時37分21秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「葉緑素」



私のなかには
無口な植物がいて
語っていると
その葉が
次第にうなだれていくのが分かる
立派なことを聞かされると
小学生のように
しなだれていくのだ



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