尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

ロビンソンの哲学

2008年05月03日 01時15分32秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
ロビンソン君へ

気がつくとみんな夢の国の
ロビンソンだったね
つまり夢の海で難破したんだけれど
たった一人のロビンソンだから
きょろきょろしても無駄
ほんとうの道徳が必要なんだ
神のためではない
誰のためでもない
ロビンソンの
ロビンソンのための哲学だ

たとえば
朝起きたら指で歯をみがくこと
とかね、でもねロビンソン君
ガリバー君が羨ましいね


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声だ

2008年04月19日 00時06分06秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
声だけを
聞いていることがある
音ではない
歌でもない
言葉でもない
意味ではない
もとよりあなたの
姿ではない
声だ

しゃべらなくても
その間じゅう
あなたは
声だと思う


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2008年04月17日 00時16分00秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)

喪神の時代にあって
夢はわたくしたちの
最後の寺院である

天井は
宇宙の果てのように高く
液体のような濃い闇によって
満たされている

誰もいない
聖句も忘れた
いびきのような
祈りを祈る

虚しさのロウソクに
火を灯し
私の孤独だけを捧げる

祈りの間だ
私の体を魚が泳ぎ
トカゲが這い
小鳥が飛びつづけ
夜明け
ようやく正されるのだ

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フォトポエム「さかなたち」

2008年04月15日 00時00分15秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)

「さかなたち」


ひるでもない
よるでもな

あおいひかりに
あつまってきた
ゆびのさかな
かたちで
おしゃべりしてる

パパでもない
ママでもない

そのかおは
やっぱりおさかなだ

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フォトポエム「観覧車」

2008年04月09日 22時47分46秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
花散らす雨の夜には
あなた
どこか
命がけなんだ

赤い観覧車の写真だって
ほらっと言って
天井までまっすぐくゆらせた
煙草の煙だって
セックスだって
この
いびきだって

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お前は詩じゃない

2008年03月20日 15時18分20秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
本屋の棚に
詩集のふりをして
僕の詩が並んでいる

うきうきしたけど
半年経っても
誰も買わない

恥ずかしい
ついに
お前は詩じゃない

本棚に手をのばし
他人のふりをして
買う人の列に並んだ

この世から
詩集が一冊消えてゆく
それは
トリックのない
魔法のようであった

レジがチンと
声を上げたとき
詩が生まれた

人が死ぬ

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立っているのは

2008年03月14日 22時46分39秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
立っているのは
誰ですか
骨ですか
血ですか
僕ですか

立っているのは
誰ですか
陽炎ですか
幽霊ですか
思い出ですか

歩き始めたのは
誰ですか
愛ですか
愛ですよ
愛ですか
愛ですよ

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詩とは

2008年02月27日 23時32分44秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)


努力ではない
端的に資質である
0(ゼロ)にされる
資質である
1として立ち上がる
愚鈍である
∞(無限)へと
2、3歩みはじめる無謀である

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歓喜の歌

2008年02月17日 14時05分32秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
「歓喜の歌」


 *O Freunde, nicht diese Töne!
 sondern laßt uns angenehmere anstimmen,
 und freudenvollere.
 
 おお 友よ この調べではない!
 もっと快い、歓びにみちた調べを
 歌いはじめよう

クリスマスになると
フルオーケストラを伴奏に
千人も万人も絶唱

あなたがたの
怒濤の歓喜が過ぎ去れば
雨上がりの朝
光を待ちわびていた
わたしどものさえずりを
聞いてください

これは
二個の点ではありません
わたしの耳です
その耳に
人と人
人と
生きとし生きる命の間に
絶対の線をひく
あなたがたの喜びは
冷え込む記憶のなかで
おごりに
響いているのです

 O Freunde, nicht diese Töne!

人よ
わたしは
冬のスズメです


   (*、ベートーヴェン・交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」より)

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林檎、林檎、林檎!

2008年02月17日 00時22分33秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
人を愛するまで
人は死を怖れはしても
死に触れることはなかった

人を愛して死にたくなるのは
それ以上のものが
この地上に見あたらないからだ

アダムは苦い種を吐き出しながら
確かに言ったのだ

ついに僕らは神にはなれなかった
死のうよ
そしてイブは言い続けているのだ
死にましょう
あなた
でも

もっと林檎を食べてから

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相対性原理

2008年02月16日 00時19分04秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
相対性原理


風に
凧がまわると
糸でつながった
僕までまわる

おーい
凧よ

僕が
青い壁に
君をあげているのか
君が
黒い壁に
地球を
あげているのか?

 


 (昨年の同名の、もとの詩は…)

 元旦
 凧が
 糸をぴんと張り
 地球を一個
 揚げている

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宿命の釘打ち師

2008年02月15日 22時36分33秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
夜なのか昼なのかわからない
といって朝でもない夕方でもない
それが少しの不思議につながらない
そんな世界があるだろう

道を歩いていると
丸い木の柱が立っていた
電柱でないことは
道のど真ん中に立っていること
電線がないこと
でほぼ明らかである

いつの間にか僕は
コンコン音を響かせながら
柱に釘を打っていた
その無益な行為が
まったく不思議ではないかのように
打ち続けていた
空の(壁の向こう)側から
お前は「釘打ち師」
という死んだ父のような声がした

そうか釘打ち師なのである

夢であることに
気がついたが
気がついたと思ってはいけない
そういう気がした
そのために
同じリズムで
釘を打ち続けていた
ずっと僕はそうしてきたような
気持ちがした
悲しさがこみあげてくるけれど
夢から覚めるのが
怖かった
それは
釘打ち師であるからだ
釘打ち師の宿命なのだ

君が君であることを
君の宿命だと思っているように
夢から覚めない限り
君は夢中になって君を打ち続けるように

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まんだら

2008年02月13日 22時35分21秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)

僕のふりをしたあなた
(気安く呼んでもいいのかしら)
スカートを
朝顔のように拡げて
木陰に座り込み
木洩れ日のような
美しい笑いを
笑っているとき
その不吉な不安にかられた
世界の裏側で

今日もまた
僕のふりをできなかた
僕が
まんだらに
貧乏揺すりを
揺すり続けているよ
何者でもない
自分の至福を確信して
こんなふうに

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情けない顔

2008年02月12日 23時57分23秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)
若いころ
自分が思うようにならず
幸せを憎んだことがある
あらゆる人間が
エゴのために生きている
と思っていた

ある日
一匹の盲導犬が
目の不自由な人とともに
混んでいる電車に
乗り込むのを見た

その犬が
テレビで見るような
立派な体格をした
美しい犬であったなら
そんなことは
起こらなかったと思う

その犬は
痩せていたうえ
手入れがわるく
汚れた毛並みをしていた

何がおこったのだろうか
プラットホームに残された僕は
まず煙草に火をつけたと思う
それから
煙を深呼吸したと思う
囲んでいる人々を
見上げているだろう
情けなさそうな
けれど
底抜けにお人好しの
あの顔が出てきて
十年ぶりの
涙がぽろぽろ落ちてきた

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太陽にまるっちいくしゃみをして (決定版)

2008年02月12日 00時28分41秒 | 決定稿集(カメラオブスキュラ)

[太陽にまるっちいくしゃみをして]
 
                                
                  尾崎まこと



   
   いつか
   あなたのために
   ほんとうの詩を
   たったひとつ
   書いてみたい

   その朝は
   生まれたばかりの
   赤ん坊が
   初めてするような
   あくびを
   ひとつ
   するだろう
   
   それから
   外に出て太陽に
   まるっちい
   くしゃみを
   ひとつ
   するだろう

   くしゃくしゃに
   丸まった
   この詩と
   あの詩と
   つまり書き損じた
   千の詩
   二千の詩
   三千の詩と共に
   喜んで
   ほんとうの
   旅に出ようと思う

   その日のために
   今夜も
   ひとつ
   丸めたね




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