尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

世界で一番美しい本

2006年07月31日 05時36分44秒 | 詩の習作
先生、これは
世界で一番大きな本
世界で一番美しい本です
という口上で
オペラ座の写真集を一冊
旅行用のキャリーに入れて
四国や山陰や北陸まで
売って歩いたことがある

山の中を行く列車の中で
旅の疲れのせいか
草木の緑が反転して
赤茶けて見え
どこからどこに向かって
走っているのかかわからなくなった

どこだか
わからないままに
僕はここにいるのです
と、もう会えない人に
つぶやいくたら
世界で一番美しい本の上で
泣けた






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襖(ふすま)

2006年07月31日 05時12分09秒 | 詩の習作
夜中
小便に起きて
襖の向こうに
父が立っているような気持ちがして
開かれない
三十年前に死んでいるので

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栗原隆「ヘーゲル」

2006年07月26日 23時55分50秒 | 読書記録
ヘーゲルの弁証法に、自己実現の活路を見出そうとする姿勢で書かれたヘーゲル哲学の入門書である。哲学に不案内な僕が云うからかえって説得力があると思うのだが、総論的・教科書的なヘーゲルの入門書が新書版であるので、それを一冊読んでから、これを読んだ方がわかりやすいだろう。

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オルゴール

2006年07月24日 22時58分06秒 | 詩の習作
扉を開けて部屋にはいると
懐かしいオルゴールが鳴り響く
この部屋が一つのオルゴールである
ぼくはオルゴールを聴いているのか
思い出しているのか
次第にいぶかしい

白い部屋のまん中に
黄色いイスだけが置かれてある
イスを見ているのか
イスを思い出しているのか
全くわからない

知らない人がイスに座る
あるいは知らない人が座っていたことを思い出している
…どちらでも同じだろう、倫理としては
知らない人と挨拶をかわす
この世の出来事のすべてが終わっていたとしても、
この景色が思い出であろうが夢であろうが
僕たちは挨拶をする
ちょっとはにかんで

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空中ブランコ

2006年07月20日 11時10分21秒 | 詩の習作
母の腕より解き放たれ
あんよ
のできたあの第一日目から
見えない錘(おもり)を地中に垂らして
一日をほっつき回った

あんよに疲果てると
水平線は女の二つの目を結ぶ
一の字であった

世界の結び目から
葉っぱのように
落下しつつ
錘を青い女の額に垂らし
おれの垂直線を揺すり
やゆよーん
ゆやよーん
ゆあやゆよーん
あなたの水平を
狂わすのであった

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奥歯

2006年07月18日 23時38分06秒 | 詩の習作
根しか残っていなかった奥歯を抜かれた
血止めの綿花をくわえて
生温かい風の抜ける地下道を渡った
(どこからともなく小鳥の鳴く声がしている)
極楽の小鳥を探してきょろきょろしていると
鴨のように尻を振りながら娘たちが僕を追い抜いた
ああいう丸いものは若いときに
理屈を言わず、詩にもせず
もっと触っておけばよかったのだ
麻酔もなしに最後に抜かれるのは
こういう俺という奥歯だ

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指紋

2006年07月18日 10時08分54秒 | 詩の習作
夏の舌の気配を感じ
ぞっとして
人々は歩みを止めた

街は黙りこむ
地球の
思い出が
声をあげたので

僕は見た
磨かれた空に
風の指紋を

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チロリン

2006年07月16日 20時04分04秒 | 詩の習作
涼みにはいったローソンで
チロリン
ふいに風鈴が鳴る
見あげると
エアコンの吹き出し口に
つるされている


思い出のない
企みだけの風鈴が
またチロリン
企みの果て
思い出だけになった
風鈴が
胸の頭上から
またチロリン

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キリエ

2006年07月16日 12時21分52秒 | 詩の習作
漢字と
ひらかなと
カタカナで
うすいこころを
切り刻んできた。
出るのは血ではない
野菜の葉のような
苦い汁。


雨上がりの
青い空に
貼り付けてみる。
僕のたましいの
切り絵。

乾いて
透き通ったら
もう死んだって
いいかい。
Kyrie…

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水晶体

2006年07月14日 21時32分00秒 | 詩の習作
冷えたガラスの内から
陽炎でゆらめく
正午の人々を眺めている
水晶体で
淋しさを感じる

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顔が

2006年07月14日 21時16分03秒 | 詩の習作
一人黙っていると
顔が背中になりそうで
これはやばいと
しゃべり出すと
背中におおきな顔が
現れる
誰かしら?

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赤い風せん

2006年07月11日 23時59分54秒 | 短詩集
手を
離したら
地球が
どんどん
飛んでいった

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2006年07月10日 23時59分01秒 | 詩の習作
人間は胃袋が進化した
とい説がある
つまり胃袋の入り口周辺が顔だ
出口が肛門で
脚は肛門筋のビラビラの
一部が発達したらしい
つまりあなたは
胃の入り口あたりで思考し
肛門で歩いているのだ
それはともかく
この説を鵜呑みにすると
腹を押さえて
われわれの実際の胃なる臓器から
もう一人の人間が生まれるとう
可能性に怯えなければならない
それはともかく
人間が胃の化け物ならば
戦争と殺人に明け暮れしている
人類というもの謎が
その胃液の性質から納得できるのだ

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ツタンカーメン

2006年07月09日 13時17分48秒 | 詩の習作
何のために
お前は生きているのか
この幼い質問を
昼間の労苦だけでは足りないと
風の吹かない眠りの中で
聞いてくるものがいた
目覚めると闇に
ツタンカーメンが横たわり
胸で組まれた黄金の腕は
発掘よりも
呪文を待っている

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2006年07月09日 12時17分17秒 | 詩の習作
どんなに不愉快でも
影を追いかけてはいけない
追いつくことはないから

影から逃げてはいけない
逃げおおせないから

できることは
影を踏みつけて
歩き続けることだけ

そのうちに
消えるだろう
僕らと共に

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