尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

夢の交差点

2008年07月23日 23時05分34秒 | 決定稿集
「夢の交差点」


梅雨が
幾度明けても
日本には
明けぬものがある

今年も
人はついに
帰ってこなかった
飯を喰らい
今日の生をつなぐ私に
帰ってくるのは 
彼等の喰い残した
夢ではないか

交差点の手前
暖められたアスファルトの上
風がそよぐと
かげろうが揺れ
人よりも多く
夢が立つのだ

そして信号の瞳は

永遠に見ず知らずの
私たちは
儀式のように
渉りはじめ
静かに
まぶしく
銀色に
すれ違ってゆく

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四月

2008年03月30日 00時47分50秒 | 決定稿集
「四月」

坊やは背負った
ランドセルと一緒に
玄関を飛びだした

まばゆい太陽が
坊やの顔を
くしゃくしゃに丸めた

ママやパパよりも
微風(そよかぜ)に揺れている
パンジーたちにそっくりだ



2005年10月31日 / 自選詩集を改作

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くぼみの祭りだ

2008年03月28日 22時47分17秒 | 決定稿集
「くぼみの祭りだ」



なんの不思議もなく
今日という日のまた
暮れてゆくこと
その摩訶不思議
そのあきれた暗さに
人は人の数だけ
灯(あかり)をともしはじめる

その時地球は
球体ではなく
闇をためるひとつの
くぼみである

揺れているのは
消えていく焔だろうか
燃えだした闇だろうか
醤油より重く
溜まりくるものは
さむい魂だろうか
あつい身体だろうか
それとも
死にたい生だろうか
生きたい死だろうか

男と女の一番暗いところを
高くかかげ
此岸から彼岸まで
鬼火を斜めに飛ばす
天の吊り橋の祭りだ

天の川のさしだす
手の平に架ける
たとえようもない
こんな こんな こんな
こんなに揺れる
くぼみの祭りだ


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あ(講義用)

2008年03月22日 07時36分50秒 | 決定稿集
「あ」
   


おしゃべりな人々の間では
むしろあなたは「沈黙」と
呼ばれてしまうけれど
今日を始める私のために 
明日を語ろうとして最初が出ない
思いのみ溢れて 
あなた咳き込んでしまった

ランチの後で
友への私の嘘を
あなたの耳は
優しく数えていたね
百 百一 百二
陽だまりの猫など見ながら
百と三

友よ 
せめて黄昏には
「あい」を歌おう
けれどあなただけ
あ のところで
いきなり失語した

茄子紺の
空に張り付く
永遠
あ!
 
みんな大好きなのに 
魚のように 
木のように
誰とも喋らなかった
あなた
は失意?

いいえギリシャ語の
第一音
十の字に
おかれたα(アルファ)
もだえる希望

わたしたちの
母語のはじめ

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誰なんだろう(決定稿)

2008年03月10日 23時33分40秒 | 決定稿集


あなたは
誰なんだろう

みんな寝静まった
真夜中 
満天の星座が
天井であるような
大きな図書館で
一番つつましい
一冊を選んで
ていねいに
ページを繰っている
その温かな
指の持ち主は

  




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沈むラジオ(改稿)

2008年03月07日 21時23分40秒 | 決定稿集
熱い石に
耳を押しあてると
つまった水が
抜け
きゅっと鳴って
景色まで開ける

その黒い染み
ロールシャッハテスト
あなた すごく飢えてるよ
覚えておくのよ
その感覚

石の代わりに
白い乳房をあてたら
きゅっと鳴って
紡錘形の海中を
ラジオが
沈んでいった

女に飢える
ということは
はて
どんなことであったのか
腕の代わりに
記憶の神経を伸ばしても
届くことはない
塩辛い
八雲立つ
出雲の浜辺

海底へ
いまだ
到着しない
飢えている
神様のラジオ

その
波打つ
短波放送


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太陽にまるっちいくしゃみして

2008年02月06日 23時40分29秒 | 決定稿集

あなたのために
いつか
たったひとつの
ほんとうの詩を
書きたい

生まれた
赤ん坊が
初めてするような
あくびを
ひとつして
外へ出てみる

太陽に
まるっちい
くしゃみをして

くしゃくしゃに
丸まった
この詩と
あの詩と
つまり書き損じた
千の詩
二千の詩
三千の詩と一緒に
ほんとうの
旅に出ようと思う

今夜も
ひとつ
丸めたね




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八本指

2008年01月31日 22時30分30秒 | 決定稿集
   

   生きている
   指を十本
   前に差しだすと
   その間に
   差しこまれる
   透けた
   八本指よ

   君は
   誰?

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夢で会いましょう(決定稿)

2008年01月22日 09時38分04秒 | 決定稿集
 「夢で会いましょう」


きっと
むかしむかし
二人は
夢で会いましょう
と約束したのだろう

たとえば雨上がり
校庭の
ジャングルジムで

だから僕らは
パンをちぎって
ほおばっても
夢のようである

都会の
ジャングルジムで

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しゃぼん玉

2008年01月09日 23時34分00秒 | 決定稿集


「しゃぼん玉」



ゆっくりやさしく
閉じてゆくとき
上まぶたと下まぶたの
はさむもの
それは
とても小さなわたし

ぱっと開くとき
シャボン玉のように
破裂するもの
それは
とても小さなわたし



  (2007年01月02日 少年詩集「はさむのの」を改題・改稿しました)

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宇宙のパズル(新春版)

2008年01月01日 15時10分27秒 | 決定稿集

「宇宙のパズル」
          


今日は
かわいい小鳥のさえずりが
はじめて人の言葉に
翻訳できた日

ティル ティル
ティラララ ティラララ

宇宙のパズルが
解けたのだろう
次から次へ
人々の額が明るくなって
頬をふくらませ
手をつなぎ
鳥の言葉で
歌いはじめた

子供たちは
辞書をほうりなげ
検事は
六法全書をほうりなげ
指揮者は
指揮棒と楽譜をほうりなげ
兵士は
武器をほうりなげ

ティル ティル
ティラララ ティラララ



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どうどう(リメイク版)

2007年12月27日 22時14分35秒 | 決定稿集
「どうどう」


あなたとは
会うことはないと思います
すれちがっても分からないでしょう
それでも私はテレビや雑誌や友達が
あまり言わないだろうことを
むしろその反対のことを
あなたの心の黒板にくっきり
伝言したいと思います

愛とか夢とか希望とか
とても大切です
しかしもっと大切なことを
愛なんて夢なんて希望なんて
何もなくても
どうどう生きていきましょう

お猿だった大昔から
ほんの少し前まで
愛など夢など希望など
どこにもなくて
食べていたのは
そんな言葉ではなくて
野ウサギや芋を分け合って
生きてきたのです

辛いことにも負けず
けっこう仲良く
笑って暮らしていましたのに
あちこちの戦争で出来た
国境線をまねたのか
人と人との間にきつい線を引き
おれの愛だのお前の夢だの
おれたちの希望だの
やかましく言いだすようになってから
ご覧なさい
人と人とが共食いを始めた
じゃあないですか

言葉など食えなくても
恥ずかしくはありません
自分より
弱い人を食うほうが恥ずかしい
芋だけ食って屁を放ち
みんなを笑わせて
元気に生きていきましょう

黒板消しで消してしまう前に
もう一つ
そんなあなたは
とても優しいですから
愛とか夢とか希望とか
どうどう生きていく
あなたへの
ほんのおまけです

すれちがっても
わからないけど
またすれちがう人よ
さようなら


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凧 (リメイク決定版)

2007年12月26日 11時08分01秒 | 決定稿集
「凧」



あなたの姿は
とうとう
見えなくなったけれど
細い絆を
懸命に握りしめている
地上の
小さな手を信じる

風に煽られ
くるくる回っては
胸の結び目に
ピュッと引く
人差し指を感じ
僕はふたたび
青い階段を駈けのぼる


   (前より、わかりやすく素直に表現しました)



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誰なんだろう(決定稿)

2007年11月29日 23時59分51秒 | 決定稿集
「誰なんだろう」
             
              尾崎まこと



あなたは誰なんだろう
こんなに
赤茶けてしまったのに
終わりの方は
虫まで食っているのに
はじめの方は
失われてしまったのに

正午
生きるために
母だって
置きざりにした一冊を
黄昏
もう一度
手にしたあなたは

あなたは誰なんだろう
真夜中
星座が天井であるような
こんな大きな図書館で
一番みすぼらしい
一冊を選んで
ていねいに
ページを繰っているのは

恋人だって
読み飽きて
誰かにくれてやったのに
最後の最後
手放さないあなたは

あなたは誰なんだろう
いろいろ
書きなぐってきたけれど
ほんとうは後書に
ひとこと
さびしい
と、しか書いていない本なのに

東雲(しののめ)
金色の息をして
そこんところを
優しくなぞる人差し指の
あたたかい
その持ち主は

あなたは
あなたとしか呼べない
あなたは


 
  (これを決定稿としたいと思います)



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たとえば空の向こうがわ

2007年11月13日 00時27分11秒 | 決定稿集
たとえば
見上げる空の
向こうがわ

詩は 
何か
ではなく
誰か 
である

あなたを
必要としている
誰か
であり
あなたが
必要としている
誰か
である

わたしが
いま
このように
まっ青な
何者か
であるように

たとえば
見上げる空の
向こうがわ

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